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2012-12-12up
雨宮処凛がゆく!
もうすぐ総選挙。の巻
11月末、新潟でお話させて頂きました。
衆院選、都知事選の投票日が近づいている。
12月16日、一体私たちはどんな光景を目にするのだろうか。そしてその時、どんな気持ちが込み上げるのだろうか。それは希望か、絶望か、それともそのどちらでもないものだろうか。考え始めると、不安と期待が交互に押し寄せて、なんだかとっても落ち着かない。
東日本大震災から1年9ヶ月。この国がもう終わってしまうのではないかと多くの人が恐怖したあの日以来、初めて迎える総選挙。
原発、消費税、TPP、そして復興、基地問題、雇用対策、貧困問題、少子高齢化など、この国はあまりにも多くの課題を抱えている。
そんな総選挙から遡ること2ヶ月の10月後半、スイスの金融大手クレディ・スイスによってある数字が発表されたことをご存知だろうか。
それは、日本は純資産100万ドル(約8000万円)以上を持つ富裕層が世界で二番目に多い国、ということ。数にして、360万人。しかも前年よりも8万3000人も増え、2017年には540万人に達すると言われている(共同通信2012/10/22)。
また、5000万ドル(約40億円)以上の純資産を持つ「超富裕層」に至っては、日本は3400人で世界4位。
一方、「民間給与実態調査」によると、98年から09年にかけての11年間で、民間の給与は30兆円減っているという現実がある。日本経済が停滞を始めてから20年。その間、格差は広がり貧困はより深刻化し、この国はゆっくりと沈んでいるように見える。が、着実に富裕層は増え続けているという矛盾。そんな中で叫ばれる消費税の増税。が、こういった現実を知るたびに、なぜ「お金持ちに負担してもらおう」という話にはまったくならないのか、謎が深まるのは私だけなのだろうか。
選挙を前にして、書きたいことはたくさんある。
が、いろんなことを書くととっちらかってしまいそうなので、私が一番恐れていることを、書きたい。
恐れていること。それは、この数年、様々な分野の人たちが取り組んできた活動が一気に蹴散らされてしまうような結果にならないかということである。
たとえば今月7日、自殺者が15年ぶりに3万人を下回るかもしれない、という報道がなされたことは多くの人がご存知だと思う。このニュースを知った時、私はなんだか、胸が熱くなる思いがした。といっても、毎日多くの人が自ら命を絶っているという現実は変わらない。人の死を「数」で語ること自体、とても不謹慎なことだと思う。だけど、私はこの報道で、ライフリンクの清水さんの顔が浮かんで思わず胸が熱くなったのだ。04年に「ライフリンク」を立ち上げ、自殺の問題にずーっと取り組んで来た清水さんは、鳩山・菅政権下で内閣府参与をつとめた人だ。06年に施行された「自殺対策基本法」も、清水さんなしでは語れないだろう。それから、6年。やっと「年間3万人が自ら命を絶つ」という異常な状況が、終わるかもしれないのだ。
清水さんをはじめとして、この問題には多くの人がかかわってきたことを知っている。本当にたくさんの人が、損得など関係なく、ただ「自ら命を絶つ人を一人でも減らしたい」という思いから、地道で地味な活動を続けてきた。それが「ライフリンク」設立から8年経って、やっとほんの少し、実を結ぼうとしているのだ。8年という月日は、長い。だけど、すぐに「結果」が出る「万能薬」などこの世には存在しない。結果に結びつくまでにはどうしたって時間がかかる。そして多くの人たちがこれまで、気が遠くなるくらいの時間を、小さな石をひとつずつ積み上げていくような活動を続けてきた。私自身はこの6年、貧困問題にかかわり続けてきたし、3・11以降の脱原発デモや官邸前行動にしても、小さな石をひとつずつ積み上げていくような地道な取り組みだ。そうやって、多くの人が積み上げてきたものが今回の選挙結果によって蹴散らされてしまわないか、それが一番心配なのだ。
その心配の背景にあるのが、各種世論調査での自民党優勢という状況である。
そんな自民党は、公約にいろいろトンデモないことを書いているが、貧困問題に取り組む者として注目したいのは「政権交代後、急激に肥大した生活保護の見直し(給付水準の原則1割カット)」だ。
が、「急激に肥大した」と言っても、生活保護の捕捉率はいまだにわずか2〜3割。「民主党政権になって増えた」と言いたいのだろうが、その背景には自民党政権時代の雇用政策の失敗や格差の拡大があることは言うまでもない。そもそも、「生活保護受給者が増えた」ということはいつも「悪いこと」のように語られるが、今の状況で受給者が増えなければ、「餓死者」や「自殺者」「凍死者」が増えるということは誰の目にも明らかではないだろうか。しかも「給付水準の原則1割カット」とは、一体何を根拠にしているのか?? 「なんとなく1割」とかで決めたんだったら、「人の命や生活」というものをないがしろにしすぎている。
「日本を、取り戻す」。自民党のポスターには、数年前に政権を投げ出した人の顔の隣にそう大きく書かれている。が、原発を推進しまくり、地震大国のこの国に54基もの原発を作り、あれだけの事故が起きて国土の一部が失われるかもしれないという状況に一番の責任があるのにそれでも決して「脱原発」の方向に進まない――そんな政党が何をどうしてどうやって「日本を取り戻す」のか、まったくもってブラックジョークにしか聞こえないのは私だけではないはずだ。
今の問題山積みのこの日本において、「一気に何かを解決できる万能薬」はないし、「すべてを一発逆転させてくれるヒーロー」も存在しない。それを待ち望みたくなる気持ちもわかるが、それはとっても危険な賭けだ。
だけど、どこかで楽観もしている。なぜなら、この1年9ヶ月、多くの人たちが「直接民主主義」デビューしたからだ。この国の「直接民主主義」が機能し始めて、初めての総選挙、そして都知事選。地道に地味な活動に取り組んできたような人にこそ、私は期待したい。期待したいというか、少しでもよりマシな未来のために、一緒にやっていきたい。ちゃんと小さな声に耳を傾けてくれるような人。
とにかく、一週間後には、この国は変わっている。
「もう国外逃亡したい」とか、そんな気分になってませんように・・・。
中野の脱原発デモで宇都宮さんと。ファッションセンスが「地道」で「地味」すぎる!!
雨宮さんが抱く「不安と期待」、
おそらくは多くの人が共有するものでしょう。
私たちの社会にとって、おそらくは大きな分岐点となる12月16日。
やみくもに「一発逆転」を求めるのでなく、
未来につながる冷静な一票を。
飽かずあきらめず、そう呼びかけたいと思います。
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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