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2011-03-11up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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パリ20区、僕たちのクラス
2008年フランス/ローラン・カンテ監督20区はパリの下町。移民が多く住む地域だ。国語教師、フランソワが担任を受けもつクラスには、モロッコ、マリ、中国など、様々なルーツをもった生徒たちが集まっている。当然ながら、彼、彼女たちの学習意欲や価値観は違う。息子には一生懸命勉強して出世してもらいたいと願う親もいれば、フランス語を話せず、子供の学校生活に無関心な親もいる。
それでも出自の違う生徒たちがやがては教師の下で一致団結し、みんなで何かひとつのものをつくりあげていくのではないか――私はこの映画にそんな期待を寄せていた。そして見事に裏切られた。
カメラは20区の中等学校の日常を追っていくだけなのである。授業中の絶えない私語、教科書さえもってこない生徒、フランソワの言動に対する抗議の意味から女子生徒は授業をボイコットし、他の中等学校を放校されて送り込まれた男子生徒は教師にくってかかる。
私はフランソワの世代に近いので、どうしても教師の立場に感情移入してしまう。いら立ちを抑えきれず、感情を露わにしてしまうのもよくわかる。しかし、この学校で唯一、原則が貫かれているとすれば、それは言葉への信頼だ。どんな状況になっても、とにかく言葉を尽くし、相手に自分の考えや思いを伝えようとする(それをしなかった生徒、スレイマンは学校を去った)。その努力の多くは挫折するのだが、真摯に語ることを諦めない姿勢が、私たちを2時間のドラマにくぎ付けにしてくれるのである。
映画の冒頭、私はこの作品をドキュメンタリーと見紛った。ややぶっきらぼうな始まり、音楽や効果音は一切なく、ハンディカメラと思わせる撮影はときに落ち着きなく動き、しかも学校の外へ出ようとはしない。出演者(生徒はみな素人だという)の自然な演技と無駄のないシナリオが濃密な時間と空間をつくりだしている。ラストで一人の女生徒がつぶやく物悲しい告白など、平凡なストーリーテラーには絶対思いつかないだろう。
2008年カンヌ映画祭パルムドール受賞。世界最高峰のフィルムフェスティバルにおける審査員の見識はさすがだ。
(芳地隆之)
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