マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ雨宮処凛がゆく!:バックナンバーへ

2011-06-15up

雨宮処凛がゆく!

第192回

新宿「原発やめろデモ!」、
もうこの勢いを誰にも止められない!! の巻

出発前集会で

 この原稿を書きながらも、まだ感動の中にいる。

 それは6月11日の「原発やめろデモ!」が大大大成功したから!

 東日本大震災から三ヶ月後のこの日、全国100カ所以上で脱原発デモが開催され、フランスや香港でもデモや集会があったのだが、私ももちろん「素人の乱」主催の新宿「原発やめろデモ!」に駆けつけたのだ。

 とにかく、この日の新宿はカオスだった。デモ参加者はなんと2万人! バンドを載せて走るライヴカー「新宿フォークゲリラ号」やちんどん隊、ランキンタクシーやECDが歌うDJカーのダンスブロック、防護服にガスマスク姿で「放射性廃棄物」のドラム缶を叩くドラム隊、お鈴を鳴らし続けながら辻説法をする「寺(テラ)ベクレル和尚」、川柳を読みながらデモをする謎の集団、「原発あぶねぇおそろしいマーチングバンド」、「パンクロッカー労働組合」などが大暴れする「DIY PUNK号」などなど。若者から赤ちゃんからペット、そしておじさんおばさんお爺ちゃんお婆ちゃんまでもが「原発いらない!!」と新宿の街中で声をあげまくったのだ。

ステキなプラカード

 プラカードに踊る言葉は「よくもぼくをだましたな!」「閉店」「核と人類は共存できない」「全員反省」「ダメ絶対」などなど。私も「電力のために人を殺すな!」と書いた自作プラカードを持参して参加。デモ出発前集会では、最終的な処理方法もよくわからず、埋めたとしても10万年後も安全である保証のない原発と共存などできないこと、日本の原発に使うウランを掘り出すところから海外の人の被曝労働が始まっていること、国内の原発でも多くのプレカリアート層が被曝労働に晒されている「犠牲のシステム」であることなどを話した。

素晴らしいパフォーマー集団の方々

 今回、デモに参加して思ったのは、「原発がなくてもやっていける」「電力は足りてる」ということが少なくともデモに参加している人たちの多くにとっては常識になりつつあるということだ。4月10日のデモのあと、知らないオジサンが「原発反対って、電気なかったら暮らせないだろ!」と絡んできたことは前に書いたが、少なくとも今回、私はそのような野次を聞いていない。あの時は私自身、「原発」についてわからないことだらけで何も言い返せなかったのだが、その後さまざまな人に取材し、話を聞いてわかったのは、「原発は常にフル稼働だから"電力の3割が原発依存"という言われ方をする」ということだ。つまり、原発がなくなったからといって3割の電気がなくなるという話ではなく、火力なんかで調整している分を増やせば問題ないらしい。ちなみにフランスや韓国などでは常にフル稼働ではなく原発も「調整」しているらしいが、これだと燃料が傷むのだという。

「寺(テラ)ベクレル和尚」のありがたい辻説法

 とにかく、今回の事故で、原発はまったく「安全」でもないし「エコ」でもないし安くもないということが白日のもとに晒された。しかし、「原発がなかったら今のような生活ができない」という思い込みは根強い。それに答えるため、みんな必死で勉強しているのだ、ということをまざまざと感じたのだった。このように、今の日本にはデモに参加して声を上げつつ、原発について熱心に勉強している人たちが大勢いる。その多くが若い世代だ。なんて心強いのだろう。

素晴らしいプラカード

 さて、午後3時に新宿中央公園を出発したデモ隊は、午後6時、解散地点の「アルタ前」に続々と到着! ここからはカオスどころの騒ぎではない。なんとその場が「原発やめろ広場」となり、駅前の繁華街のど真ん中に突如として解放区が出現! アピールのため街宣車の上に乗って辺りを見渡し、ブッ飛んだ。見渡す限り、360度が人、人、人。デモ隊の隊列が道の遥か遠くまで延々と続き、目の前の広場には人が溢れている。あちこちから地鳴りのように響き渡る「原発いらない」コール、ドラムの音、サイレンの音、上気した人々の顔と「原発いらない」風船と無数のプラカード、旗、のぼり。ここはタハリール広場か? と見紛うような光景だ。そうして「原発いらない」コールを始めると、360度の人々が声を合わせて叫んでくれる。はっきり言って、今まで生きてて一番気持ち良かったぞ!!

 そこからは、グリーンピースの人やフランスの「緑の党」の人、原発の是非を問う国民投票を控えているイタリアの人、また社民党の阿部知子さんや「近所の外人」のジェレミーなどがアピール(ジェレミーはなぜか「友よ」を熱唱)。そうしている間にも広場のあちこちでは別のアピールが行われ、一角ではドラム隊を囲んでダンスパーティー状態、また別の場所では「原発いらない」コールが続き、とにかく魑魅魍魎が好き勝手に「脱原発」を表現する「原発やめろ広場」が続いたのだった。

アルタ大画面の上の壁をジャック!!

 そうして辺りが暗くなってきた頃、アルタ大画面の上の壁がジャックされる! プロジェクターによってそこに映し出された言葉は「NO NUKES」!! そうして次に「日本政府への5つの要求」が次々と映し出され、それを「素人の乱」の松本さんが読み上げる。

1 稼働中の原発の停止
2 定期検査中等で停止している原発を再稼働しないこと
3 原発の増設中止
4 児童の許容被曝量20ミリシーベルト/年の完全撤回
5 原子力発電から自然エネルギー発電への政策の転換

 要求項目がひとつ映しだされるたびに、辺りを地響きのような歓声が包む。

 それからも、私たちは「原発やめろ広場」で叫び、歌い、踊りまくった。近くにいた若い男性は携帯で友達に電話しながら「すげーよ! 日本じゃないよここ! 新宿じゃないよ! 早く来いよ! 戦後最大! 戦後最大!」と興奮しまくっていた。聞くと、大学生だという彼はわざわざ今日のデモのために沼津からやってきたのだという。大学生はとにかく感動しまくり、「俺は一人じゃない! 俺は一人じゃない!」と声が枯れるほど叫んでいた。そう、「原発いらない」と普段の生活ではなかなか言えない人でも、そんな話ができる人がいないという人でも、絶対に一人じゃない。「おかしい」「変えたい」「原発とめたい」と思っている人は大勢いる。少なくとも、この日、新宿には2万人が集まったのだ。

「原発やめろ広場」! 左がアルタ側、右が東口! ここは日本か??

 もちろん、東京だけじゃない。福島でも、大阪でも、福岡でも、北海道でも、その他本当に数えきれないくらい、デモジャンキーの私でも把握できないくらいたくさんの場所でデモが行われた。国内だけで100カ所以上だ。そして海外でも大勢の人たちが立ち上がった。

 そうしてデモ翌々日、イタリアの「原発の是非を問う」国民投票では「原発拒絶」が濃厚だと報じられた。
 国内にある原発は、定期検査中のものを再稼働させなければ来年春頃までに全部止まる。今動いているものも定期検査に入るからだ。そうしてすべて止まった原発を再稼働させなければ、「脱原発」となる。

 この日掲げた5つの要求への道のりは、意外とそんなに険しくないのかもしれない。

※この日の素晴らしい映像はこちらこちらなどでご覧頂けます。

自作プラカード

←前へ次へ→

イタリアの国民投票は、有効票中94%以上が「脱原発」を支持するという、
予想以上の圧倒的な結果になりました。
私たちの国も、それに続けないはずがない。
あちこちで「原発いらない!」の声が響いた「6.11」は、
そんな希望を強く抱かせてくれた日になりました。
そしてもちろん、これは終わりじゃなくて始まりなのです。

ご意見・ご感想をお寄せください。

googleサイト内検索
カスタム検索
雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

「雨宮処凛がゆく!」
最新10title

バックナンバー一覧へ→