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軍事力を見比べてれば、北朝鮮に対し、日米が圧倒的にリードしていることがわかります。
それなら「なおさら先制攻撃を!」という声がありますが、
先制攻撃が避けることのできない、現実面のリスクについて考えます。
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やまだ あきら
日本近現代史、軍事史、天皇制論、歴史教育論が専門。
おもな著書に『護憲派のための軍事入門』花伝社
『軍備拡張の近代史-日本軍の誇張と崩壊』吉川弘文館
『歴史修正主義の克服-ゆがめられた<戦争論>を問う』高文研 |
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先週のお話では、[1]アメリカの軍事力であればミサイル発射前に北朝鮮の地下サイロを無力化することが技術的には可能、[2]しかし実際の攻撃となれば予想外のことが起きる、ということでした。今週は「予想外」のことについて、そしてその場合日本にはどんな影響が出るのかお聞きしたいと思いますが、その前に読者から寄せられた質問をひとつ。「そもそも北朝鮮のミサイルが日本やアメリカに向けられたものなのかどうか、発射前や発射直後に分かるのですか」ということですが、これはどうですか? |
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発射前は分かりませんし、発射直後も分かりません。ミサイル発射から着弾するまでには大きく分けて3段階ありまして、発射直後のロケットエンジンによる上昇段階を「ブースト段階」、ミサイルが弾頭部分だけになって大気圏を越えて、弾道(ゆるやかな放物線)を描きながら最高の高さに到達し、次第に下降していく段階を「ミッドコース段階」、そして大気圏内に突入し、地上に落下する段階を「ターミナル段階」と言います。発射されたミサイルがどこに向けられているかは、ミッドコース段階までこないとわかりません。
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そうすると、発射前、もしくは発射直後のブースト段階で北朝鮮のミサイル基地を攻撃するというのは、「これは日本やアメリカに向けられたミサイルに違いない」という、あくまでも予測に基づく先制攻撃ということになりますね。 |
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そうなります。極端に言えば、先制攻撃というのは、相手の意図がどうであろうと関係ないということなんですね。まあ、「大量破壊兵器があるにちがいない」との予測に基いてイラクというひとつの国家を転覆させたアメリカにとっては、核保有を宣言して、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮は、攻撃する正当性が十分すぎるほどあるのでしょうけど。 |
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でも、その攻撃が正しいかどうかは、イラクの時と同様、後にならないと分からないわけですよね。 |
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そうです。攻撃して地下サイロを破壊したものの、実は核ミサイルでも何でもなかったということもありえます。また、ミサイルだったとしても日本やアメリカに向けられたものではなかったというケースもありえます。
ただ、イラク戦争についても「大量破壊兵器はなかったけど、フセインの圧制から市民を解放したのだから正しかった」という意見がアメリカはもちろん日本国内にもけっこうありますから、北朝鮮に対してはそのような意見はもっと多いかもしれません。 |
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「圧制」ということで言えば、北朝鮮もイラクと同等、もしくはそれ以上と言う指摘もありますからね。圧倒的なアメリカの軍事力をもってすればミサイル基地を叩くことが可能、北朝鮮は何かと問題を抱えた国であることは間違いない……んー、こうなるとやはり「先に叩いてしまえ」という意見が強まりそうですね……。 |
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ここで今週の本題です。これまでは、軍事的、技術的にどうなのかということを話してきたわけですが、これは言ってみれば可能性の話です。たとえば、アフガン攻撃やイラク戦争を見てもわかるとおり、アメリカの軍事技術をもってしても誤爆があるわけです。誤爆にも2種類あって、目標に関するデータの入力ミスやそもそも軍事施設でない所を軍事施設だと判定してデータを入力したために間違った場所にミサイルや爆弾が落ちてしまうという場合と、データの判定と入力が間違っていなかったにもかかわらず、ミサイルや爆弾側の誤作動などによって正確にターゲットに命中しないという場合があります。だから、いくらアメリカといえども北朝鮮の地下サイロを先制第一撃で一つ残らず完璧に破壊することなんて現実には不可能なんです。 |
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確率としては、どれくらいの「撃ち漏れ」が出るのでしょうか。 |
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実戦においては予期しないことも多々起こるものですから、アメリカが先制第一撃で攻撃した後も実際には北朝鮮の地下サイロは半分以上残るのではないかと思います。 |
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もちろん、今話していることも可能性の話ですから、理論上は9割近く潰せる可能性もあるでしょうし、逆に半分どころか3割ぐらいしか潰せない可能性もあります。北朝鮮もダミーの地下サイロ(わざと攻撃させるための偽サイロ)も造っているでしょうし、サイロの射出口が予想以上に堅固で、破壊されないものもあるでしょう。つまり、実際に攻撃してみなければ、どれだけの成果があげられるのか分からないということなんです。 |
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現代の兵器でも、そんなに不確定要素が大きいのですか。 |
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はい。かつての米ソ冷戦時代を考えれば分かりやすいかもしれません。相手のミサイルを完全に叩き潰すためにはどうすべきか、それを求めていくなかで米ソ間で軍拡競争が究極までいきました。その結果、完全に相手を叩こうとするならば、お互いに1万発ぐらい核弾頭を撃ち込まないとダメだとなりました。つまり、ミサイルが目標から外れることを予期して余計に撃つわけです。確実に当たる可能性が50%だとしたら、もう一発余計に撃ちますよね。敵の攻撃によって発射前に破壊されるミサイル、途中で迎撃されるミサイルもあると考えればさらに撃ちます。というように目標の数よりも撃ち込む核弾頭の数がどんどん増えていくんです。 |
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そうすると、たとえば北朝鮮のノドンミサイル200基を完全に無力化しようとすれば、その倍以上の弾頭を撃ち込めるだけのミサイルを撃つ必要があるわけですか。 |
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これはかなり過大な見積もりですが、かりにノドンミサイル200基が200箇所に分散されて配備されていたとすると(ありえないことだが、再装填分はないとする)、それをすべて潰そうとすれば弾頭500発ぐらいは撃つ必要はあるでしょう。防御力がとくに強い地下サイロには核弾頭を撃ち込むことを考えるかもしれません。しかし、それでも無傷なまま残るノドンミサイルは必ずあります。いくら正確な場所を掴んでいて大量の武器で攻撃したとしても、必ず誤爆は出ますし、損害軽微で短期間に復旧するものもあるでしょう。
仮に北朝鮮が核ミサイルを持った段階でアメリカが攻撃をしたとします。199基のノドンミサイルを破壊することに成功したとしても、残った1基が核弾頭を搭載したミサイルだった場合、これが日本に飛んできたらどうなるでしょうか。「1発ぐらいは仕方がないじゃないか」「北朝鮮の圧制から人民を解放するためだから仕方ない」などという人がいるとはとても思えません。 |
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だからなおさら「北朝鮮が核弾頭を実戦配備する前に叩いてしまえ」という意見もありますが。 |
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核ミサイルを北朝鮮が持っていない今でも、アメリカが本格的に攻撃したならば、これはもう北朝鮮も存亡を賭けて反撃してくるでしょう。当然、誤爆などによって生き残ったミサイルを日本や韓国に対して撃ちこんでくるでしょう。ミサイル攻撃だけでなく、特殊部隊による破壊活動・テロ活動なども考えられますので、日本も相当の被害を受けることになります。 |
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それでも、核ミサイルの被害に比べればたいしたことはない、だから北朝鮮が核ミサイルを持つ前に叩くべきという意見もあります。 |
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確かに北朝鮮という国が崩壊すれば、日本をはじめ周辺国は核やミサイルの恐怖からは逃れられるでしょう。しかし、北朝鮮崩壊後の後始末は、日本にとてつもない負担をもたらします。 |
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北朝鮮には約2300万人の人民がいて、今でも満足な食糧がありません。もし国が崩壊したとなれば、中国や韓国、そして海を越えて日本に難民が流入してきます。数百万人単位の難民を日中韓が共同して受け入れるとなると、経済的なコストは莫大なものになります。そして、難民の中には「武装難民」も含まれているでしょうから、治安はとてつもなく不安定になるでしょう。
アメリカによる北朝鮮への先制攻撃は、北朝鮮が崩壊し、日本、韓国、中国も大きな損失を被り、結局得をしたのはアメリカだけ――そんな結果になりかねません。先制攻撃をすることによる軍事的な被害、経済的な損失、この両方を考えれば、安易に先制攻撃をすべきだという人は少なくなるのではないでしょうか。 |
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先制攻撃が持つリスクの大きさについて、私たちはもっと現実的に考えるべきでしょう。
では、日米共同での開発が進むミサイル防衛(MD)システムについてどうなのでしょうか?
引き続き、山田先生に聞いていきます。
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
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