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2010-12-15up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.091

菅総理を待ち受ける沖縄の「怒り」

 民主党政権の支持率低下は茨城県議選においても鮮明にあらわれた。菅政権が誕生してから、参議院選挙も含めて惨敗続きである。支持率も今や25%前後。その理由は明白である。政権交代時における「国民の生活が第一」の公約を破り、民主党の政策がどんどん後退しており、有権者が菅政権に対してもはや期待が持てないという判断を下した結果である。来年度予算案通過のメドもたたないネジレ国会、小沢氏の政治倫理審査会問題、仙谷官房長官と馬淵国土交通大臣に対する参議院での問責決議案の可決と問題だらけの政権に対して、来春の統一地方選においても有権者の「民主党NO!」の意思表示が続くことだけは間違いないだろう。わずか1年2ヵ月で、政権交代に期待した有権者は雪崩を打つように、民主党に愛想尽かしを始めているのだ。それを理解できない菅総理も仙谷官房長官コンビも一刻も早く身を引いて、政権交代の原点に立ち戻るためのリーダーと閣僚を新たに選出して再出発するしか民主党が生き残る途はないはずだ。民主党の相次ぐ失策で自民党の支持率が民主党より高くなっているが、いまさら日本の政治をボロボロにした霞ヶ関丸投げの自民党の復権を国民が本気で期待しているとは思えない。そこに、民主党再生の一縷の望みがあるはずだ。

 菅政権の迷走が続く中で、米国政府や霞ヶ関官僚がやりたい放題という動きも活発化している。如何に、菅政権にリーダーシップがなく、舐められているかという証明だろう。ここ沖縄においても、第七艦隊の音楽隊が宮古島空港に米軍機で着陸し、地元市民との友好を図るという名目の音楽会を開催した。地元の反対派の声を無視しての強行だった。おまけに、この米軍機が着陸時に左タイヤにロックがかかり、修理のために音楽隊も延泊するという事態も現出。最近は、宮古島や石垣島の民間港に掃海艇を強行寄港させたり、まさに傍若無人の限りを尽くすのが沖縄の米軍なのだ。沖縄は、まだ植民地だと思っているのかもしれない。

 第七艦隊の原子力空母「ジョージ・ワシントン」を中心に日米が総力をあげて展開した過去最大の日米共同統合演習においても、本土の米軍基地から飛来した軍用機によって嘉手納町上空で凄まじい轟音が続いたことに町議会は抗議声明を出した。軍民共用空港でもある那覇空港にも自衛隊の戦闘機が頻繁に離発着。危険極まる軍事演習だ。この軍事演習では、原子力空母から次々と爆音を響かせて離陸していく戦闘機をメディア向けに公開。おそらく、北朝鮮や中国に対するデモンストレーションの意味合いがあったのだろう。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を拠点の嘉手納基地から普天間基地やうるま市など沖縄本島の中北部で展開する動きもあった。むろん、ミサイルの移動も一般道路である。 

 その一方で、石垣市の市会議員2人が、尖閣諸島に上陸し、現地調査を無断で決行した事件も発生した。尖閣諸島は、現在は国が民間から借り上げて管理している立ち入り禁止の島だ。法に照らせば、国が何らかの処分を科すことも可能だが、海上保安庁の巡視船に衝突した中国漁船釈放の後遺症もあって、目下のところ、無為無策で放任したままだ。政治力が発揮できない菅内閣の間隙を衝いて、それぞれが勝手にやり放題なのだ。

 にもかかわらず、仙谷官房長官は情報管理を徹底するために「守秘義務の罰則化」を検討したり、武器輸出三原則の見直しを検討したり、やることなすこと自民党時代よりもおかしな方向に向かっているのだから言語道断だ。尖閣諸島における中国漁船による衝突ビデオの流失も国際テロ文書がインターネットに流れたのも、自分たちの政治責任も信頼性も失っているという事実を棚上げしたご都合主義の発想でしかない。菅総理も悪いが、仙谷官房長官はルサンチマンの塊でもっと危険な策謀家だ。参議院本会議での問責決議に従って、早期に辞任した方が日本の将来のためになることは間違いない。

 そんな中、菅総理が今週末の17、18日に沖縄を訪問するという。再選された仲井真知事への表敬訪問の意味合いが強いのだろうが、沖縄県民に歓迎の空気はまったく感じられない。まさに招かれざる客でしかない。というのも、政府側の基本方針は日米合意の順守。つまり、普天間基地は何が何でも辺野古新基地に移設すると米国側と約束しておきながら、沖縄県と県民の理解を求めていくというものだ。先の県知事選では、仲井真候補が普天間基地の県外移設、対立候補の伊波洋一氏も国外移設を訴えて戦った。再選された仲井真知事も、辺野古新基地建設が難しいことを再三にわたり、政府側に訴えている。それでも、新基地をつくるために沖縄県民の理解を求めるというのはどういうことなのか。基地対策振興資金や補助金をバンバンはずむから、沖縄は日米安保のために犠牲になり我慢してくれという話にしかならないはずだ。それとも、沖縄側が新基地を認めないなら、国家の暴力装置(by仙谷)を使ってでも強行するから覚悟しろという、恫喝でもかけるつもりなのか。沖縄振興は基地とリンクさせないといいつつ、本音はアメとムチそのもののヤリクチだ。

 民主党鳩山政権の豹変により、沖縄の政治はメチャクチャにされた。特に、政権交代の立役者になった民主党沖縄県連は崩壊・分裂の危機にある。先の県知事選で伊波洋一氏を支援した瑞慶覧長敏衆議院議員は副代表を辞任し、山内末子県議は離党を表明した。玉城デニー衆議院議員は伊波氏を支持したものの、岡田幹事長の恫喝もあって玉虫色の選挙戦で自重したせいか、今のところ、処分はされていない。しかし、来年1月に行なわれる民主党沖縄県連代表選では一波乱あるとの見方もあり、民主党本部の豹変で県連は県民の信頼も支持もほとんど失い、存続自体が危ぶまれる危機にある。

 そんな中、菅総理が沖縄に来ても歓迎される理由は全く見られないばかりか、火炎瓶の一本くらい飛んでもやむを得ないというのが、沖縄県民の状況だ。そこに気が付かない、空気の読めない鈍感さこそ、菅総理の致命的な政治センスのなさということだろう。県民は「怒」のプラカードを掲げて、県民意志を明確にすべき時ではないのか。

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ここまで民主党がひどいとは思わなかった、
でも自民党政権に戻るのも… ──昨年9月の政権交代から約1年半、
多くの人の胸に宿るのはそんな思いでしょうか。
大連立をはじめとする政界再編がメディアで囁かれていますが、
永田町の論理を優先した「数合わせ」では早晩、
国民の支持を失うことは間違いなし。
その辺を、よーく考えてもらいたいものです。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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