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2010-09-29up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.086

菅政権が世論の支持を失うのは時間の問題だ

 前回は、普天間移設問題の行方を決める最大要件のひとつとなる名護市議会選挙の結果について書いた。

 今年1月に行なわれた名護市の市長選で、辺野古新基地建設に反対する稲嶺進市長が誕生したことは全国ニュースにもなったので読者もご存知だろう。稲嶺市長は「海にも陸にも基地はつくらせない」という強い立場を主張していたが、市議会では少数与党という弱点があった。それが、今回の市議選で稲嶺市長派が議員定数27のうち16議席を獲得した。名護市の市長と市議会が基地建設反対で一本化されたということである。

 「地元に受け入れられないところに基地はつくらない」という米国政府のこれまでの主張を信じれば、辺野古に新基地をつくる計画は限りなく不可能になったといえる。だが、新基地建設推進派だった前市長の島袋吉和派の市議や容認派の辺野古地区の区長らは、防衛省を先頭とした日本政府側といまだに気脈を通じており、基地建設を決して諦めたわけではない。今年11月に予定されている沖縄県知事選で、新基地建設に関していまだに明確に否定しない仲井真知事に最後の望みを託しているのではないかとの見方は根強い。公有水面に関する埋め立ての許可は知事の権限でもあるというところが最後のよりどころだからだ。

 その意味でも、民主党代表選において、辺野古沖埋め立てを容認している菅総理と、日米合意に関して米国側と話し合いを続けると公言してきた小沢一郎との前段的対決が注目された。菅総理が勝てば、対米追従と沖縄切り捨て路線はそのまま継続される。小沢一郎が勝てば、米国と粘り強く交渉すると主張していただけに、日米合意自体も変更・修正される可能性が出てくるはずだった。

 当然ながら、沖縄県民は菅総理よりも圧倒的に小沢一郎を支持していた。代表選の投票権を持つ民主党沖縄県連の国会議員や地方議員、党員・サポーターもほとんどが小沢支持だった。

 しかし、結果は周知の通り、菅総理の再選が決まった。沖縄県民は、鳩山前総理が辞任するきっかけとなった5月28日の日米合意が見直される可能性がゼロになったことで再び奈落の底に突き落とされる思いを抱いた。これで普天間基地の県外・国外移設を訴えた民主党による政権交代に大いに期待した沖縄県民の思いも完全に打ち砕かれたかっこうだ。

 発足した菅内閣では新外相に前原前国土交通大臣が就任。岡田外相は幹事長に就任し、北澤防衛大臣は留任となった。さらに沖縄問題にはほとんど関心を向けてこなかった沖縄担当の責任者にもなる仙谷官房長官も留任となった。菅―仙谷―岡田―前原―北澤、新しく沖縄担当大臣も兼ねる馬淵国土交通大臣というメンバーで辺野古沖の新基地建設計画が進められることになるわけだが、沖縄県民にとってはまったく期待は持てない布陣というしかない。むしろ県民の思いとは真逆になる方向性が鮮明に打ち出されたというべきだろう。

 最近の地元紙には、嘉手納基地の滑走路修復工事のために、普天間基地と那覇空港を嘉手納所属の戦闘機が一時使用することになったという報道も出た。普天間の移設先として嘉手納統合案が取り沙汰されたこともあったが、日米の防衛問題評論家たちは口をそろえて縄張り意識の強い海兵隊と空軍が同一基地内で共存することはあり得ないと断定してきた。しかし、これがいかにご都合主義の言説だったかを白状したも同然ではないか。

 まして、ラムズフェルド元国防長官自身が03年に普天間基地を視察した際、「世界一危険な米軍基地」と認定した民家や学校、商業地が密集した市街地にある基地の上空に戦闘機を飛ばすなんて狂気の沙汰ではないのか。ついでにいえば、嘉手納基地の戦闘機はクラスター爆弾を積んで近海で投下訓練をやっているとの地元紙報道もあった。まさに、今でもやりたい放題の米軍に対して、対米追従の従順なシモベにすぎない外務省や防衛省に米国側と対等かつ正当な交渉などできるわけがないだろう。沖縄県民は11月の県知事選で基地反対派の伊波洋一宜野湾市長を当選させることで、日米両政府の辺野古新基地建設に「NO!」を突きつけるしか選択肢はなくなったとも言える。

 官僚依存体制で第二自民党的色彩を強める菅-仙谷民主党に対して、政権発足直後から大きな試練が襲っている。円高・デフレ問題は当然としても、尖閣諸島における中国漁船の船長逮捕事件と大阪地検特捜部のエースといわれた検事の証拠改竄事件の発生である。まさに政権担当能力が試される大事件の発生である。

 特に尖閣事件においては、海上保安庁の巡視船に中国の漁船が体当たりしてきたとして、漁船を捕捉し船長を公務執行妨害で逮捕したものの、中国側の強硬な圧力の数々に屈して、満期拘留も起訴もできないままに不起訴で放免した。それまでは、「日本の国内法に従って粛々と進める」と菅総理以下の民主党幹部たちも口をそろえていたが、いきなりの大豹変だ。

 那覇地検は記者会見で、釈放した理由は政治的判断である事を包み隠さずに喋っていたが、政府首脳は「那覇地検が勝手に判断したこと」として無関係を表明。自分たちの保身のために、地検が掟やぶりの政治・外交的判断を下したことは当然だといわんばかり。法治国家の体もなさない無責任な対応で危機事態を回避するつもりなのだろうが、まるで無責任で幼稚なチルドレン内閣ではないか。

 逮捕されて長期拘留されたものの、無罪判決を勝ち取った厚生労働省・村木厚子元局長の裁判で明らかになった大阪地検特捜部の前田恒彦主任検事の証拠品のフロッピーディスクの改竄も前代未聞の事件だった。それも上司である特捜部長や検事正ぐるみの可能性も指摘されている。

 これまでも、捜査権と公訴権を持つ日本最高の権力機関である特捜部の強引な捜査手法やミエミエの国策捜査は幾度となく批判されてきた。それが検察批判の大きな世論にならなかったのは、大手メディアが特捜部と二人三脚の癒着関係にあり、特捜部の特異体質の批判を自粛し、検察の不祥事やスキャンダルを封印してきたためだ。

 今回の事件をきっかけに、特捜部そのものの解体を含めた組織の見直し、取調べの全面可視化、検事総長の政治任用などで検察を大改革する千載一遇のチャンスではないのか。しかし、菅総理を先頭にした事なかれの官僚主導のチルドレン内閣では、オドオドの及び腰で手もつけられないのではないか。事は沖縄問題だけではなく、日本の将来がかかっている難局にも的確に対応しきれない民主党政権が世論の支持を失うのはいずれ時間の問題ではないのか。

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ここ数日の報道で、
中国漁船事件への日本政府の「関与」が少しずつ明らかになってきていますが、
「全ては那覇地検の判断」という言い分を、
本当に国民が信用するとでも政府首脳は思っているのでしょうか。
野党時代、政権与党に対して「説明責任」を求め続けてきた民主党ですから、
今週末から始まる国会では納得のいく回答がきっと得られることでしょう。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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