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2011-01-09up

マガ9対談:2010〜2011 ニッポンの「明日の政治」を語ろう/中島岳志さん×辻元清美さん(その6)
「反日ナショナリズム」が中国を変える?

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無所属になった政治家・辻元清美さんと、リベラル保守を自認する政治学者・中島岳志さんの対談です。「国民世論」にふりまわされる政治家が多い中、信念と理念をつらぬく政治家が希少価値となっています。日本の政治を立て直すため今、何が必要なのか。社民主義とリベラル保守は手を結ぶことができるのか? 10回にわたる対談で明らかにしていきます。

辻元清美●つじもと・きよみ  1960年生まれ。早稲田大学在学中の83年に「ピースボート」を設立し、民間外交を展開。96年の衆議院選挙に社民党から立候補し初当選。NPO法、情報公開法などに取り組み成立させる。2002年に議員辞職後、2005年の衆議院選挙で比例代表近畿ブロックにて当選。社民党女性青年委員長、政審会長代理に就任。2009年、衆議院議員総選挙において大阪10区(高槻・島本)から当選。社民党国会対策委員長に就任。国土交通副大臣に就任。2010年5月、国土交通副大臣を辞任。7月に社民党を離党。

中島岳志●なかじま・たけし1975年生まれ。北海道大学准教授。専門は、南アジア地域研究、近代政治思想史。著書に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)、『中村屋のボース−インド独立戦争と近代日本のアジア主義』(白水社)、『パール判事─東京裁判批判と絶対平和主義』(白水社)、西部邁との対談『保守問答』(講談社)、姜尚中との対談『日本 根拠地からの問い』(毎日新聞社)など多数。「ビッグイシュー」のサポーターであり、「週刊金曜日」の編集委員を務めるなど、思想を超えて幅広い論者やメディアとの交流を行なっている。近著『朝日平吾の鬱屈』(双書Zero)

中島  そういう点からも、最近僕が非常に疑問を抱いているのが、保守といわれる人たちも含め、中国を批判している「つもり」の人たちについてなんです。

編集部  どういうことですか?

中島  彼らの批判というのは、大きく分けて2つあります。中国は独裁国家でけしからん、というのと、反日ナショナリズムはけしからん、というのと。でも、実はこれは奇妙な批判で、ナショナリズムというのは、必ず独裁体制に刃を向けていくのが鉄則だと思うんです。
 これも日本では戦後、ねじれておかしくなっているんですけど、ナショナリズムは基本的には左派の原理であって、「国家は国民のものである」という主張なんですよね。フランス革命がその典型ですが、なぜ国王が政治を独占するのか、国家は国民のものだ、国民主権なんだ、という形でナショナリズムが成立し、そこから国民国家がつくられていったわけです。あるいは、アジア、アフリカの独立運動も、なぜ宗主国が政治を独占するんだ、インドはインド人のものだ、といったナショナリズムが、ある種の国民主権要求になっていった。つまり、独裁国家におけるナショナリズムは、必ず国民主権や民主主義の要求に転化して、独裁体制に対する批判になっていくんです。
 僕が知っている中国の民主化活動家たちは、この原理をよく知っている。彼らにとって、反日は「フック」なんですよね。あえて反日を掲げてデモをやることで政府批判を展開し、国民主権を要求していく、そういうフック。だから、ただ「反日ナショナリズムはけしからん」と言うんじゃなくて、そうした状況を——反日ナショナリズムが中国の体制を変えていく可能性を、どう僕たちが冷静に見られるかが今、試されているんだと思います。

辻元  たしかに、例えば反米デモは世界中で起こっていて、その多くはのちに体制批判に転化していくんですよね。イランが変わっていく過程もそうだったし——イランの体制が前よりよくなったのかどうかはわからないけど——、フィリピンでもアメリカべったりだったマルコス大統領の独裁体制が、反米デモから始まった体制批判で倒された。韓国の民主化もそうだったんだよね。

中島  韓国の左派は基本的にナショナリストでしたからね。

辻元  中国で今起こっていることも、同じ原理なのかもしれない…。

中島  そうなんです。おそらくは極めて過渡期的な現象で、共産党一党独裁があのまま保つわけはない。いつになるのかは分かりませんが、いずれ近いうちに民主化ナショナリストたちの活動によって中国の独裁体制は崩壊しますよ。僕たちは、そんな苦悩する隣人たちと、どのような「アジア的価値」を共有できるのかを問わなければいけない。
 今、僕が右翼の人に言っているのは、「日本の右翼は頭山満以来、ずっとアジア主義を掲げてきたじゃないか。それなのになぜアンチ中国なのか」ということ。頭山満は、朝鮮の開明派の金玉均をサポートし、中国の孫文を助けてきた。封建的な体制に対して抵抗し、新しい政治体制を打ちたてようとするアジアのナショナリストたちを全力で助けてきた。僕はそんなアジア主義者の義勇心に強い敬意を持っています。拙著『中村屋のボース』で書いたR・B・ボースも、日本に亡命して頭山らアジア主義者と連帯した。頭山は自由民権運動から政治活動をスタートさせた人ですから、本質は国民主権ナショナリストです。だから、隣国の封建体制と格闘した志士たちと絆をつくれた。
 なのに、今の右派は「反中国」とか「在日の特権を許さない」とかになってしまう。みんな自分たちの拠って立つ理念がわからなくなっていて、ただ「アンチの論理」だけが横行している。そしてそれが「敵」へのバッシングになっていく。怖い現象だと思います。

辻元  韓国もそうやったけど、市民が経済的にある程度力をつけてくると、そうしたナショナリズム的なものが生まれて独裁国家を倒していくじゃないですか。小田実さんも『中流の復興』という本で、「そこそこ経済力のある、『中流』の人たちがものを考えて社会を変え、歴史を動かしていく」と書いてたよね。中国も今、都市と農村の格差はひどいけれども、学生を含めたそうした「中流」の人たちによって社会が変わってきているのかな、とも思うんです。
 ところが最近の日本の場合は「中流」どころか、どんどん格差が広がって、反貧困運動をとにかくやらなきゃ、みたいになってきたところでナショナリズムが出てきた。これは怖いですよね。

中島  そう思います。

編集部  韓国や、先ほど挙げられていたフィリピンなどとは違う方向のナショナリズムですか。

辻元  国を開いていく、改革していくという方向ではなくて、もっと閉じこもっていく感じの、ある意味陰湿なナショナリズムが社会全体に溜まっている。そういうときには「強いリーダー」待望論が出てきかねないし、要注意だと思っています。空気が乾燥してくるとマッチがぼっと点く、それがファシズムではないかしら。そういうふうにはならないようにしなきゃいけないな、と。
 そのときに、一定の「湿り気」をもたらす役割をするのが、やっぱり「新しい公共」とかセーフティネットとかなんじゃないかな。声高に反論するんじゃなく、そうしたところに力を入れていくことが、陰湿なナショナリズムに対抗する、暴力的な社会の構造を徐々に変えていく、「漢方薬」みたいな役割をするんじゃないかな、と思っています。

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中国における反日ナショナリズムの高揚は、
民主化へ向かう中での一過性の現象に過ぎない?
そして今、日本に広がるナショナリズムの怖さとは?
考えるべきこと、見つめるべきことがたくさんあります。

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