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2011-01-26up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.165

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オーケストラ!

2009年フランス/ラデュ・ミヘイレアニュ監督

 アンドレイはソ連時代、ボリショイ交響楽団の指揮者だった。高い技術と豊かな感性をもった楽団員を率いて、素晴らしい演奏を披露していたが、いまでは同劇場の清掃係である。

 ブレジネフ政権下、ソ連ではユダヤ人が要職を追われる動きがあった。オーケストラも例外ではない。しかし、アンドレイや楽団員たちは仲間を売ることを拒否。そのため自らも職を追われた。ボリショイ交響楽団のユダヤ人天才バイオリニスト、レアは夫とともにシベリアへ流刑され、楽器ケースのなかに隠された赤ん坊と、その子の面倒をみると約束した女性だけがモスクワのフランス大使館へ駆け込むことができ、パリに亡命した。

 時はすでにロシア。あるときボリショイ交響楽団にパリのオペラ座から急な演奏依頼のファクスが届く。それをたまたま読んだアンドレイは、現役の指揮者を名乗り、かつての楽団員を連れて、パリへの演奏旅行を計画する。プログラムは、かつてレアが最も得意としたチャイコフスキー・バイオリン協奏曲である。アンドレイはソリストにフランスの若手スター、アンヌ=マリー・ジャケを指名した。ジャケはレアの娘だ。しかしジャケは自分の出自を知らない。

 いまではタクシー運転手などをして生計を立てる楽団員や、権勢を失って落ちぶれたソ連共産党員ら、過去と現代のギャップがユーモアたっぷりに描かれる。楽団員のモスクワからパリへの珍道中も楽しい。

 ラストのチャイコフスキー・バイオリン協奏曲の演奏シーンは圧巻だ。繊細かつ大胆なバイオリニストの手と指、エネルギッシュな指揮者のタクト、緩急自在な楽団員の演奏――。あなたは、それらの動きをどれひとつも見逃すまい、一音たりとも聞き逃すまいといった気持ちで、見つめることになるだろう。

 演奏中、身体が凍りつくような寒いシベリアの流刑地で、バイオリンを弾くしぐさをするレアと、それを観客のように見守る夫のシーンが挿入される。2人は流刑の1年後に亡くなった。いかにも泣かせどころという演出の意図を知りながら、私は涙を止めることができなった。

 ただ、このテイストはフランス映画とはちょっと違うのではないか。そう思って監督の出身を調べてみたら、ルーマニア・ブカレストだという。なるほど。

(芳地隆之)

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