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2012-11-28up
著者は長年、原子力発電の危険性と同産業を取り巻く利権構造を厳しく追及してきた。それでも2011年3月11日の東京電力福島原発の過酷事故後、原発を止められなかった自分の力不足について言及する。この一点だけでも十分信頼に足る政治家だと思う。
そんな人物が人口88万人の東京世田谷区の区長になった。佐賀、島根、徳島、高知、福井、山梨のそれを上回る自治体のトップである。就任時、著者は、行政の仕事は継続であり、これまでの区政の95%は従来通りに進めるが、残りの5%は新しい領域に切り込んでいくことを宣言する。
その5%が世田谷を変えていく。
中心課題は脱原発だ。同区は2012年2月、大手電力会社ではない電力事業者であるPPSからの電力の一部購入を決める。
これがメディアでも大きく取り上げられ、すかさず東京電力からプレッシャーがかかる。競争のない独占企業の立場に胡坐をかき、情報を開示せず、脅しのように節電を迫り、電力料金値上げを一方的に通達する同社との交渉から、著者が政治家として類まれな力量の持ち主であることが見えてくる。数々の疑問点を提示し、相手に誠意ある回答を迫る姿は「国会の質問王」の異名を取ったころを彷彿させる。東電とのバトルの後、電力供給システムの改革の推進論者である、枝野幸男・経済産業大臣へ電力市場の自由化の要望を伝えるなど、動きも早い。
区長の仕事はさぞ激務だろうと想像する。ところが本書からは、むしろ落ち着いた著者の姿が浮かび上がる。現役政治家の本にありがちな自慢めいた表現は一切なく、問題に真正面から取り組む区長の日常が丁寧に綴られているからだろう。
地方自治体選挙に立候補し、「○○から日本を変える!」と叫ぶ人物には日頃から胡散臭いものを感じてきた。日本を変えたいのであれば国政選挙に立候補すればいい。地方自治の首長の仕事の多くは地道な作業だ、ときには根気のいる調整もしなければならない。ところが「日本を変える!」の立候補者からは、地方自治を踏み台にして国会進出を目指そうという野心ばかりがちらちら見えてしまうのである。
しかし、本書を読んで、大いなる例外があることを知った。保坂区長の地べたに足の着いた活動が、全国の自治体にも広まり、それがやがて日本全体に普及していく。そんな予感がしたのである。
(芳地隆之)
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