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2012-07-18up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.199

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原発から見えたこの国のかたち

(鈴木耕/リベルタ出版)

 本書は当ウェブサイトの連載コラム「ときどきお散歩日記」に筆を加え、精査してまとめられた作品である。「反原発日記」に続く著者の第2弾であるが、東日本大震災による福島第一原子力発電所の苛酷事故により広がる危機の実相を記録し、緊急的な対処法を訴えた前作に対し、こちらは腰を据えて、原発が私たちの国にとってどういう存在なのかという問題に真正面から取り組んでいる。

 本書は7つの視点から語る。原発事故により、これまでの生活すべてを奪われてしまった人々の心情に寄り添い(第1章)、原発との共存はありえないことを説き(第2章)、原発を必要としない理由を系統立てて論じ(第3章)、それでも原発を存続させようとする政・官・学・財界、そしてそれを後押しするマスメディアという、原発を巡る利権が複雑に入り組んだ構造をひとつひとつ白日の下に晒す(第4~7章)。「原発を停止すれば、深刻な電力不足に陥り、国民生活が大混乱に陥る」とか「原発が稼働しなくなれば大幅な電気料金の値上げは避けられない」といった通説を、日本の電力会社が原発を優先して稼働させるため、他の火力や水力のシェアを抑えていること、燃料価格が変動しても値上がり分を電気料金に自動的に上乗せできる原燃料費調整制度のおかげで、コスト削減の努力をしなくても済む点などを指摘することで翻していく。

 最近、再稼働された大飯原発については、福島原発で最後まで機能し、作業員の方々が決死の覚悟で最悪の事態を防ぐ場となった「免震重要棟」の不在について、

 「これ(免震重要棟)ができるのは、なんと2015年だという。原発のシビアアクシデントが起きたとき、爆発を防ぐ最後の手段が格納容器の圧力を抜くベント(排気)だが、その際の、放射性物質の除去のフィルター設置さえも大飯原発にはない。これが設置されるのも2015年だというのだ」

 著者は大手出版社の編集者時代から原発問題に取り組み、日本の原発の危険性に早くから警鐘を鳴らしてきた。この道の専門家といってもいいのだが、本人にその自負はないのか、あえてそうしているのか、私たちと同じ目線を外そうとしない。常に一生活者の立場から、読者に――それが怒りであっても――丁寧に語りかけるのである。

 言葉は平易だが、深い。

 著者が語ることの影響力は、たぶん自身が考えているよりも大きいだろう。

 「……人々の小さな声の緩やかな連帯が原発再稼働を一定程度押さえ込んだのは事実だ。それがいつか『この国のかたち』をまともな方向へ導くはずだ」(「終わりが見えない≪あとがき≫」より)

 本書はそのための格好の手引きである。

(芳地隆之)

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