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2011-08-24up

雨宮処凛がゆく!

第200回

命に期限をつけるな! の巻

「朝までニコ生PLANETS」に出演しました。

 祝!! 連載200回!!

 ということで、この連載もなんと200回目。偉いぞ私! 誰も祝ってくれないので自分で冒頭から祝ってみた。誰か、祝って! そして「偉いね」って私を褒めて! で、なんか奢って!!

 というのは個人的な心の叫びなのでスルーしてもらっていいが、世の中的にはやはり目出たくないことが目白押しだ。

 22日には、福島第一原発から20キロ圏内の警戒区域の一部への立ち入り禁止期間が想定より長くなることが明らかにされた。もう原発事故の話ではちょっとやそっとのことでは驚かなくなっているわけだが、この国に「放射線量が高くて人が立ち入ることのできない場所」が存在するわけである。改めて考えると、なんだか映画のようなことが既に「日常」になっていて、それが「現実」だと認識するたびにゾッとする。

 そんな中、8月17日には北海道の泊原発が営業運転を再開。福島での原発事故後、初の営業運転再開となったのだった。

 この日、ちょうど私は北海道の実家に帰省中だった。そこで感じたのは、「東京で脱原発デモとか行きまくってる自分」との圧倒的な温度差だ。雇用やお金、そして田舎ならではの濃密な人間関係、しがらみ。私の地元は泊原発とはそんなに近くない。しかし、3・11後、初めて北海道に帰った私は改めて何かリアルな「原発問題の本質」にほんの少しだけ触れた気がした。営業運転が再開された日の、北海道新聞の夕刊の見出しにはこんな言葉が躍っていた。「泊原発 周辺4町村 『外は騒ぎすぎ』」「平静を保つマチ 『脱原発』の波 複雑な思いも」。

 原発を受け入れ、共存してきた地域が「脱原発」の声に感じる違和感。そこには「自分がその立場だったら」と考えるとやはり納得することが多くて、「原発のない東京」に住む自分とはまったく別の視点に今更ながら本当にいろいろなことを考えさせられた。今、必要なのは、おそらく現地の人が感じる違和感を乗り越える言葉で、少なくとも私はまだ、そんな言葉を獲得できてはいない。

 さて、北海道に帰省する前の8月10日、あるデモに参加した。それは「私たちの声を聞いて下さい! 生活保護利用者デモ」。

 現在、生活保護が初めて見直されようとしていることは193号の後半にも書いた。「国と地方の協議」によって、密室の中、メディアにも公開されずにそんな話し合いが行われているのである。で、この密室協議で市長会が提言しているのが「生活保護を有期制にすること」(3〜5年で打ち切り)と「医療費の一部自己負担」だ。

この日掲げられたプラカード

 この提言に対して、「働く気がない奴には保護なんか打ち切ればいい」「医療費くらい負担したらどうか」という意見の人も多いと思う。しかし、そもそも生活保護を受けている人の中でもっとも多いのは高齢世帯で44.3%、次いで多いのが傷病障害世帯で34.3%(09年)。高齢者と病気、障害を抱える人で実に8割に迫るのだ。そんな人たちが「3年経ったから打ち切ります」と言われたらどうすればいいのだろうか。しかも、国が定める生活保護費には、医療費は含まれていない。病院に行くためにギリギリの生活費から食費を削ったり、或いは病院に行くのを我慢して病気を悪化させて医療費が更にかかったりなどが予想される。というか、現在、例えば障害者施策を変えるという時には当事者の人の意見を聞くのが当たり前みたいになっているわけだが、今時当事者の意見も聞かずに密室で協議するというのは手続きとしておかしいのではないか? ということでこの日、生活保護を利用している人70人ほどが集まり、厚生労働省を通るコースでデモをしたのだ。

 そうして猛暑の中駆けつけたデモで、私はあまりにも切実な声に触れた。

 重い心臓の病気で働けず、民生委員の助けによって生活保護を受給することができたとう男性は、「生活保護がなかったら死んでしまうんです」と訴え、医療費の一部負担についても述べた。

 「医療費を一部自己負担にしたら、僕の薬、飲めなくなります。飲めなくなったら血が固まって死にます。命を守るための生活保護です。それに期限をつけるなんてどういうことですか」

 また、十数年前にバイクの事故で両目を失明し、左足を膝のところから失い、また両手のほとんどの指を失ったという車椅子の男性もデモに参加していた。事故のあと、2年ほど病院を転々としていた男性は退院して地域で暮らすことになり、最初の1年間は貯金でなんとか生活していたものの、1年ほど経ったところで通帳の残高が2000円ほどに。そこで生活保護制度を思いつき、窓口に行くものの、こう言われたのだという。

 「窓口の人に『あなたは働けないんですか』と言われました。僕は最初、(目が見えないので) 他の人に言ってるのかなと思ったんですが、そこには僕と担当の人しかいないことに気付きました。頭が真っ白になりました」

 その男性は福祉事務所に行く前に、ハローワークに行っていたのだという。しかし、「足がなくて指がなくて両方の目が見えなくても就ける仕事はないですか」と聞くものの、答えは「残念だけどないですね」というものだった。

 頭が真っ白になりながらもなんとか状況を伝え、無事生活保護受給に辿り着いた男性は、この日のデモで、訴えた。

 「僕はこの身体になるまで、まさか自分が事故で障害者と呼ばれる状況になり、まともな暮らしができる稼ぎを稼ぐことができない状況になるなんて思ってもいなかったんです」「確かに今は、申し訳ないですけど沿道の皆さんのように、毎日汗水流して労働しているわけではないです。それでも、僕ももし許してもらえるならば、可能であるならば、寿命が尽きるまで生きていたいんです」「僕は生活保護制度を使わないと生きていけないから使わせてもらっています。でも、使える期間が区切られて、3年経ったら、5年経ったらダメだよって有期制が導入されてしまったら、僕も暮らしていけないし、生きていけなくなります」

 この問題は、まさに憲法25条「健康で文化的な〜」というアレに直結する問題である。そして最後のセーフティネットに穴を開けるような改悪がされようとしていることは、私たち全員にかかわる問題でもある。それだけではない。東日本大震災で被災したことがきっかけで生活保護を受給せざるを得ない人も増えている。震災や原発事故で職を失った人も膨大な数に上る。今はまだ雇用保険でなんとかなっているという人も、いずれ受給期間が切れる。被災者の中には高齢の人も多い。そんな中、「財源がない」というのを理由に「3年経ったら打ち切りね」ということになれば、増えるのは自殺、ホームレス化、孤独死であることは誰の目にも明らかだ。

 だからこそこの日、70人は「人の命を切り捨てるな」「命に期限をつけるな」「人の命を財源で切り捨てるな」「国と地方はこそこそ協議をするな」「最後のセーフティネットに穴を開けるな」と声を上げたのだ。

 デモの様子を、多くのメディアのカメラが撮影していた。

 ただでさえ、生活保護受給者への世間の目は冷たい。顔を出して声を上げれば、どれほどのバッシングに晒されるかわからない。しかし、この日、70人は堂々と声を上げた。この日、集まった人々の勇気を、私は勝手に心から尊敬している。なぜなら、やっぱり「声を上げなければ簡単になかったことにされる」に決まっているからだ。

 「国と地方の密室協議」は、この日、生活保護改革をとりまとめる予定だった。しかし、協議は難航し、とりまとめは延期。とりまとめ案は9月以降に協議されるという。

 「命に期限をつける/命を差別する」ようなセーフティネットのあり方でいいのか、それとも、病気や障害や老いという、誰もが持っているリスクに対応するセーフティネットがいいのか。今、この国は岐路に立たされている。そしてそれは、いつかあなたの人生/生死と直結するかもしれないのだ。

デモで久々に会った「アキオちゃん」と。フランスで開催されるホームレスワールドカップに野武士ジャパンとして出場するそうです。頑張って!!

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それは、200回の連載の中で雨宮さんが訴え続けてきたことでもあります。
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安心して生きていくことのできる社会であってほしい。
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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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