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2012-10-31up
「これを売らないとお金になんないんだから。……『飯舘』っていうだけで、何をつくっても買ってもらえない」
福島県飯舘村の前田地区で夫、長谷川健一さんとともに酪農を営む花子さんは、搾乳した乳をポリタンクに入れながら語る。放射線量が高いため、それはすべて捨てなくてはならない。かといって搾乳はやめられない。牛が乳腺炎になってしまうからだ。
「すごいよね、(放射能は)見えないからね。(空を見上げて)うまく溜まってんだろうなあ、そのへんに。しかし、不思議だよね、地球って、なんでここに溜まってる?」
同じ村の蕨平地区で志賀正次さんとともに酪農を営む妻、百合子さんは力なく語る。志賀さんたちは家族同様だった牛たちを信州の牧場に、あるいは屠場に引き渡さなければならなかった。
過酷事故を起こした福島第一原子力発電所から半径30km圏内に入るこの村の住民は、計画的避難の対象となった。自分の土地から去り、仕事を捨てざるを得ない村民の多くは、原発の事業体である東京電力、その運営に対して最大の責任を負う日本政府を声高に非難しようとはしない。故郷を離れることの悲しみ、これからの生活に対する不安を訥々と語る。製作・配給・監督の三役を一人でこなす土井敏邦氏はカメラを回しながら、村民の言葉に耳を傾け、相槌を打ち、言葉のひとつ、ひとつを反芻する。
そんな映像は私たちに、自分のたちの生活が口数少なく、黙々と日々の労働に勤しんできた方々の犠牲の上に成り立っていたことを痛感させる。都市に住む私たちは、我慢強い東北人の気質を、これ幸いと利用してきたのではないかとさえ思う。
飯舘村で生まれ、飯舘村で育ち、飯舘村で働き、そして死ぬ。人生のささやかな願いを原発は打ち砕いた。牛が一頭もいなくなっても、いつものとおり目が覚める。でも、やることがなく途方に暮れる。生きる尊厳と未来を奪われるとは、どういうことか。想像力を駆使して考えることが、福島原発からの電力供給を受け、首都圏で生活していた人間にとっての最低限の義務である。
土井氏は、いち早く村を出て、新しい生活を始めた幼児をもつ若い世代にも話を聞きに行く。子どもの安全よりも優先にすべき何があるのか――表情にあどけなさが残る青年の問いに、たとえば「脱原発は無責任だ」とほぼ全員が語った自民党総裁選の候補者はどう答えるのか。
「脱原発」が無責任と本当に思うのであれば、その後にこう続けるべきだ。「事故によって住民が命の危険にさらされても、故郷を追われても、未来を奪われても、原発存続のためであればやむを得ない」と。
本作品の一般上映は行っていない。DVD販売価格、自主上映会での鑑賞が可能である。ご希望の方は土井氏宛メールアドレス(doitoshikuni@mail.goo.ne.jp)にご連絡を。
監督の講演も受け付けている。現在、第二章が待機中だ。
(芳地隆之)
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