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2011-1-26up
雨宮処凛がゆく!
『ルポ 若者ホームレス』の巻
この連載でも何度か「若者ホームレス白書」(ビッグイシュー基金)について触れてきた。20代、30代のホームレス状態にある人50人への聞き取り調査の結果をまとめたものだ。
その白書は28ページほどのもので、おおまかな実態と提言で構成されているのだが、このたび、その聞き取り調査の結果をより詳しく描写した『ルポ 若者ホームレス』(飯島裕子/ビッグイシュー基金著・ちくま新書)が出版された。
読んで、何度も言葉を失った。以前、30代で餓死した男性についての本欄『助けてと言えない』(167回)のところでも書いたが、とにかく彼らも決して「助けて」とは言わない。そして自らが「ホームレス」と悟られないよう、窮状を気づかれないよう、驚くほど気を配っている。
実例を紹介しよう。設備関係の会社で働き、20歳で結婚、2人の子どももいる小松さん(31歳、仮名)。彼は「妻子を養わなくては」と昼の仕事以外に夜はスナックのボーイとして働く。ほとんど眠らずに昼夜働くようになった彼をある日パニック障害の症状が襲う。そうして会社をやめ、単身、静岡の工場で働くようになる。家族への仕送りはしていたが、期間満了ののちは「家族のもとに戻るとまたパニック発作が起きる気がして」、一人で上京。ネットカフェに泊まりながら職探しをしようとするものの、ある日、ネットカフェで所持金、免許証、着替えなどすべての入った荷物を盗まれてしまう。
そうしてホームレス状態となってしまうわけだが、10日間水だけで過ごして10キロ痩せたという彼は「服が汚れるのだけは許せなかった」から、残った小銭でシャワーだけは浴び、とにかく身なりに気を使っているという。「食べ物より身なりの方が大事ですから」。
ちなみに「ネットカフェで荷物を盗まれたくらいでなぜホームレスに?」と思った人もいるかもしれない。が、この手の話は私もよく聞いてきた。小松さんの場合もそうだが、彼はネットカフェに辿り着いた時点で既に仕事も住まいもなく、また家族との繋がり、それまで培った人間関係などを失っていたのではないだろうか。そこで最後の財産と言っていい荷物を盗まれてしまうと、そのまま路上に行ってしまう。
そんな状況にありながら、彼は家族や友人に助けを求めない。小松さんは言う。
「それだけは絶対にできないですよ。今こういう状態にあるのはすべて自分のせい。お金を借りるのは簡単だけど『小松はこうあるべき』ってプライドがあるからね。病気とはいえ、家族を長いこと放置して、子どもたちを傷つけてる自分に助けてもらう権利なんてない・・・立場をわきまえないと。頑張ったヤツだけ認められる世の中で自分は負けて失敗した。自業自得ってやつですよ。何の努力もしないくせに“世の中が悪い”って遠吠え吐いて、他人に迷惑かける人間には成り下がりたくないんです」
そんな小松さんは炊き出しに行く気もなく、生活保護を受ける気もないのだという。ただ、彼は「いつも手の届くところに自殺できる量の薬を隠し持っている」。
本書で浮かび上がるのは、肉体面だけでなく、精神面も追いつめられている若者たちの姿だ。
「同世代の仲良く歩いてるカップルとか見ると、何で自分とこんなに違うんだろうって自暴自棄な気持ちになっちゃう。もう自分なんてどうなってもいいやって思いますね」(23歳・男性)、「『クソ寒いのにこんなとこて寝てるよ』って笑われたり、『若いくせにホームレスなんてやってるな』って説教されたこともあります。人が怖いんです」(29歳・男性)。
『若者ホームレス白書』では、ホームレス状態にある20代、30代の4割が抑うつ状態にあるという結果が出た。年齢が上がるほど、ホームレス状態の期間が長くなればなるほど抑うつ傾向は高まっていくという。
そしてそれは時に、取り返しがつかない事態にも繋がっていく。本書では、ビッグイシューの販売員を志望して事務所を訪れたものの、「やっぱり辞めます」と帰っていった若者が翌日に自ら命を絶ったという悲劇が綴られている。22、3歳に見えた彼は、身なりもキレイでとてもホームレスに見えなかったという。
本書には、25歳にして路上生活が5年に及ぶ楠本さん(仮名)も登場する。彼には「前科」がある。路上に出て3年、食事が取れず、草やザリガニを食べてしのいできたものの5日間何も食べられなかった時のこと。もう何もかもが嫌になった時、ふと「留置場行けばメシ食えるな」と閃いたのだ。そうして彼は「強盗なんとか罪っていうのがあって、実際に強盗しなくても逮捕されることがあるって人に聞いたことがあったんで」、包丁を持って交番に行き、「これでコンビニ強盗するつもりで中に入りました」と自首。懲役1年、執行猶予3年の罪となり、2ヶ月間拘留される。
「こんなので前科ついちゃうの悔しいけど、あったかい場所で寝られて、メシが三食食えるならもうどこでもいいやって考えになっちゃってたんですね」
そんな若者ホームレスへの聞き取り調査、「行政や社会への不満や望むことは?」という質問をインタビュアーが投げかけると、「特にない」と答えた人が圧倒的に多かったという。むしろ、大半の人が口にしたのは「反省の弁」だというのだ。
長らく、日本に若者ホームレスは存在しなかった。研究者などに話を聞くと、若者ホームレスが存在したのは「戦争が終わったあとの混乱期」ということだ。しかし、それから数十年、若い世代が路上に放り出されるような事態はなかった。欧米などでは80年代から目立つようになったと言われる若者ホームレス。今、日本は30年遅れでそんな現実のただなかにいる。そして都内の繁華街などを歩けば、それらしき若者の姿を目にすることは珍しくなくなった。10年前、20年前と比べてこの国の風景はがらりと変わっている。
本書の後半には、「ホームレス脱出」と称して様々な取り組みが紹介されている。ぜひ、手にとってみてほしい。
ルポ 若者ホームレス(ちくま新書)
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「助けて」と言えない、言わないのは、
社会のどこかにそれを拒む空気があるからなのか。
同じことは、きっと誰にでも起こりうるから、
1人でも多くの人に読んでほしい1冊です。
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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