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2011-06-08up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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移行期的混乱
―経済成長神話の終わり―
(平川克美/筑摩書房)
2009年12月15日付の毎日新聞朝刊に掲載された「経済戦略をめぐる財界トップの発言」という記事で、御手洗富士夫・経団連会長(当時)らが鳩山政権(当時)の経済政策に成長戦略が見られないことに苦言を呈していた。しかし、本書の著者は言う。「日本のGDPが伸び悩んでいるのは、戦略の欠如によるものではなく、経済成長の結果なのである」と。それを論証するため、本書は戦後の日本を次の4つに区分して語る。すなわち、①60年安保と高度経済成長の時代(1956~1973年)、②一億総中流幻想の時代(1974~1990年)、③グローバリズムの跋扈(1991~2008年)、そして現在の④移行期的混乱(2009年以降)だ。
①は私たち日本人の独自の労働感が色濃く出た時代だった。お金に換算できない労働の価値を尊び、お金のことでとやかく言うのは下品なことであるという意識。みなが貧しかった。②になると、可処分所得が大幅に伸び、自家用車の保有台数が増え、核家族化が進んだ。コンビニエンスストアが私たちの生活を大きく変えたのもこの時代である。そして③になり、経済成長が鈍化し始めると、人の成功は金銭によって図られるといった風潮が支配的になった。
しかし、それも2008年秋、リーマンブラザースの破綻を機に生じた世界的な経済危機によって崩れてしまった。そしていま私たちは④のなかにいる。これが著者の認識である。
人口が減り、経済成長を望めない時代に、どのような社会を構築していくべきか。著者による少子化についての次の文章は含蓄に富んでいる。
「総人口の減少を食い止める方策は、さらなる経済成長ではない。あるいは経済成長を続けるための方策は、総人口の再増加でもない。むしろ、それとは反対の経済成長なしでもやっていける社会を考想することである」
後世の人々から見ると、私たちは成長を前提とした資本主義社会の終わりを迎えているのかもしれない。
上質な日本の戦後史を読んだような充実感と、私たちが世界に先駆けて未体験ゾーンに入っていることへの自覚を与えてくれる本だ。
しばらく私たちは試行錯誤を続けていくしかないのだろう。東日本大震災後の現在、そんな思いをより強くする。
(芳地隆之)
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