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2010-08-04up
雨宮処凛がゆく!
「新卒」至上主義って変じゃない? 〜「就活」不条理劇場〜 その3。の巻
前回の続きの前に、大阪で2人の子どもが置き去りにされ、亡くなった事件について少し触れたい。
本当に本当に、痛ましいとか残酷なんて言葉を通り越した事件で、考えるだけで泣きたくなってくる。
母親のしたことは決して許されない行為だが、彼女自身も風俗で働きながら一人で子育てをしなければならない中で、どんなに追いつめられていたかを思うとやりきれない気持ちが込み上げてくる。もちろん、仕事をいくつも掛け持ちしたり、風俗やキャバクラで働いたりしながら立派に子育てをしているシングルマザーもいるだろう。しかし、人間は時にどうしようもなく弱い。もういろんなことが手のつけようもないほどどうにもならなくなった時、彼女はどこに助けを求めればよかったのだろうか。というか、助けを求めるという発想自体があっただろうか。全部一人で背負わなければいけない、と思い込んではいなかっただろうか。そして助けを求めたところで、精神論系の説教や励ましではなく、具体的な打開策を一緒になって親身になって考えてくれる人がいただろうか。或いは役所などはどんな対応をしただろうか。
日本のシングルマザーの就労率は80%以上。先進国でもっともシングルマザーが働いているのは日本である。しかし、それは「シングルマザーが社会参加できている」というよりは、シングルマザーへの支援が手薄いため、子育てをしながらダブルワーク、トリプルワークをし(子どもがいるとなかなか正社員として雇ってもらえないので、バイトなどの掛け持ちをする)、朝も夜も働いて自分と子どもの生活費を稼いだ上に子どもの面倒を見る、という体力的にも精神的にもギリギリの状態でなんとか保たれている場合が多い。その上で、過去の日本にあったような地域の繋がりなどはない。こうして、何か狭間に落ちるようにして、時にこのような悲惨すぎる事件が起きてしまう。シングルマザーがせめてもう少し安心して子育てができる社会であり、そんな制度が充実していれば、と改めて切実に思った。
さて、ここからは前回の続きである。前回同様、「就活」の話に頭を切り替えてほしい。
SPIテストとは、「中学受験みたいな、数学みたいな算数みたいなツルカメ算みたいなテスト」とのこと。XとかYとかを使った計算らしく私にはまったく想像もつかない。テストは他にも何種類もあるらしい。
そういうモロモロをクリアした果てにやっと面接に辿り着けるのだが、希望の内定をゲットするまで、これらのことを何十社も同時進行でこなさなければならないのだから考えただけで頭がクラクラしてくる。
そうして、面接。一般的には最初の面接はグループディスカッションやグループ面接が多いのだという。グループ面接とは、大抵学生5人に面接官1人か2人で行われる。短い場合、20〜30分のことも。ここまでの努力が一人当たり5分程度の面接でパーになることもあるのだから辛い。
もうひとつのグループディスカッションとは、初対面の知らない学生たちと面接官の前でディスカッションすること。もともと人見知りで、現在はそれを直す気すら微塵もない私などはそんなことを言われた時点で「じゃ、帰ります」と席を立ってしまいそうなシチュエーションだが、やはり5人くらいが一組となり、テーマを与えられてディスカッションするのだという。そのテーマとは、「新しいビールを開発したが、どうすれば売れるようになるか」とか「リーダーに必要なのはカリスマ性かコミュニケーション能力か」といったもの。ディスカッションする相手全員が敵というか、ライバルという状況である。凄まじい「出し抜き合戦」が繰り広げられるのではないだろうか。
「ディスカッションは1時間くらいなんですけど、面白いのはまずタイムキーパーとか役割を決めるとこですね。中には司会をやらないと落ちると思い込んでてものすごく司会をやりたがる人がいたり」
話を聞いて心配になったのは、たまたまトンデモない人と一緒になってしまった場合のことだ。全然意味わかってないとかトンチンカンとか、そもそもディスカッションが成立しないほど俺様な感じだったり。
「そういうの、学生の間で『メガンテ』って呼ばれてるんですよ。ドラクエの技なんですけど、自分を滅ぼすかわりにみんなも滅ぼすって技なんです。自爆みたいな(笑)」
何やら素晴らしいネーミングセンスである。そんな面接、辛くなかったのだろうか、と増澤さんに聞いてみると、「僕、結構人と喋るの好きだったり、あと性格がドMなんで、あんま辛いと思わなかったですね。あんま参考にならないかもしれないけど(笑)」とのこと。「ドM」というのは、もしかしたら就活を成功させる秘訣かもしれない。
一方、グループ面接で聞かれるのはやはり「学生時代頑張ったこと」など。サークルやゼミの幹事長だった人などはそのことを積極的にアピールするものの、「正直何を見られているかわからない」という。
「企業はすごい曖昧な言葉で求めてる人物像を言うんですよね。コミュニケーションスキルが高い人とか、向上心のある人、バイタリティのある人とか。しょうがないと思いますけど釈然としないところがありますね。それで落ちても受かってもフィードバックももらえないので。なので、内定貰ってる学生と貰ってない学生、なんで内定あるの、なんで内定ないのって聞いても答えられないと思いますね。運としか言いようがない。面接官に好かれたか嫌われたかですよね」
全然知らない上に、1ミリも尊敬すらしてない相手に「品定め」されるのって、どう考えても嫌な気分である。そんな面接、内定にこぎつけるためには5回くらいあるというのだから気が遠くなる。増澤さんが内定をもらった企業の場合、4回にわたって面接があり、最初はグループ面接、その次が個人面接、その次がグループディスカッション、最終面接が役員面接だったという。当然、同時進行で別の面接も受けていたが、その中には「圧迫面接」もあったそうだ。
「僕が経験したのは一回も笑わずに『なんで?』しか聞いてこない。『それおかしくない?』とか『さっき言ったことと矛盾してない?』とか」
ドMの彼は「失礼致しました」と乗り切ったそうだが、私だったら思わず泣き出すか、もしくは逆切れしてしまう自信がある。
そんな就活、労力やとられる時間も半端じゃないが、やはりお金もかかる。
「バイトは基本的にみんなできなくなりますね。説明会とかあったらすぐ予約って感じなので、自分の先のスケジュールが読めないんですよ。面接も基本的に日時を指定される。2月とかだったらまだ融通きくこともあるんですけど、4月に入って本格化してくるともうずらせない。ずらしたら断られて、そこから先の選考に進めないからバイトができない」
大学生への仕送り額が減り続けているのはご存知の通りだ。学生の中にはバイトを辞めた途端、家賃や学費を払えなくなったりして大学生活を継続できないという人もいるだろう。ここから見えてくるのは、親にお金がある学生の方が就活をより有利に進められるという厳然たる事実である。以前、新聞奨学生体験者に話を聞いたのだが、大学に通いながら新聞配達をしていた彼らの大きな心残りは「就活がほとんどできなかったこと」だった。朝刊・夕刊の配達の上に集金などの仕事もあり、休みもほとんどないのだから就活には恐ろしく不利な状況である。こんな場面にも格差が大きな影を落としているのだ。
また、都会に住んでいるか田舎に住んでいるかも大きい。
「合同説明会とか企業の説明会も札幌とか新潟とか東京、大阪、広島とかの大都市でしかやってない。僕は東京だったんでよかったんですけど、地方から新幹線で来てる子もいましたし、選考が進むとどうしても最終面接で本社の東京まで来なくちゃいけない」
住んでいる地域によっては莫大な交通費がかかるだろう。それ以外にも、スーツとかバッグとか靴とか、とにかく細々とした出費も多い。
(つづく)
ある調査では、都市圏の学生と地方の学生の、
就活にかかる費用は4万円以上の差があったとか。
「就活費用」のためにローンを組む学生も少なくない、
なんて話にも驚かされます。
そして「不条理劇場」はまだまだ続く…
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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