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教えて!山田先生
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第4回
ミサイル防衛(MD)システムはどこまで進んでいて、
その効果はどれぐらい期待できるの? 「SM3」編
7月5日のミサイル発射騒動以来、日本でも急ピッチに整備が進められているのが
ミサイル防衛(MD)システムです。簡単に言えば、飛んでくるミサイルを
撃ち落すための迎撃システムのことですが、いったいどの程度まで
技術開発は進んでいて、どんな体制が整えられているのでしょうか。
山田先生 やまだ あきら 
日本近現代史、軍事史、天皇制論、歴史教育論が専門。
おもな著書に『護憲派のための軍事入門』花伝社
『軍備拡張の近代史-日本軍の誇張と崩壊』吉川弘文館
『歴史修正主義の克服-ゆがめられた<戦争論>を問う』高文研

発射直後の上昇段階が最もミサイルのスピードが遅いのですが、
そこで撃ち落すためにはいくつか難問をクリアしなくてはなりません
前回までお聞きしてきた「敵基地攻撃」や「先制攻撃」に関しては、自民党内や連立政権のパートナーである公明党からも「全面戦争につながる可能性が大きい」という理由などから慎重論が出ています。しかし一方、ミサイル防衛(MD=Missile Defense)システムについては、何だか「魔法の杖」ではないですけど「これさえ導入すれば安全」といった感じで、予算の執行や配備の前倒しなどが急ピッチで検討されています。そんなに信用していいものかという技術的な疑問がありますが、まずはMDシステムの大まかな中身を教えてください。
 ミサイルが発射されてから着弾するまでには大きく分けて3つの段階があることは前回お話ししたとおりですが、ミサイル防衛もこの3段階に応じて研究・開発されています。

ミサイル防衛(MD)システム
そもそも、発射されたミサイルを正確に探知するだけの能力は今の日本にあるのですか。
 現在日本が4隻持っているイージス艦に搭載されたレーダーならば、ノドンクラスのミサイルの発射から着弾まで全過程を追尾することが可能と言われています(ただし、ミサイルの航跡を追跡することはできますが、現在のイージス艦に搭載されているイージスシステムでは撃墜まではできません)。さらに高性能の地上配備型新型レーダー「FPS−XX」の導入も計画されています。ちなみに日本と軍事同盟を結ぶアメリカは、地球レベルの軍事偵察衛星網を構築していますし、イージス艦を68隻持っています。
探知が可能であれば、あとは撃ち落す方法ですが、前述の3段階のうち一番撃ち落としやすいのはどの段階ですか。
 やはり、打ち上がったばかりでまだスピードが出ていないブースト段階になります。当然、アメリカなどはブースト段階でミサイルを撃ち落とす実験をすでにしています。
具体的にはどうやって撃ち落とすのですか。
 飛行機からレーザー光線を発射してミサイルを撃ち落とすというものです。
レーザー光線って、なんだか『スター・ウォーズ』の世界みたいですね
 一応実験は成功したと言われていますが、まだまだ確実と言えるものではありません。また、レーザー光線で破壊するとなればミサイル発射基地の近くまで飛行機が行かないといけませんので、厄介な問題が残ります。
1回目の講座で北朝鮮の空軍力はかなり脆弱だということを聞きました。なので制空権の確保は簡単でしょうから、ミサイル基地まで飛行機が行くことは可能では?
 確かにそうですが、ミサイルはいつ発射されるか分からないわけです。そうなると、いつ発射されてもいいように発射基地近海で飛行機を載せた空母を四六時中待機させておく必要が出てきます(あるいは飛行機を空中給油しながら待機させておく)。
 また、飛行機からのレーザー光線による攻撃というのは、原理は固定機関銃で撃つのと近いことなんです。つまり基本的に飛行機が向っている方向にしかレーザーを発射できない(ある程度の射角の修正はできるかもしれないが)。となると、飛行機は車のように急にクルッと方向転換できませんから、ちょうどミサイルが発射された直後に飛行機がその手前にいないといけなくなります。しかし、そんなにタイミングよく飛行機を近くまで飛ばすことは無理でしょう。
ミサイルはいつ発射されるか分からないわけですからね。
 相手だって、飛行機が向ってきているときに、わざわざミサイルを打ち上げません。そう考えると、ブースト段階でレーザー光線によって撃ち落とす実験がいくら成功したとしても、実戦でうまくいくとは限りません。
新聞などの報道を見ますと、現在はむしろミッドコース段階やターミナル段階での迎撃に力を入れているように思えますが。

全て予定調和で進められる迎撃実験と、
予測不可能なことばかりの実戦とでは大違いです
 そのとおりです。ブースト段階での攻撃は今申し上げたような技術的な難しさもさることながら、一歩間違えば「先制攻撃」につながるという政治的な難しさがあります。したがって現在のMDシステムは、ミッドコース段階で撃ち落とし、それでも撃ち漏れがあった場合はターミナル段階で迎撃するという2段構えになっています。
ミッドコース段階は大気圏外をミサイルの弾頭が飛んでいるわけですが、そんなところにあるミサイルを撃ち落とすことができるのですか?
 イージス艦から発射されるミサイル「SM3」は、高度500kmまで届きます。日本向けに北朝鮮が配備しているとされるノドンの最高高度は約300kmと推定されていますから、理論的には迎撃が可能です。
 ただ、最終的にミサイルが落下してくるターミナル段階よりもミッドコース段階のほうがミサイルのスピードは遅いのですが、それでもかなりの速さになります。ですから、打ち落とせる確率は最大でも50%程度と見たほうがいいでしょう。
となると、一発のミサイルに対して複数の迎撃ミサイルを撃つ必要が出てきますね。北朝鮮が日本向けに配備しているノドンが200発あるとすれば、単純にその倍の迎撃ミサイルを用意するとなると400発のSM3が必要になるわけですか。
 単純に計算すればそうなります。とはいえ、迎撃確率が50%だから、その倍撃てば全部落とせるというほど単純な話ではありません。大気圏外に出た段階でミサイルはロケット部分を切り離して弾頭だけになります。ノドンクラスで言えば弾頭は約1〜2メートルと小さいものですから(ノドンと同じものではないかといわれているパキスタンのガウリミサイルの寸法から推定)、迎撃する側からすれば目標が小さくなります。ですので、確実に撃ち落とすためには一発のノドンに対して何発ものSM3で迎撃しないとならないでしょう。また、弾頭を破壊するには迎撃用のミサイルを直接ぶつける必要があります。
えっ? 散弾銃のように弾頭の近くでSM3ミサイルが破裂して、その破片で弾頭を打ち落とすのではないのですか。
 いいえ違います。SM3は飛んできたミサイルに直接ぶつけることを想定しています。飛行機に対してならば、今言われたように近くでミサイルを爆発させてその破片で落とすことができます。でも、ミサイルの弾頭はその方法では無力化することができません。直接ミサイルをぶつけて莫大なエネルギーを発生させることで、無力化できるわけです。
しかし、ノドンクラスの準中距離弾道ミサイル(MRBM)のミッドコース段階での速度は、秒速3.0km(時速1万km)ぐらいといわれ、そのような高速で飛んでいるミサイルに、迎撃用のミサイルを当てるなんてことは可能なんですか。
 言ってみれば、ピストルの弾丸をピストルの弾丸で撃つようなものです。
……。しかし、アメリカでは迎撃実験に成功しているんですよね。
 確かに成功している事例はありますが、あくまでも「実験のための実験」と考えたほうがいいと思います。
実験のための実験?
 はい。簡単に言いますと、A基地から発射したミサイルをB基地からの迎撃ミサイルで打ち落とす実験をしたとします。その場合は、何月何日何時何分にどの方向に向けてどんなミサイルを撃つかを事前にB基地に知らせておいて、それで迎撃するわけです。実戦でこんなことが考えられますか?
北朝鮮が事前に知らせてくれるなんてことはないですよね。
 問題はそれだけではありません。アメリカで成功した実験というのは、一発のミサイルに対して一発のミサイルで迎撃するというもの。この間の北朝鮮の実験みたいに続けて何発も発射したり、または同時に何発も発射したりするなど、そういう実験ではありません。
北朝鮮がもしも本気で日本を攻撃するとなれば、複数のミサイルを同時に撃ってくる可能性は高いですよね。
 国家の存亡を賭けた攻撃となれば、その可能性は高いでしょう。ですから、事前に全てを知らせておいて、しかも一発のミサイルしか発射しないというのは「実験のたの実験」というわけです。
そうすると、全く無意味ということになりますか。
 軍事というものは「ゼロか100かの話」ではありませんから、全く無意味ということはありません。ただ、実験結果をもって「ほら安心でしょ」という話にはならないということです。また、アメリカの場合は5千キロ以上も先から飛んでくるICBM(大陸間弾道弾)を想定した実験だということも考慮しないといけません。
と言いますと?
 大陸から大陸まで、もしくは太平洋や大西洋を越えてアメリカ本土に到達するような場合であれば、当然ミッドコース段階も距離が長くなり、その分時間もかかるわけです。しかし、北朝鮮から日本に向けてミサイルが発射された場合、着弾するまでに約10分しかかからず、ミッドコース段階も1000km程度です。そうなると、アメリカが行なっている実験よりも、条件は厳しくなります。先ほど言いました、いつどこへ向けて何発発射されるか分からないという条件も合わせて考えますと、実験レベルでの迎撃成功を受けて楽観することが大きな間違いだということを理解していただけると思います。
「撃ち漏らしは想定内。そのための2段構えであって、SM3で撃ち漏らしたミサイルはターミナル段階のPAC3で撃ち落とす」と、MDシステムを推進する側は言いそうですが。
 そうでしょうね。でも、PAC3の性能も現状ではそんなに期待できないんですよ。これに関しては次週お話ししましょう。
9月30日、嘉手納基地に配備されるため、沖縄県の軍港に国内初となる
PAC3の装備品が荷揚げされました。地元住民による反対は根強く、
本当に地域の安全を守るためのものかどうか、疑問です。
次回はさらにこのPAC3について聞いていきます。


(訂正)
 第1回目の講座で私は、日本の航空自衛隊のF−2支援戦闘機(戦闘爆撃機)は、アメリカのF−16をベースに開発されたものだが、9条のしばりもあって航続距離が2000キロの抑えられている、と説明しましたが、これは、F−2支援戦闘機ではなく、その前に開発されたF−1支援戦闘機の間違いでした。
 2000年度から配備されているF−2支援戦闘機は、4000キロの航続距離を有しており、F−1の段階の航続距離の制約を大きく突破しています。F−1支援戦闘機は現在でも配備されていますが、次第に退役中です。日本の戦闘爆撃機は、憲法の制約上、大きな航続距離を持ち得ない、という原則が守られていると思いこんでおりましたが、実態は、さらに憂慮すべき方向に進んでいたということです。
 なお、航続距離と「戦闘行動半径」の関係についてのご質問もありましたが、一般に、軍用機の「戦闘行動半径」とは、その飛行機の最大航続距離の3分の1程度と説明されています(ただし、「戦闘行動半径」とはあくまでも目安であり、どのような戦闘をおこなうかで、実際の行動半径はかなりかわってきます)。
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