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2010-09-01up
雨宮処凛がゆく!
中国人だから? アルバイトだから?「女」だから? 〜あるセクハラ裁判を巡って〜その1。の巻
日本では、たくさんの外国人が働いている。中でもよく見かけるのは中国から来た人々だ。コンビニや飲食店など、いたるところで姿を見かける。しかし、そんなふうに日常的に接する機会が多い中国の人だが、同じ職場でもない限り、交流を持つ機会は少ない。よって、私たちが彼ら・彼女らの悩みを知る機会もあまりにも少ない。
私自身が初めて外国人労働者の問題に興味を持ったのは、中国の研修生・実習生問題がきっかけだった。外国人研修・実習制度を謳って中国やベトナムなどから若者を呼び寄せるものの、一部では「時給300円」「トイレ1分罰金15円」などメチャクチャな待遇で、その上通帳や印鑑、パスポートまでも取り上げるという扱いがまかり通っているのだ。逃げたくても、言葉もわからず、パスポートもなく、また来日の際には年収の何年分にもあたるだろう100万円以上の借金をしいるので逃げることもできない。06年には中国人研修生が「強制帰国」をちらつかされ、千葉県の養豚場で団体職員の男性を刺殺し、自らも自殺をはかるという事件が起きている。また、研修生・実習生が女性の場合、レイプなどの深刻な被害もある。07年のアメリカ国務省の「人身売買報告書」では、この「研修生・実習生制度」が「人身売買」と指摘されているのだが、その事実は広く知られているとは言いがたい。
そんな研修生・実習生問題に取り組む「全統一労働組合」に取材したのが3年ほど前(筑摩書房の『「生きる」ために反撃するぞ!』で読めます)。その時にショックだったのは、「セクハラ」に関することだ。00年、外国人研修生・実習生の男女比率はひっくり返り、女性の方が多くなったのだという。その理由には、繊維、衣服や食品関係という職種の問題もあるのだが、もうひとつの理由は「社長に男が多いから」。なんと、「ほとんど人身売買感覚」のため、半年や1年に1回、社長が自ら中国などに「面接」に行くのだという。そうして「この子とこの子」という具合に決めるというのだ。
そうして更にショックだったのが、そんな社長たち、どれほど油ぎった上に人権感覚の欠片もない極悪ジジイなのかと思ったら、「会うといいオジサン」という証言だった。
全統一労働組合の鳥井一平さんは言った。
「でも、その社長たちに会うでしょ。そしたらいいオジサンなんですよ。農家の人にも会ったんだけど、誰も見向きもしない農業を一生懸命やって、縫製にしても、斜陽の中、製造業にこだわっている、そういういい人なんですよ。それが邪悪な欲望で変貌する。なぜかというと、何しても、どうせこいつら時給300円の労働者なんだと。嫌だったら中国に帰して違うのに入れ替えればいいんだと。物扱いできる支配従属関係が、人を変えてしまっているんです」
さて、今回ご登場頂くのは、研修生・実習生ではないが、中国から来日し、日本で働いている川崎礼姫(あやき)さん。40歳。日本人と結婚し、05年に帰化した彼女は、職場で長い間セクハラに苦しめられてきた。これまで何度も会社に訴えてきたものの、会社側は相手にしてくれない。そうして07年、彼女は会社とセクハラ加害者を提訴。しかし、地裁、高裁ともに「セクハラを認めるに足るだけの証拠がない」と、訴えを棄却。川崎さんは上告し、現在、最高裁で受理されることを待つ日々だ。
女性だったらみんなそうだと思うが、私もセクハラは許せないし許すつもりもない。これには私怨も多いにある。物書きになる前、キャバクラ(触るのはNGの店)で働いていたので毎日がセクハラとの戦いだったということもあるが、物書きとなり、「やっとセクハラと戦わずに済む・・・」と思ったのも束の間、やはりその手のことはどこにでもあり、そのたびに「所詮、私は書き手として必要とされているわけではなく、セクハラ要員としてしか必要とされていないんだな・・・」とひどく落ち込む、ということが何度かあったからだ。もちろん、そんな相手とは絶対に仕事をしないのだが、向こうはおそらくどうして仕事が成立しなかったのか、いまだにわかっていない可能性もある。それほどに「天真爛漫」な感じだったからだ。そんなことがあって、私はセクハラ撃退のためにも「ゴスロリ」で武装を始めたのだが、セクハラしてきた相手のことは今もって日々呪い続けている。
と、自分のことばかり書いてしまった。川崎さんの話に戻ろう。
彼女は言う。
「私がすごく感じたのは、私はアジア人、中国人だからね。だから会社はずっと不誠実な対応でした。あと、私はパートだから。もし正社員だったら会社はなんとかしてくれたかもしれない。でもパートだもん」
彼女が語るように、この問題には外国人差別、女性差別、非正規差別という3つの問題が横たわっている。
今回から、何度かに分けて連載する形でこの問題について、書いていきたい。
(続く)
川崎礼姫さんと。
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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