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特別対談:バックナンバーへ

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「格差×戦争 〜若者のリアルと憲法〜」雨宮処凛×堤未果〈その2〉

「ネットを使って、分断から連帯へ」

現在、貧困、労働問題について、全国の現場を取材中の雨宮処凛さんと、米軍にリクルートされる貧困層のルポなど、アメリカー東京を行き来しつつ、発信を重ねている堤未果さんとの、刺激的な対談のレポートをお送りします。
この対談は、11月24日に早稲田大学で行われた「憲法カフェ・プロジェクトチーム」主催のトークイベントの一部収録です。
取材協力・写真提供)「憲法カフェ・プロジェクトチーム」憲法カフェblog

雨宮処凛●あまみや かりん
北海道生まれ。作家・プレカリアート運動家。21歳の時、右翼団体に入会。愛国パンクバンドでボーカル活動。1999年、その活動がドキュメント映画「新しい神様」(監督・土屋豊)になる。右翼団体を脱退後、作家活動に入る。著書に「生き地獄天国」(太田出版)、「すごい生き方」(サンクチュアリ出版)など多数。2007年に「生きさせろ!難民化する若者たち」(太田出版)で日本ジャーナリスト会議JOC賞を受賞。

堤 未果●つつみ みか
東京生まれ。著作家・ジャーナリスト。国連婦人開発基金、アムネスティインターナショナルを経て、米国野村證券に勤務中9.11に遭遇。帰国後は、アメリカー東京を行き来しながら執筆・講演活動を行う。著書に「グランウド・ゼロがくれた希望」(ポプラ社)、2006年に「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」(海鳴社)で日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞。近く「貧困大国アメリカ」(岩波書店)が発刊予定。

■分断された若者が、ネットを使って手をつなぐ

 アメリカ軍に入った若者たちに、最初に何が行われているかというと、最初の3ヶ月間で、徹底的に自尊心がこわされます。例えば、彼らは名前でよばれない。「おい」とか数字で呼ばれたりします。

雨宮

 派遣社員と同じですね。

 あと、会話してくれないとか、みんなの前でどなるとか、意味のない腕立てふせを延々とさせるとか。人間としての自尊心を無くしてしまったほうが、兵士として使いやすいんです。そうやって人々が、分断されていくと、ファシズムに走るという傾向があるのですが、資本主義も共産主義も救ってくれなかった、じゃあ、ファシズムだってことで、アメリカの高校生なんて今、とても多いのですが、その辺、日本ではどうなんでしょうか?

雨宮

 えっと、どうでしょうかね。ファシストの方、この会場に来てますか?いたら挙手してください、ここにはいないようですね(笑)。外山恒一さんぐらいですかね。

 プレカリアートの運動や、反貧困のデモには、ネット右翼の人たちが実は結構参加してくれていて、いろいろと対立というか議論も生み出しているようですが、それはすばらしいことだと思います。やっぱり、ネット右翼でもファシストでも、生活実態としてはまったく同じ貧困層じゃないですか。思想がどうこう言ってられないくらいみんな等しく貧乏です。そういった人たちと一緒にデモができるというのは、すばらしいなと思うんですね。「貧困」で連帯できる。

 アメリカでは、そうやって分断されていて、不安で、生活のために、または自己承認のために戦争に行ってしまう、行かされてしまう子どもたちが、いったいどうやって手をつないでいるかというと、私が取材した高校生たちの中では、情報をネットを使って手渡して、自分たちがやられていることは、実はこういうことなんだよと、インターネットでみんなに知らせて、最終的に、実際に国防総省のプログラムの一つを廃止させたという実例があります。

雨宮

 すごいですね!

  “JROTC”(Junior Reserve Officer Training Corp )というそのプログラムは、高校の中で落ちこぼれたり、不登校の子たちを対象にした、表向きはその子たちの学力をアップさせてちゃんと卒業させるというものですが、国防総省の管轄でやっているものです。だから、普通の授業のようなんですが、教科書を見せてもらうと、内容は武器の作り方や、砂漠での生き延び方、ほふく前進の仕方などが書かれてあり、最終的には武力で問題を解決するというコンセプトで授業を進めていきます。

 高校生でまだ頭のやわらかいうちに、そういった授業を受けると影響は大きいでしょう。実際に武器を使った訓練なんかするんですが、そのコースを卒業した7、8割の学生たちがそのまま入隊していきます。国防省がやっているある種のコストゼロのリクルートなんですね。

 でも、それをやられていた当事者である高校生たちが、やっぱりこれはなんかおかしい、と気づいて声をあげ始めた。高校を卒業し、就職するのは自動的に軍隊では、僕たちの職業を選ぶ自由、未来を選ぶ自由を政府が奪っている、というのを、簡単な文章にして全米のネットワークに流したんですね。

 分断されている人たちが、入隊していく理由は、行き場がないから、認めて欲しいから入る、というのがほとんどですから、その子たちがネットで連帯していくともう、軍なんて入りません。そしてそのプログラムは、自分で入って、自分で辞められるシステムだったので、生徒がどんどん減っていき、集まらなくなってしまって、実際にニューヨークのアルバニーというところでは、そのプログラムが閉鎖されました。

雨宮

 おおっ、すごいですね。

 私は、それを指揮した高校生の男の子にインタビューしたのですが、彼は、「最初は、絶対に無理だと思っていた。自分たちは子どもで力がないと思っていたけれど、実際に世の中を動かすことができた。勝ったと思いました」という感動的なコメントを言ってくれたんですね。

 そこで日本では、活動や連帯のためには、何をツールにしていますか?

■日本の若者とアメリカの若者が手をつなぐ時

雨宮

 日本もネットとかブログを使ってますし、民主主義は選挙だけでない、デモがある!ということで、デモも有効利用しています。デモがあると新しい人たちもどんどん入ってきますしね。「反貧困」ネットワークというのが、 今年立ち上がったのですが、さっき堤さんのお話にもでてきた、“もやい”の 湯浅さんが呼びかけて、代表は多重債務の問題にくわしい宇都宮弁護士、副代表は、グッドウィルユニオン委員長、シングルマザーズフォーラム、それから私もなぜか副代表をやっていて、いろんなジャンルの違う人たち、労働組合も連合からフリーター労組まで、正規・不正規入り乱れて、あと、障害者やDV関係の会、ホームレス支援団体など、いろんなジャンルの団体が集まってやってます。

 で、どうしてこんなに連携できたかというと、それはそこまで状況がひどくなっているということだと思います。11月27日には、国会において、反貧困の院内集会もあり、党派をこえて、絶対に取り組まないといけない問題として、要求したりしています。

 あと、私は組合が、ちょっとした“居場所”っぽくなっているのも、いいなあと思っています。労働組合という言い方ではなんだかもったいなくて、「生存組合」という言い方もしてます。

 アメリカも、似たような状況にはなっていますね。もっと単純ですが、戦争反対と労働者の生存権の問題の根っこは同じだったということで、アメリカ史上初めて、2004年のワシントンで反戦の団体と労働組合とがデモを一緒に行ったということがあります。彼らが手をつなぐことができたのは、問題の根っこが同じということがわかったから。「敵は体制側かと思っていたが、自分たちの無関心だったかもしれない。やはり無関心や無知に打ち勝つということが大事だ」そう、彼らは言ってました。

 実は、日本とアメリカってすごく違うし、同盟はしているみたいだけれど、やはり遠い国だし、でも今、日本とアメリカの若者で、危機感を持っていることや抱えている問題は、とても似ているし関係してますよね。ということで、ネットを通じて、手をつないでいきましょうという動きがあるんですよ。

雨宮

 へーっ、それはいいですね。でも私、英語できないんですけれど、そのへんは大丈夫なんですか?

 通訳のボランティアとかいますから、大丈夫です。だから、雨宮さん率いる、貧困問題で苦しんでいる、または連帯している若者たちが、是非、アメリカの若者と情報交換する機会を作ってください。

雨宮

 いいですね。今度、もしかしたら仕事でニューヨークに行くかもしれないんで、会いたいですね。

 是非! 会ってください。

雨宮

 はい。是非! そして私の仲間たちにも、提案してみたいと思います。

2回に分けてお届けした雨宮処凛さんと堤未果さんの対談、いかがでしたか?このアフターシンポジウムが、対談を主催した「憲法カフェ・プロジェクト」の企画で、12月22日に高円寺であります。詳しくは、こちら。現実に日米の市民や若者の身におこっていること、そして憲法をどう使い、考えていけばいいのか、たくさん議論して考えていきたいと思います。

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