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2011-01-13up

マガ9対談:2010〜2011 ニッポンの「明日の政治」を語ろう/中島岳志さん×辻元清美さん(その 10)
今こそが「改憲」への最大の危機

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無所属になった政治家・辻元清美さんと、リベラル保守を自認する政治学者・中島岳志さんの対談です。「国民世論」にふりまわされる政治家が多い中、信念と理念をつらぬく政治家が希少価値となっています。日本の政治を立て直すため今、何が必要なのか。社民主義とリベラル保守は手を結ぶことができるのか? 10回にわたる対談で明らかにしていきます。

辻元清美●つじもと・きよみ  1960年生まれ。早稲田大学在学中の83年に「ピースボート」を設立し、民間外交を展開。96年の衆議院選挙に社民党から立候補し初当選。NPO法、情報公開法などに取り組み成立させる。2002年に議員辞職後、2005年の衆議院選挙で比例代表近畿ブロックにて当選。社民党女性青年委員長、政審会長代理に就任。2009年、衆議院議員総選挙において大阪10区(高槻・島本)から当選。社民党国会対策委員長に就任。国土交通副大臣に就任。2010年5月、国土交通副大臣を辞任。7月に社民党を離党。

中島岳志●なかじま・たけし1975年生まれ。北海道大学准教授。専門は、南アジア地域研究、近代政治思想史。著書に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)、『中村屋のボース−インド独立戦争と近代日本のアジア主義』(白水社)、『パール判事─東京裁判批判と絶対平和主義』(白水社)、西部邁との対談『保守問答』(講談社)、姜尚中との対談『日本 根拠地からの問い』(毎日新聞社)など多数。「ビッグイシュー」のサポーターであり、「週刊金曜日」の編集委員を務めるなど、思想を超えて幅広い論者やメディアとの交流を行なっている。近著『朝日平吾の鬱屈』(双書Zero)

編集部  さて、最後になりますが、憲法9条についてもお聞きしたい。2011年は、改憲の議論はどのような方向にいくと思いますか?

中島  僕は、憲法9条は最終的には変えたほうがいいという立場です。ただ、その改正は日米安保の改定とセットでなければいけない、とも思っている。
 憲法について非常に重要なのは「立憲主義」という概念だと思います。憲法99条にあるように、憲法を守るべきなのは「公務員」です。つまり、国民が国家に「これはやったらダメですよ」と縛るのが憲法なんですよね。であれば、自衛隊というある種の「軍隊」も、ちゃんと憲法で「侵略戦争はしてはならない」「こんなことをしてはいけない」と縛っておく、それこそがシビリアンコントロールであり、憲法の役割だと僕は考えていて。そうするとどうしても今の憲法は変えたほうがいいと思わざるを得ないんです。
 しかし、今の自民党の人たちなどが掲げる改憲には真っ向から反対したい。あれは、やはりアメリカの戦争にお付き合いするための9条改憲論なわけで、日本の主権の問題にもかかわります。本来は、安保条約を正常な形にした上で、自国の軍隊をちゃんと憲法で定義して国民が縛りをかけられるようにするのが筋だと僕は思っているんですが、こうした憲法論はなかなか保守の側からは出てこないですね。いつも一生懸命「日本の主権が大切だ」「尖閣を守れ」とか言っている人たちが、なぜアメリカに主権を放り投げるようなことを言うのか、明らかな不平等条約である日米安保条約を認めるのはなぜなのか、と思うんですが。

辻元  今の改憲論は、例えばイラクでも給水活動だけじゃなくて、集団的自衛権を認めたイギリスのようにアメリカと一緒に前線まで行けるようにしたいとか、そういう方向性なんだよね。
 そして、かつての自民党政権時代より民主党中心の政権ができた今のほうが、憲法9条や安全保障については非常に危険な政治状況になっていると思う。というのは、自民党政権時代は、自民党がどんなに過激なことを言ったとしても、対抗勢力としての民主党を中心とした野党は、それにアンチだったから。特に、一番改憲が遠ざかったのは安倍政権のときでしょう。憲法99条の解釈すら変えかねない危機感があった。「憲法は国民への命令だ」みたいな憲法観を持ち出す人まで出てきて、自民党の改憲派のドンと言われていた山崎拓さんまでもが「危ない」と言い出した。実は「憲法を守りたい」という人にとってはいい状況だったんじゃないかと思うのね。
 ところが今は、民主党が改憲案みたいなものを出したら、自民党はすぐ乗るでしょう。そうすると、大政翼賛会的に、十分な議論もされずに一挙に改憲まで行ってしまう可能性がある。社民党が連立政権の中にいれば、民主党が一方的にそういう流れをつくるのを止める歯止めになれるんじゃないかとも思っていたんですが。非常に危機感を持っています。

中島  いま日本がアメリカの戦争に「お付き合い」することを防ぐには、逆説的だけど憲法9条を使うしかないと思うんですね。つまり、日本の主権を守るためには、当面は9条を維持しておいて、「いや、うちの国はこういう憲法があるのでお付き合いできません」という断り方をするしかない。今はそういう、ぎりぎりの状況なんですよね。
 しかし、おっしゃるとおり憲法改正の問題は今、民主党の意思次第という状況なので、本来は日米安保をどうするのかということとセットできちんと議論をしてもらわないといけないんですが…そこで重要になるのが憲法の理念の問題だと思います。
 理念というものは二重構造だと僕は思うんですね。カントがいう「統整的理念」と「構成的理念」です。前者は、人類がどうやっても到達することのできない、ある種の恒久的な理想みたいなもの。おそらく絶対平和とか世界統一とかがそれに当たるでしょう。後者はもっと現実の理念で、例えば今ならもうちょっとセーフティネットを整えようとか、八ッ場ダムの問題をなんとかしようとか、そういうものです。そしてカントは「統整的理念のない状態では、構成的理念は理念として成立しない」と言っているんですね。人間は統整的理念にはどうやっても到達しないけれども、そこを目標にしながら構成的理念を整えていく、その二重性が非常に重要なんだと思うんです。
 ところがこれもまた、今の政界で力を持っている「松下政経塾的」な政治の中では理解されない。統整的理念なんて、現実不可能などうでもいいイデオロギーだと思われていて、目先のことだけにとらわれている。結果として自分が「ぶれている」ことにみんな気づいていない。そんな印象が、特に政権交代後、ずっと続いているんです。

辻元  一方で、その「統整的理念」を言っている人たちも、それしか言っていないみたいなところがあって、その両方をつなぐ回路がないように感じる。政権交代して、「新しい公共」に代表されるような新しい芽が出てきて、それが永田町の中だけじゃなく社会全体に広がってきた、そういう部分もたしかにあるんだけど…。
 尖閣諸島をめぐる現在の状況も、そういうところが出た結果じゃないかな。どこの国にも、いわゆる国境地帯のトラブルをどう処理するかという知恵みたいなものがあって、日本も今まではすぐ追い返すなりなんなり、ある程度歴史的な知恵の積み重ねで処理していたわけでしょう。ところが、今回はそうじゃない判断をしてしまった。言ってみれば、今おっしゃった「統整的理念」がなく、現場だけを見て対応してしまっている、その積み重ねでこういう緊張状態になってしまっているんじゃないかなと思う。
 最近は実際に戦争を知っている世代の政治家が去ってしまったこともあって、「健全な保守」という存在が政治の世界にいなくなってきた。紛争処理についても、トータルに物事を見て押すところは押す、引くところは引くという形で裁ける人がいない。今回の尖閣の問題でそういう危機感をまた持ったし、私たちがそういう力をしっかり持てるようにならないとあかんなと思いました。

編集部  社民党をはじめとする護憲リベラル、社民主義の勢力も、今とても小さくなってしまっていますから、その意味でも辻元さんに期待するところは大きいと思います。

辻元  そのためにも私は変わらなきゃいけないと思ったんだよね。守るというか、発展させて、新しい土俵が作れないかと。既存勢力だけにしがみついていたら、社民主義も護憲も守れない、一緒に滅びるしかないというくらい危機感を持ったんですよ。
 批判を浴びて泥をかぶっても現実から逃げたらアカン、そうしないと本当の政治家にはなれないと腹をくくったの。そこでまずはひとりから始めようと思ったんです。ピースボートを始めたときの自分に戻って。
 もしかしたら私は政治家として転落していくかもしれない。でも3年後の自分がより社会の役に立てる政治家になれるよう、照準を合わせた選択だからね。

中島  そのためにも、最初にお話ししたような、新しい結びつきをいろいろつくって。

辻元  うん。いまはあちこちにアメーバのように入り込んで、コツコツ仕事を積み重ねています。これが無所属議員のいいところで、誰とでも仕事ができる。で、一緒に仕事をしてみるとお互いのことがよくわかる。

編集部  そこにぜひ、期待したいです! お2人とも、長い時間ありがとうございました。

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10回にわたってお送りしてきた対談、いかがでしたか?
年が明け、対談の中でも名前の出ていた与謝野馨氏の
「たちあがれ日本」離党・内閣入りが伝えられるなど、
政界にも新たな動きがありそうです。
日本の政治はこれから、どんな方向へ進んでいくべきなのか?
「ピースでフェアな日本」をつくるために、何が必要なのか?
まもなく通常国会も開幕。私たちも一緒に、考えていきたいと思います。
中島さん、辻元さん、ありがとうございました。

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