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2013-04-17up
マガ9レビュー
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原子力報道
5つの失敗を検証する
(柴田鉄治/東京電機大学出版局)
東京電力福島第一原子力発電所の重大事故後、福島原発の映像を流すテレビは「30km以上離れて撮影しています」というテロップをつけていた。そして政府が発表する「ただちに人体に影響はない」というコメントを流しながら、自社の記者には(危険区域に)「入るな」と指示していた。こうしたマスメディアの報道ぶりに、私たちは、彼らがいったいどこを向いてニュースを発しているのかを考えさせられた。
本書の副題に掲げるメディアの「失敗」として、著者は、①原子力の特異性を報道しなかったこと、②推進側より反対派に厳しかったこと、③原発批判が「原子力ムラ」には届かなかったこと、④原子力行政をチェックできなかったこと、⑤「何が起こったのか」に肉薄しなかったこと、を挙げている。
敗戦直前の大本営発表、戦後のアメリカによる厳しい統制によって、ヒロシマ・ナガサキの悲劇を国民に伝えられなかったメディアは、スリーマイルやチェルノブイリにおける原子力発電所の重大事故に関する正確な報道に努めたものの、こと自国の原発に関しては「日本ではこんなことは起こらない」という安全神話に囚われてしまった。
原発の推進側は、反対派に「絶対安心なのか」と問い詰められて、「絶対安全だ」と答えた。少しでも留保があれば建設できなくなるからだ。それが緊急時の避難計画の立案を妨げ、自らの首を絞めることになる。そのことを例えて著者は、「航空会社が『わが社の航空機は絶対安全ですから、酸素マスクも救命道具も積んでいません』といったら、その会社の航空機に乗る人はいるだろうか」と述べる。わかりやすいと同時に背筋が寒くなる。
本書に記されている内容に特段新しい事実はない。にもかかわらずページを繰る手が止まらないのはなぜだろう?
理由のひとつは、著者が朝日新聞の記者としてマスメディアの世界に身を置いていたことだ。内部を知るがゆえに単純な報道機関への批判に陥ることなく、報道する際の問題点を丁寧に拾い上げ、その解決も視野に入れた提言を可能にしている。2つ目は著者が科学者を志していたことだ。東京大学で物理学を専攻した著者の目は、原子力の平和利用という喧伝の裏に潜む負の部分から、東電幹部の嘘、経済産業省の原子力行政の矛盾にいたるまで見逃さなかった。科学を専門とした人間が社会部の記者として取材先を奔走した経験が、原発力報道の検証を可能にしたといえる。
科学報道の歴史という縦糸と、その都度どのようにニュースは伝えられたのかという横糸がうまくかみ合った本書は、なぜ私たちはいまこのような状況に置かれ、これからどのような方向へ進むべきかを示してくれる。
(芳地隆之)
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