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2010-06-16up

雨宮処凛がゆく!

第148回

所信表明演説。の巻

 タイトルとはまったく関係ないが、まずはちょっと宣伝を。

 私の大好きなバンド・「ALSDEAD」(オルスデッド)がアルバム「ALSDEAD」を発表し、CDの帯コメントを書かせて頂きました! 

 自分の大好きなバンドさんのCDにコメントを書かせて頂くなんて、本当に身に余る光栄です・・・。本当に、ライブに行くたびにすごい勢いでカッコよくなってて、一番最近行ったライブなんてカッコ良すぎて思わず気絶しそうになったし・・・。勝手ながら多くの人に聴いてほしいと思ってますっ。

 ということで、本題。いきなり別世界の話になるが、11日、菅総理による所信表明演説が行われた。

 聞いていて、普通に「反貧困ネットワーク」とか湯浅さんの名前とか出てきたことにまず驚いた。所信表明演説で「ホームレスには二つの意味がある(状態としてのハウスレスと、そばで支援してくれる家族がいないこと)」とか「ネットカフェに寝泊まりする若者」とかいう言葉が登場するなんて、反貧困ネットワークができた頃に誰が想像しただろう。ちなみにこれらは「孤立化」への取り組みというところで出てきたのだが、「貧困」と「孤立」には深い関係がある、というのは運動側がずっと主張してきたことでもある。なぜなら人が貧困に陥る背景には「人間関係の貧困」もあるからだ。最近、「孤独死」や「無縁社会」といったキーワードがブームな感じだが、それこそ「人間関係の貧困」の最たるものだろう。そして多くの人は「貧困」は自分に関係ないと思っていても、「孤独死」という言葉には何かドキッとさせられる。しかし、貧困と孤独死の間には「人間関係の貧困」という共通項があるのだ。

 所信表明演説では、他にも「第三の道」や「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」など気になるキーワードがいくつかあった。ちなみに「強い経済、強い財政、強い社会保障」という言葉は東大名誉教授の神野直彦氏の言葉であるという。で、菅総理のブレーンと言われる神野氏は、私も委員をつとめる厚生労働省のナショナルミニマム研究会の委員でもある。

 そんな神野さんの本、「『分かち合い』の経済学」を今読み始めたところだ。まだ全然最初の方なのだが、まえがきでは「オムソーリ」というスウェーデン語が紹介されている。「社会サービス」を意味する「オムソーリ」という言葉の原義は「悲しみの分かち合い」。また、一章では、「ラーゴム」というスウェーデン語も紹介されている。これは「ほどほど」という意味だという。「超過も不足も悪徳(カキア)とする『中庸の徳』という倫理を表している」そうだ。

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 それを読んでいて、朝日新聞(10/6/11)の世論調査の結果を思い出した。

 この結果もまた、「時代は変わったのだ・・・」と遠い目になるものだった。例えば「これからの日本は、全体として経済的には豊かだが格差が大きい国と、経済的豊かさはそれほどないが格差が小さい国とでは、どちらを目指すべきだと思いますか」という質問への回答は、「豊かだが格差が大きい国」と答えた人は17%、「豊かさはそれほどないが格差が小さい国」は73%。また、これからの日本が「税負担が重いが、社会保障などの行政サービスが手厚い『大きな政府』」と「税負担は軽いが行政にはあまり頼れず、自己責任が求められる『小さな政府』」どちらを目指すべきかという質問には、「大きな政府」が58%、「小さな政府」が32%。なんか、「自己責任」という言葉が過去になったことをひしひしと感じたのだった。

 それにしても、やっぱり「格差が大きい国」って、当事者じゃない人への負担も大きいんだな・・・とつくづく思った次第だ。路上のホームレスを見て「自分も必死で会社にしがみつき続けなきゃああなってしまう」と追い立てられるような社会は、当たり前だが誰にとっても辛いものだろう。ちなみに『「健康格差社会」を生き抜く』(朝日新書 近藤克則)という本には、格差社会は「負け組」だけでなく、「勝ち組」までも病ませていく実態が描かれているので読んでほしい。低所得者の死亡率が高所得者の3倍にも及ぶ実態がある一方で、人に不信感を持つ分断社会は健康に悪く、結果的にお金持ちも不幸にするという指摘がなされている。

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 さて、そんな世論調査の結果を受け、自民党の石破茂氏は「いまでも勤勉は報われる」というタイトルでコメントをしているのだが、それを読んでまた別の意味で驚いた。石破氏は、街頭演説で「みんなで努力して、もう一度、世界で一番働く日本にしましょう!」と訴え続けているのだという。

 「世界で一番働く日本」という言葉に、「過労死」という言葉が浮かぶのは私だけではないだろう。

 ちなみに14日、厚生労働省は仕事のストレスが原因でうつ病などの精神疾患になって労災認定された人は09年度で234人、申請数は過去最高の1136人であることを発表した。「世界で一番働く日本」より、ほどほどに働いたらそこそこ生活できてのんきに生きられる日本の方が、私にとってはずっと魅力的である。

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「世界で一番働く国」なんかじゃなくていい。
働く量も、経済的な「豊かさ」も、ほどほど、そこそこ。
それってけっこう楽しい社会なんじゃないか、と思います。
菅新政権の目指す先は、さて?

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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