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2011-03-30up
忌野清志郎がプロテストソングの雄のように持ち上げられることに、私は強い違和感を覚えていた。そういった傾向が生まれたのは、いまから14年前の1988年夏にリリースされたこのアルバムの発表からだと思う。タイトルにある通り、全曲カバーで、オリジナルの日本語歌詞を載せている。そのなかに「反核」や「反原発」のメッセージが織り込まれていたことで、販売元の東芝EMIが発売を取りやめたという曰くつきの作品だ。
後日、キティレコードが出すこととなり、私はリリースと同時に買い求めた。「さぞ過激な歌の数々に違いない」と期待に胸を膨らませていたからだ。しかし、最初に聴いたとき、私は思わず笑ってしまった。だってエルビス・プレスリーの名曲『ラブミーテンダー』の甘いメロディに「核などいらねえ」とか「牛乳を飲みてえ」である。エディ・コクランのロカビリー『サマータイムブルース』には「電力は余ってる」とか「原子力はいらねえ」だし。ボブ・ディランの『風に吹かれて』はオリジナルに近かったが、とにかく日本語とリズムの組み合わせに無理がある。そして、それが生み出す不協和音が抜群に面白かった。
私は、忌野清志郎とRCサクセションのバンドメンバーの遊び心満載のアルバムとして『COVERS』を愛聴した。ジョニー・リバースの『シークレットエージェントマン』で、こぶしの効いた女性の歌声が入っていたので、誰かと思ってライナーノーツを見たら、坂本冬美だった。彼女の他にも忌野清志郎の高校時代からの親友である三浦友和ほか、山口富士夫、ちわきまゆみ、泉谷しげるらが参加している。
忌野清志郎は皮膚感覚を大事にするミュージシャンだと思う。彼の中では、愛や友情、悲しみや喜びと、政治批判や社会問題の間に段差はない。歌う対象が違っても、彼の言葉は身体の奥から生まれ出ているから、私たちのハートにまっすぐに届いた。忌野清志郎の音楽へのスタンスは、一昨年5月に亡くなるまで変わらなかった。
それにしても14年たった今も歌詞が古びないのはいいことなのか、悪いことなのか。
カラオケで『COVERS』のナンバーを歌いたくなった。
(芳地隆之)
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