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2011-08-10up

雨宮処凛がゆく!

第199回

8・6原発やめろデモ!!!!! の巻

デモのために浴衣を購入。デモ以外、着る予定がないのが辛いです・・・。

 前回の原稿で触れた「自主避難」問題だが、8月5日、「原子力損害賠償紛争審査会」の中間指針がまとまった。結果、中間指針には自主避難問題については盛り込まれず、先送りに。ただ、自主避難した人たちへの賠償は改めて検討していくという方向は示された。中間指針で賠償の対象外になったことは非常に残念だが、どのように「検討していく」のか、今後も注目していきたいし、これを読んでいる人たちにもがっつり注目して頂きたい。

 さて、その翌日の8月6日、日比谷公園出発で4回目の「原発やめろデモ!!!!!」が開催された。奇しくもこの日は広島に原爆が投下されて66年目の日。午前中には菅首相が広島の平和記念公園で「原発に依存しない社会を目指す」と改めて発言。

 「唯一の被爆国」にもかかわらず、「核の平和利用」とか言って地震大国に原発を54基も作り、マグニチュード9.0の大震災によってレベル7の大事故を起こして放射能汚染の真っただ中にある66年目の原爆投下の日、声を上げずにいられようか! ということで、午後4時、日比谷公園にはまたしても大勢の人が駆けつけたのだった。その数、主催者発表で8000人。

 しかも、この日のデモコースはやたらと物騒! 中部電力、関西電力、日本原子力研究開発機構を右手に見ながら東電本店前を通り、九州電力が入るビルの裏も通って国際原子力開発近くも行き、またまた東電前を過ぎ、更に東電の別ビルまで網羅するという無駄に豪華というか、とうとう敵陣に乗り込むコースなのである。

 そうして出発前集会を終え、午後5時、デモ隊は出発!

 私は先頭のデモ隊にいたのだが、東電前では「放射能ばらまきパフォーマンス」が繰り広げられたのだった。目に見えない放射能をまき散らしている東電の前で、その放射能を目に見える形にしてやろうというパフォーマンスだ。笛の音と同時にパフォーマンス部隊が持っていた黒い風船が空に放たれる。東電前の空に舞い上がる、煙をまき散らす黒い風船。そうして「原発なくてもええじゃないか」と歌い踊り続けるええじゃないか部隊。

東電前で放射能入り(もちろん本物は入ってません)の黒い風船を放つ!

 この日はそんなパフォーマンス部隊以外にも、パンクロッカー労働組合などが出演する「サマーオブラブ号!!!!! 〜時代を変えるたびに出よう!〜」や「HRP反核D.I.Yカー!!!!!」「DANCE Bloc」など3台のサウンドカーが登場。松本哉さんの「アジテーションライブ」もあるということで、いろんなブロックを行き来しながらデモに参加しようと思っていたのだが、それがまったく通用しないということに気づくまでには長い時間はかからなかった。

 とにかく、警察の警備が異常。デモ隊から一歩も外に出してくれない上、写真を撮るためにほんの少し立ち止まることもできない。東電前などを通るというコースだからなのか、異様にピリピリしている。なんか嫌な感じだなーと思いつつ歩いていたところ、突然、前方で大混乱が発生! 押し寄せる警察の波! それを避けようと前後左右に乱れるデモ隊! 叫び声、怒号。

 混乱は私が経験した中でもっとも長く続き、収まってしばらくした頃、2人が逮捕されたということを知った。なんだか一気に気分がどっと沈んだ。今回の混乱のきっかけについては目撃していない。しかし、目撃者によると突然警察が乱入してきたのだという。5月7日のデモに続き、またしても逮捕者が出た脱原発デモ。原発事故の当事者である私たちが「原発いらない」と東電前で声を上げることは、一体どのような「罪」にあたるのだろうか。一方で、福島第一原発近隣に住む人の人生・生活を根こそぎ破壊した東電や原発を推進してきた人々は一人も逮捕されていない。なんの罪にも問われていない。もう何度こういうことを書けばいいのだろう。そしてあと何度こういうことを繰り返せばいいのだろう。

煙を巻きちらしながら舞い上がる放射能風船!

 この日、デモの途中に「初めてデモに参加した」という人数人に話しかけられた。熱気に驚いた、来てよかった、みんな声を上げてるんだ、上げていいんだと安心した、という意見がある一方で、「このデモで、本当に原発止められるんですかね」「変えられるんですかね」という声もあった。

 変えられるのか、止められるのか、本当のところは私にはわからない。

 しかし、私は今まで、「声を上げずにいたら簡単になかったことになる」現実を多く見てきた。そして「声を上げたら、時に変えられることもある」という現実も、少しだけど経験してきた。それはこの連載の初期に書いてきたプレカリアート運動での様々な成果だ。日雇い派遣の問題や格差、ワーキングプアの問題で、ほんの少しだけど確実に、現実が動いたという手応えはある。それでも解決されていない問題の方が圧倒期に多いものの、どちらにせよ、声を上げなかったら絶対に動きようもなかった現実だ。

「原発やめろ広場」の街宣車の上で。私、福島みずほさん、松本哉さん、顔が映ってないけど藤波心さん。原発事故がなければあり得ない4人じゃないですか?

 ただ、私たちはあまりにも現実を変えたことがないし、その成功体験も乏しい。だからこそ、「デモなんてやって意味あんの?」という言葉の前に口ごもってしまうこともある。だけど、そのたびに私には思い出すことがある。私の初デモはイラク反戦デモ。02年から03年にかけて開催されていたデモによく参加していたのだが、イラク戦争が始まる一か月前に訪れたバグダッドで、驚いたことがある。それは当時のイラクの新聞のトップが連日のように「海外の反戦デモ」だったこと。その中には日本のデモを写真入りで大々的に報じたものもあり、私はイラクで出会った何人ものイラク人に「日本で反戦デモをしてくれてありがとう!」と熱烈なお礼の言葉をかけられた。それは何か面食らうような出来事で、しかし、私の中に常にうっすらとあった「日本でデモやってなんか意味あんのかな・・・」という思いを一気に払拭してくれるものだった。心で思っているだけじゃどこにも届かないし力にもならないけれど、行動に移せば、必ずどこかに届く。そしてそれが、自分が思ってもいないような地球の反対側にまで及ぶことがあるのだ。

街宣車の上でライブ!

 もちろん、それでもイラク戦争が始まってしまったことを思えば「意味はなかった」のかもしれない。だけど、とにかくあの時の私はいても立ってもいられなかったし、今もそうだ。事故からこれだけの時間が経った中、既にこの現実に「慣れ」てしまっている人も多いだろう。また、原発怖いなと思いつつも、行動に移せない人もいるだろう。「もっと激しい反対派の人たちがなんとかしてくれる」という人もいるかもしれない。しかし、「誰かがなんとかしてくれる」と思っていたら大抵の場合、取り返しのつかないことになるし、そもそも私は顔の見えない「誰か」を信用などしていないしするつもりもない。「誰か」に丸投げしないことこそが、最低限の「責任」という気がするのだ。

 この日、デモ解散地近くの新橋駅前はまたしても「原発やめろ広場」となった。すべてが終わり、イタリア人のメディアの人に言われた言葉がずっと残っている。

 「事故から5ヶ月も経つのに、どうして日本は脱原発という選択をまだしていないのか? 一体何をしてるんだ? 10年後に脱原発じゃなくて、今日、明日じゃないの?」という言葉だ。廃炉を決めるまでが長引けば長引くほど、被曝労働にかかわる人の数は増え続ける。廃炉にするとなれば気が遠くなるほどの時間がかかる。だからこそ、どうして今すぐ脱原発と言えないのかという、あたりにもまっとうな疑問だ。

 90%以上が原発再開に反対したイタリア人から見ると、やはり今の日本は異様なようである。そんな中、この日、日本で脱原発デモがあったという事実は、やはり意味があると思うのである。

新橋駅前が「原発やめろ広場」に!

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「そんなことやったって何も変わらない」。
よく聞く言葉ですが、やらなければ絶対に何も変わらない。
そして、どんなに小さくても変わる可能性だってある、のです。
「誰かがなんとかしてくれる」のを待つよりも、
自分がその「誰か」のひとりになるほうを選びたい!
この日のデモ主宰者のひとり・松本さんのコラムもあわせてどうぞ。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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