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2012-02-22up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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上野先生、勝手に死なれちゃ困ります
僕らの介護不安に答えてください
(上野千鶴子・古市憲寿/光文社新書)
古市「……自分の時間やお金っていう限られたリソースを、家族や子どものために分配する覚悟なんてまだないですよ。どうせ結婚するなら、自分をレベルアップさせてくれるような人と一緒になりたいとかは思いますけど」、上野「ほおー。自分にとって投資になる相手ということか」、古市「まあ。あくまで理想はですけど」、上野「これもわかりやすい自己中心性よねえ。だったら子どもを持つっていうのはリスク?」、古市「うーん、リスクとまでは言わないですけど、リターンが不確実な投資ですよね」
結婚や子育てをビジネス用語で語るのは、世代的な特徴なのか、あるいはその人個人の感覚によるものなのか。本書では、現状に満足しているいまの若者たちの気分を分析した(『絶望の国の幸福な若者たち』)若手社会学者の古市憲寿氏が、介護保険が導入された日本で、いかに一人で最期を迎えるかを論じた(『おひとりさまの老後』)東大名誉教授の上野千鶴子氏に、少子高齢化社会における介護について質問を重ねる。
団塊ジュニア(古市氏)を前に、団塊世代(上野氏)は自分たちがこんな子供たちを育ててしまったと嘆いたりしながら対談は進んでいくが、本書の良さは、親が死んでしまったら気持ちの上でも、経済的にも不安だとか、自分は誰かの庇護者にはなりたくないとか、古市氏が実も蓋もない(ように聞こえる)考えをストレートに投げかけるところにある。それに対して上野氏は時にいら立ちを抑えつつ、介護保険の何たるかを語る。そのやり取りを通して現在の若者のもつ不安の正体とその背景が見えてくるのである。
いまの若者が、親世代が老後に自分たちのストックを食いつぶし、子どもには何も残さないことを知る40~50代になったとき、かつて「絶望の国の幸福な若者たち」と呼ばれた彼らはどういう行動に出るのだろう。現在、非正規労働を強いられる若者と、専業主婦という立場に立たされざるをえなかった女性は連帯できるはずという上野氏の指摘は新鮮だ。少子化対策にもっとも有効な対策が婚外子差別の撤廃やシングルマザー支援であることで両者は一致している。
いずれは向き合わなくてはならない介護の問題を前に、古市氏の都合のいい願望や発想が、上野氏によって懇切丁寧かつ木端微塵に打ち砕かれる。おそらく読者は、20代の意見と60代のそれの間を共感と反発で行き来しながら読み進めていくのではないか。そうやって介護の不安に対する耐性をつけていく。そんな本だと思う。
(芳地隆之)
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