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2011-04-13up
癒しの島・沖縄の深層
オカドメノート No.98
救援活動に乗じた米軍の火事場ドロボー的言い分
東日本大震災の大津波によって派生した福島第一原発の危機はチェルノブイリに匹敵する状況が確実となってきた。原発事故処理のメドがまったくつかないなか、被災地近辺で統一地方選挙が行なわれるというのも異様な光景だ。こういう状況のなかで、知事選や市長選、県議会議員選挙が盛り上がるはずがない。震災復興対策は国が先頭に立って行なうべきもので、緊急かつ中長期的な骨太の計画が必要だが、地方自治体で担えることには限界がある。今回の統一地方選は最初から民主党惨敗が予想されたし、大震災と原発の大事故の方が気になり、多くの国民にとっては関心も期待感も薄かったのではないか。花見よりも選挙こそが自粛すべき対象だったのではないかと思えてならない。
こういう非常事態では、有権者の関心は当然薄くなり、誰をどう選べばいいかという判断も難しかったはずだ。その結果、東京都知事選では4選を目指した78歳の石原氏が約261万票で、2位の東国原英夫氏の約169万票を大きく引き離した。石原都知事の失政である築地市場移転問題や新銀行東京の責任問題などは論点にすらならず、選挙戦も自粛の雰囲気のなかでジ・エンド。他県の知事選でも現職や自民党から民主党までの相乗り候補が勝ち、自民党VS民主党という構図の3つの知事選はすべて民主党が敗北。特に、岡田幹事長の地元である三重県知事選でも民主党候補は負けた。全国各地の県議会選挙や市長選挙でも民主党は惨敗だった。にもかかわらず、選挙の最高責任者である岡田幹事長は選挙敗北直後、「辞任するつもりはない」と即答でコメントした。自浄能力すら完全に失った民主党に対する失望は有権者レベルでもかなり高まっていることが、選挙結果でも決定的に証明されたにもかかわらず、だ。
それでも、当面は大震災の復興と原発の事故処理が緊急の課題として待ち受けている現状では、菅内閣の総辞職も解散総選挙もないだろう。自民党などの野党も菅総理の退陣を声高には言えない雰囲気がある。大震災はあらゆる事柄をチャラにして、不満や批判も封じ込めてしまう。しかし、これは「いつか来た道」ではないのか。そう、戦時下の日本である。体制に迎合した報道機関が軍部や内閣に対する批判や真相解明を一切封印してしまった。その結果、軍部が独走し多くの国民が戦争に巻き込まれ、悲惨の一語に尽きる太平洋戦争につながった歴史を忘れてはなるまい。
こうした、ものを言いにくい状況が最近の沖縄にもある。今回の大震災で、米軍は「トモダチ作戦」と称して、強襲揚陸艦や軍用ヘリを投入して三陸沖側から救援活動を展開した。ありがたいことである。しかし、この事をもって、米軍や米国に対して感謝すべきで批判を慎めというのは大間違いである。何よりも問題なのは、このトモダチ作戦によって米軍が「普天間飛行場の死活的重要性が証明された」として、日本のメディアを通じて、猛烈なプロパガンダを仕掛けたことだ。メディア関係者も呆れるほど露骨だった。普天間基地を含めた沖縄海兵隊が救援活動に動員されたことは確かな事実だが、それをもって普天間基地の海兵隊の存在意義が証明されたというのは米国の火事場ドロボー、ご都合主義的言い分でしかない。トモダチでなくても、敗戦直後から米軍が占領・駐留してきた日米関係の歴史を思えば当然の救援活動ではないのか。しかも、注目すべきことは、在日米軍だけには放射線対策のためにヨウ素剤を配り、80キロ圏外への避難を指示していることだ。米軍の救援の本気度こそ問われてしかるべきである。日本がいざという危機的状況になれば、米軍は日本を守らずに撤退すると思っていた方がいい。
今回も大震災のドサクサに紛れて、日本政府は思いやり予算を通過させた。政権交代前の民主党は、杜撰な思いやり予算の内容にもメスを入れるべきと主張していた。それも今回はなし崩しで完全撤回だった。1972年の沖縄本土復帰によって、米軍は統治時代と同様に米軍基地の自由使用の権利を手に入れた。あたかも治外法権のような沖縄に対する差別意識があったこともあり、米兵による犯罪は数限りなく発生した。本来ならば、在日米軍基地の74%が集中する沖縄の過剰な基地負担を軽減するのが、日米両政府の「思いやり」ではないか。にもかかわらず、抑止力も含めてほとんど軍事的な意味を持たない普天間基地の代替施設として、辺野古沖に新基地を建設する方針を変えていない。沖縄県民の総意はNO! にもかかわらず、だ。
特にケビン・メア元沖縄総領事の沖縄に対する差別言辞は問題である。米国国務省はメア日本部長を解任。本人も国務省を退職した。しかし、メア氏が国務省を退職しても、元沖縄総領事にして対日外交のキーパーソンが沖縄への差別意識を露骨に持っていたことの背景をキチンと分析すべきである。単なるメア氏の個人的な資質によるものではなく、対日交渉を担当してきた米国側の沖縄に対する基本認識と見るべきだからだ。それも、メア発言が日本の外務・防衛官僚に注入された「沖縄差別」に基づいていることはさらに重要だ。ふざけた亡国官僚たちに無批判な大手メディアも大問題だ。
沖縄でも福島第一原発の放射線の影響と思われるヨウ素が検出された。福島―沖縄の距離も関係なく飛んでくるのが放射線なのだ。沖縄のホワイトビーチには米国の原子力潜水艦が頻繁に寄港する。その度に文科省沖縄対策本部は放射能調査の結果を発表するが、いつも「平常値」という。ホンマかいな!!つい先日、米海兵隊のミサイル搭載のハリアー垂直離着陸攻撃機が、米軍嘉手納基地を離陸直後にフレア誤射事件を起こした。それも嘉手納基地内である。米軍はパイロットの不注意としているが、民家が密集する市街地だったらどうするのか。今回のレベル7の福島第一原発の福島県とは地理的にかなり遠いが、沖縄は米軍基地による危険と常に隣り合わせなのだ。どちらも国策の被害者であり、他人事ではないのだ。
*
救援行為自体がありがたいものであることは間違いありませんが、
それに乗じた米軍の過剰な自己アピールには呆れます。
「普天間基地の位置が、第3海兵遠征軍の災害活動に極めて重要であることが証明された」
「普天間基地が本土に近いことは極めて重要」との言い分に対しては、
「普天間基地はいっそのこと本土に移せばいいのでは?」と言いたくなります。
岡留安則さんプロフィール
おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」
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