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2012-06-06up

雨宮処凛がゆく!

第231回

住民による脱原発杉並宣言! の巻

杉並公会堂大ホールを埋め尽くす参加者

 6月2日、杉並公会堂・大ホールで開催された「住民による『脱原発杉並宣言』集会」に参加した。

 私は「素人の乱」松本哉さんと「原子力ムラVS 有象無象」というタイトルで対談。当日は加藤登紀子さんが飛び入りで駆けつけてくれて歌ってくれたり、福島から避難している人の発言があったり、鎌田慧さんの講演があったりと盛り沢山。集会の最後には、「私たち杉並区住民は、原子力エネルギーとの決別を宣言します」という一文から始まる「脱原発杉並宣言」が読み上げられたのだった。

 杉並の動きについては、この連載でも書いた「カオスだった『脱原発杉並(副題は自由)』デモ!!」 「全原発停止! 『祝! 原発ゼロパレード』!!!」 などを参照頂ければと思う。

 とにかく、今年に入ってから「有象無象」としか言いようのない杉並住民たちが「脱原発」という一点で連帯し、行動を起こしまくっているのである。世代や家族構成、職業、思想信条などすべてがバラバラの、「杉並区に住んでる」というだけの共通点しかない人たちが、一緒にデモを企画し、開催し、そのたびに数千人を集めているという快挙。ちなみに地元民によるデモだから、地域密着ぶりもすごい。商店街のお菓子屋さんがデモでお菓子を配ってくれたり、デモコース上に自分のお店がある人がデモ隊に「トイレはこちら」などのプラカードを出して案内してくれたり、「デモ割」があったり。

 「デモ割」。それはデモに参加した人に適用される「割引」サービス。例えばひとつのデモに数千人も集まれば、解散地点近くの飲食店はその夜どこも満席といった状態になる。ある意味、すごい「経済効果」を生み出すのだ。そこに目をつけた人々が、「デモに参加しました」と言えばビール一杯無料などといったサービスをしてくれる飲食店を開拓。それが「デモ割」だ。中には「廃炉までワイン一杯無料」などの店もあるというから素晴らしい。

 さて、そうして今回、杉並住民たちは「脱原発杉並宣言」をブチ上げてしまったのである。

 宣言文には、以下のような言葉が綴られている。

 「命あるものの犠牲のうえに作られる原発は、もうたくさんです」「過去は、変えることができません。でも、未来は変えることができます」

 そうして宣言文の最後には、3つの項目。

 「1 現在停止しているすべての原発の再稼働に反対します。
 2 原発の新・増設を中止し、すべての原発を廃炉にすることを求めます。
 3 電気に頼りすぎていた暮らしを見直し、安全で再生可能なエネルギーを中心にした政策への転換を求めます。」

 これを杉並の住民たちが勝手に宣言してしまったというところがすごい。ある意味で、再稼働に突き進もうとする野田政権への「宣戦布告」みたいなもんである。

松本さんと対談

 ちなみに「地域住民」という言葉は、私にとっては長らく否定的なニュアンスを含むものだった。別に実害にあったわけじゃないけど、「やたらと人の生活を監視する近所のオバチャン」的な存在に代表されるような、「世間の常識をふりかざす存在」というようなイメージがあったのだ。しかし、ここ最近の杉並の動きを見ていて、「地域住民」の底力に打ちのめされている。前にも書いたが、原発は地域を分断しないと決して建設できない。様々な利権をちらつかせ、対立を持ち込み、人々をいがみ合わせることで建設されてきた原発。だからこそ、今の杉並のような場所には決して作れない。そして日本中がそんな状況だったなら、この国に54基も原発が存在することはなかったかもしれないと思うのだ。

 これらの動きに参加して私自身、得たものは多い。しかし、一番嬉しかったのは、「真っ当な大人」たちとたくさん出会えたということだ。

 真っ当な大人。大人としての責任を当たり前に果たしている人たち。「大人の条件」と言う時、この国でやたらと強調されるのは「経済的自立」だったりする。しかし、そんなことよりもずっと大切なことがある。それは「自分は次の世代にどんな社会・世界・未来を残したいと思い、そしてそのために、できる範囲で何をしているか」だ。経済的自立なんかよりも、もっとずっと大切なこと。大人としての、最低限の責任。それを当たり前に果たしている人たちと、本当にたくさん出会った。

 こんな杉並の動きに触発されたのか、隣の中野区でも真っ当な人たちが立ち上がり、デモなどを企画している。ネーミングがまた素晴らしい。その名も「脱原発中野も」だ。「脱原発中野」ではなく、「も」がついているのが、ちょっと出遅れた感への悔しさが滲み出ていて好感が持てるではないか。7月28日にはパレードを企画しているという。ちなみに「脱原発杉並」のデモではカラオケカーなどが登場したわけだが、「中野も」では中野という土地の特徴を生かし、コスプレ隊や「お笑いカー」の出動も考えているという。

 42年ぶりに日本中のすべての原発が停止して、約一ヶ月。

 有象無象の人々の作戦は、こんな形で広がっている。

 あなたも、自分の地元で何かやらかしてみてはどうだろうか。日本中に「脱原発○○」なんてのが広がり、それぞれの地域の住民たちが「脱原発宣言」を出し、そしてオセロの白と黒がひっくり返るように全部が「脱原発」に埋め尽くされていったら。

 それって、ちょっとした勇気で実現することなのかもしれない。

集会に駆けつけてくれた加藤登紀子さんと。

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原発のある地域、建設計画が進んでいた地域では、
必ずと言っていいほど「原発によって地域が分断された」話を耳にします。
であれば、それを逆手にとって、
地域ぐるみで原発(だけではないですが)にNOを突きつけていくこともできるはず。
雨宮さんの言うように、ある日オセロが「逆転」する日が来たら、と考えると、
それだけでワクワクしてきます。
あなたの住む地域でも「脱原発○○」、どうですか?

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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