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2012-04-11up
雨宮処凛がゆく!
原発ゼロ? 再稼働? の巻
首相官邸前の緊急アクションの模様
このまま行けば、5月5日に日本中のすべての原発が停止する。
今動いているのは北海道の泊原発3号機ただひとつ。その泊原発3号機が定期検査に入るからだ。
レベル7という最悪の原発事故が起きてから1年以上。脱原発の声が高まり、デモが頻発し、世論の7〜8割が脱原発を支持しながらも運転されてきた日本の原発がとうとうこの日、1基残らず停止するのだ。地震大国に世界の1割以上という54基の原発が集中するこの国で、その運転が止まるのだ。
「電力はどうする」「経済はどうする」という声もあるだろう。だからこそ、再稼働が必要だ、と。しかし、「1年以上経ってやっと全部が止まるなんて信じられないほど、呆れるほど遅い」という海外からの意見もある。目先の経済と、国際社会の中での信頼。再稼働問題は、「放射能まきちらしまくってる日本が世界からどう見られているか」という視点から考えるとまた別の側面が見えてくる。
しかしそんな中、政府はどうしても「原発ゼロ」にしたくないらしい。ここに来て、大飯原発の再稼働が、ものすごく大雑把な手続きのもと、安全を置き去りにした形で進められようとしているのはご存知の通りだ。
そうして4月6日、野田首相と枝野幸男経産相など3閣僚が原発の再稼働についての閣僚会議を開くと聞きつけたので、首相官邸前に駆けつけた。どこから見ても「再稼働ありき」で事態が進んでいる状況を受け、首相官邸前で緊急アクションが呼びかけられたのだ。
ツイッター上での緊急の呼びかけで、しかも寒風吹きすさぶ夕暮れ、その上平日だったにもかかわらず、この日、官邸前に集まったのは実に1000人以上。集まった人々は、閣僚会議が行なわれている官邸に向かって次々とマイクで「再稼働するな」と訴える。
福島から来たという女性が「福島県民200万人の人生を狂わせた責任をどうとってくれるんですか」「こんな状態で再稼働なんて、人間の心を持っているんですか」「私たちの生活を返して下さい」と叫ぶように訴えると、「自分たちはお願いに来たんじゃない、やめろと言いに来たんだ」と別の参加者が官邸に向かって叫び、また別の参加者が「子どもが今まさに被曝している」「福井で事故が起きたら、また福井の人たちを被曝させるのか」と怒りに震える。とにかく、官邸前には怒りが渦巻いていた。
「Mr100ミリシーベルト」氏ののぼりが!
そんな中、やはり福島の大熊町から来たという若い女性がマイクを握った。
女性は「もう怒る気力もない」と言いながら、細い声で切々と話し始めた。
原発から7.5キロの場所に新築の家を建てたこと。しかし、入居する前に原発事故が起き、新築の自宅を置いて避難生活を余儀なくされたこと。原発事故によってこの1年、どれほど振り回され、どれほど分断されてきたか。新築した自宅は年間推定99ミリシーベルトと判断されたこと。「100ミリシーベルト以下は安全」と言うのであれば、ただで貸すから住んでほしい、国会も民主党本部もそこに移して、そこで再稼働するかどうかの話し合いをしてほしい。
「電力のため、経済のためにはとにかく再稼働しろ」と言う人は、彼女になんと言葉をかけるのだろうか。電力・経済のためには仕方ないから我慢しろなどと言える人など、そんなことを言う資格がある人など、この世に一人でもいるのだろうか。しかし今、政府が避難生活を強いられている人たちに何も言わずに再稼働を進めているという事実は、ぶっちゃけた言葉にするとそう言って突き放しているに等しい。
こうして1000人以上が官邸前で声を上げたわけだが、この日の閣僚会議では再稼働を巡る新基準が正式に決定。その3日後の9日には関電の安全対策の工程表を、再稼働基準におおむね適合していると判断。たった数日間で、とにかくバタバタと再稼働に向けた動きが民意をまったく反映しない形で進んでいる。
そして「癌大国」ののぼりも!
大飯原発の再稼働問題に関しては、「どこまでが地元か」も大きな問題となった。枝野氏は「日本全国」と答えたわけだが、ならばこの国の人々は、どこまで知っているのだろうか。大飯原発を再稼働するにあたり、津波対策の防潮堤のかさ上げもまだ済んでいないこと。フィルターつきベントの設備もなく、「計画」では2015年に完成するらしいけどそれまでは当然ないこと。福島第一原発にはあった「免震重要棟」もないこと。その完成は計画では3年後であること。
日本は地震の活動期に入ったと言われている。「3年後にいろいろ完成予定だからすぐに再稼働してOK」ということは、直訳すれば「その間に大地震が起きたらもう諦めて下さい」ということではないだろうか。そんなやり方が認められるのであれば、安全など置き去りにしたまま、今回の再稼働を基準に続々と他の原発の再稼働が進む可能性も充分にある。その間に大地震が起きて、結局いろんなものが完成していなくて福島第一原発より取り返しのつかないことになった時。想像するのも嫌なことだけど、きっとそうなっても、やっぱり誰も責任など取らないのだと思う。そうしてなんの落ち度もない個々人が、人生を狂わされ、故郷を奪われるという形でメチャクチャな「責任」の取らされ方をするのだと思う。
原発事故というものは、誰も責任が取れないほどの重大な損害をもたらすということを、私たちはもう充分すぎるほど知ってしまった。再び事故が起きてから後悔しても遅すぎる。その時に嘆いたってどうにもならないことを、「何もしてこなかった」というあの苦い味を、私は二度と味わいたくない。
官邸前のみなさま
まさに「結論ありき」としか思えない、
強引な手続きで進められようとしている大飯原発再稼動。
3月18日(金)夕方にも、東京及び大阪で、
緊急抗議行動が予定されています。
何年か後に振り返ったとき、
そして次の世代に「なぜ止められなかったのか」と問われたときに、
苦い後悔を味わわないためにも。
いま動かないで、いつ動く?
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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