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2011-06-29up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.103

「辺野古新基地」が欲しいのは米国ではなく防衛省だ

 沖縄にとっての慰霊の日(6月23日)は、史上最悪の地上戦の敗戦記念日。菅総理もこの日、沖縄にやってきたが、県民の反応はほとんどゼロ。それはそうだろう。その前日にワシントンで開かれた日米安全保障協議委員会(2+2)では、普天間基地の移設問題について辺野古V字案が決定されたからだ。クリントン国務長官、ゲーツ国防長官、北沢防衛大臣、松本外務大臣の4人組の談合だ。2014年までの建設着工の期限は延期されたものの、あくまでも沖縄県民の意思を無視して強行するつもりなのだ。米国型の民主主義ならば、地元に歓迎されないところに基地はつくらないというポリシーを投げ捨てたやり口に沖縄県民は怒り心頭だ。

 クリントン国務長官は09年に日本と交わしたグアム協定の当事者だが、ゲーツ国防長官の後任に内定しているパネッタCIA長官は、グアム移転に関しても根本的見直しを要請しており、辺野古移設そのものにも疑問を投げかけている。何も知らない外交新米の松本外務大臣はともかく、ワルの筆頭は政権交代直後から防衛大臣に居座っている北沢俊美だ。鳩山前総理の時代から、総理の県外・国外移設案を完全に無視して沖縄県内移設に一直線。完全に防衛・外務官僚の言いなりになっている典型的な亡国大臣である。沖縄県民の意思を完全に無視しており、今や県民にとってもっとも嫌われている存在だ。

 慰霊の日の直後、沖縄県民の辺野古反対の声を官邸に伝えに行った仲井真知事も、菅総理、枝野官房長官、北沢防衛大臣らと面談したものの、ほとんど門前払いの回答しか得られなかった。決して仲井真知事を支持していない県民も、これには知事と一体化した怒りを感じたはずだ。菅総理の「一定のメド」が付いた後、若手に道を譲るという発言以降、ポスト・菅の名前が取りざたされているが、野田、仙谷、枝野、前原、岡田、誰ひとり普天間の県外・国外移設を主張している人物はいない。そもそも、沖縄に興味もない連中だ。興味ある人物がいるとしたら、せいぜい、小沢派に近い川内博史議員位のものだが、その川内議員に防衛大臣を任せるような器量のある人物は民主党内にはいない。ということは、普天間基地の閉鎖・移設じたいが日本政府の眼中にはないのである。つまり、普天間基地は固定化しても構わないというのが、県民の総意を無視した民主党政権の政治姿勢なのだ。

 ところが、面白いもので、米国の側が、普天間基地の移設先である辺野古新基地建設やグアム移転の予算自体を見直す動きを始めたのだ。4月に沖縄を訪問したレビン上院軍事委員長はグアムと辺野古への海兵隊の移転計画じたいを非現実的と批判する声明を出した。その後、軍事予算審議過程で、上院軍事委員会はグアム、辺野古関連予算を削除する案を提出したのだ。さらに、連邦議会GAO(会計検査局)はグアム、辺野古移設に関して予算面で強い疑念を盛り込んだ報告書を出した。09年のグアム移転協定で米側負担として40億ドルが計上された。しかし、GAOの試算によると、110億ドルになるという。約3倍増だ。辺野古基地建設においても埋め立ての規模によっては2兆円という建設費が予想されるが、現時点では日米両政府とも費用に関してはいっさい明らかにしていないのだ。辺野古建設は現実味がなかったこともあるかもしれない。

 米国側には国家財政の赤字削減策という大きな国策的課題がある。08年のリーマンショックからいまだに立ち直れない中、イラク、アフガン戦争での戦費も拡大している。アフガンから3万人の撤退を決めたのもその一環だ。むろん、軍事大国の米国が軍事予算を大幅削減すれば、「世界の警察」としての威厳を失う。特に軍事大国化路線をひた走る中国との力関係だ。そのために米国は空軍、海軍力の予算を優先する方針で、緊急性のない海兵隊の新基地をわざわざ沖縄の辺野古に作る必要はないとの考えだ。海兵隊の抑止力の嘘を米国も認めているのだ。 

 ゲーツ国防長官もまもなく退任するし、新国防長官のパネッタ氏もゲーツ路線には批判的であることは前述の通り。まして、日本の菅政権の辞任も時間の問題だ。北沢防衛大臣の任期もそう長くはない。松本外相しかり。そうなれば、今回の2+2の合意はペンディング、もしくはお蔵入りの可能性もある。辺野古に新基地が欲しいのは、実は米国ではなく日本の防衛省なのだ。北沢は防衛官僚に洗脳されて動き回っているだけなのだ。沖縄県民の当面の真の敵は防衛官僚と認識すべしである。

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慰霊の日前日に発表された、
「2+2」での「辺野古へのV字型滑走路建設決定」。
地元に住む人たちの思いを、
どうしてここまで無視して、ふみにじることができるのか。
米国からも「見直しの必要性」を指摘する声があがりはじめた今、
それでも建設を急ごうとするのは誰なのか。
岡留さんの指摘は重要です。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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