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2013-07-03up
松本哉ののびのび大作戦
第74回:香港Hidden Agendaの襲来(後編)
さて、前回紹介したように、約一年前に香港で東アジアのとんでもない大バカサミットが行われてしまった訳だが、それ以来、香港の謎の地下文化の連中とのつながりもだんだん深くなって来た。やはり香港にもいろいろな面白いスポットはあって、その香港滞在中もヒマなときにいろいろ連れて行ってもらった。その中にHidden Agendaというライブハウスがあって、これがまたなかなかすごかった。実は最近、このHidden Agenda の人を高円寺に招待して、そのドキュメンタリー映画の上映会をやってしまったのだ!!
まずは、この謎のライブハウスから。
ご存知のように香港は狭いひとつの街で、そこが大都市となっているのでとりあえず余ってる土地ってのがほとんどない。ということは、つまり家賃が高いってこと。東京より高いぐらいなので、香港の金のない奴らは自分たちの場所を作るのが大変。そこで、政府から補助金をもらって運営していたり、みんなで集まって小さいイベントスペースなどを借りたりしている。そんなぐらいだからライブハウスなんか運営するとなると、もう一大事で、とてもじゃないけど手軽になんかできる感じじゃない。というわけで、繁華街の商業地区ではなく家賃の安い巨大な倉庫が建ち並ぶ工業地域に一カ所場所を借りてライブハウスとして運営しているのがHidden Agenda。ところが、香港政府曰く、工業地帯で遊興施設をやるのは目的が違うからダメとのことで(ほぼいちゃもん)、ああだこうだと文句を言われているところ。ただ、香港のインディーズのバンドや音楽好きの奴らからしたら、このHidden Agendaがなくなったら、いかにも超商業施設っぽいライブハウスしかなくなってしまい、自分たちの場所がなくなってしまうので、必死にイベントをやって資金を集めたり、追い出し反対のデモをやってみたり、いろんな手を使ってHidden Agendaを守ろうとする。で、結局2回も追い出されたけど、その都度また新しい場所をうまく探し出し、引っ越して場所を死守してるという、DIYの塊のようなすごいところ。
・・・と、ここまで聞くと、もうコンクリ打ちっぱなしの瓦礫の中で夜な夜な秘密のイベントが行われているような感じに思うかもしれないけど、そのイメージ、まったく違う! すごいちゃんとしたところで、現在の3代目Hidden Agendaは音響設備も相当いいし、300人程度のイベントならできる規模。ビックリするぐらいちゃんとしてる。
それで、なんと驚くべきことに、発足あたりからずっと映像を撮りためており、それがなんとついに去年の秋にドキュメンタリー映画『HIDDEN AGENDA The Movie』として完成。う〜ん、すごい。この点、高円寺のマヌケショップ群=素人の乱とはえらい違いだ!! これはすごい! 何も考えずに行動して、終わったら全部忘れてる場合じゃないな、これは。
で、その映画は実はすでに去年、渋谷のUPLINKで一度上映会が行われているんだけど、意外と見逃した人も多く、いろんな人から「いや〜、あれ見てみたかったなー」という声もちらほら聞いていたので、「よし、じゃあ高円寺でも上映会やるしかないねー」ということになった。で、その話題が出た瞬間に、勢いに任せて、Hidden Agendaのメインで動いてる数人に「一ヶ月後、高円寺来ない?」と送ってみると、数分後には「OK!」と一瞬で返事が返って来た!!! おお、この早さいいね! たぶん、この早さがHidden Agendaがなんとか維持されている秘訣に違いない! さあ、そうとなったらもうこっちも負けていられない。やろうやろう!
さて、それで早速イベントの準備に取りかかり、会場は素人の乱のイベントスペース12号店に決定。ところが! これまたタイミングがよく、その12号店の隣の部屋が空いていたので「12号店2号店」として拡大したばかりだった!! これで、そのビルの2階を全フロア借りたことになるので、いままでは小規模なイベントしかできなかった12号店も、廊下も使った大きいイベントができるスペースに拡大! うーん、これは運がいい。ってことで、拡大したイベントスペースのお披露目イベントになった。おお、これはちょうどいい!
さて、イベント当日! Hidden Agendaの中心人物の一人でマネージャーを務めるKIMIちゃんという、これまたマヌケな友達が香港からやってきて、イベントは開始!
まずはそのドキュメンタリー映画の上映なんだが、これがまたよくできている! ライブの様子をはじめ、機材やら内装設備やらを自分たちで作る様子とか、警察や役所がやってきていちゃもんを付け始める様子や、みんなで頑張って場所を守ろうとする様子など、かなりリアルに撮っていて感動を呼ぶ映画! DIYスペースというのは基本的に自分たちで勝手にやっているので、金もうけをしたがる奴らや、なんでも管理したがる役所なんかはどうも気に入らないらしい。この辺、どこの国も同じなんだな〜、ってのがよく伝わってきて、日本でいろいろと勝手に生きてるような奴らからしたら、非常に共感の持てる内容の映画だった。いや、すばらしい。国は超えても勝手なことをやってる連中の魂は同じなんだね、やっぱり。
これ見てもわかるが、国vs国の対立って完全に妄想上の対立で、実は「全世界中のやたらと支配したがるおせっかいな奴らvs自由なことをやって勝手に生きたがってる奴らの対決」ってのが世の実態だ。実は国やら宗教やらのケンカってこの辺をウヤムヤにしてるイカサマ喧嘩だったりする。そんな感じを再確認させられるような映画。いや、いいね!
で、映画を見るだけならDVD送ってもらって上映すればいい話。重要なのはココから! せっかくKIMIちゃんを招待したんだから、軽くトークでもしようということになった。ま、普通に行ったら誰か日本でDIYスペースなんかをやってる人を呼んで対談とかだけど、こういう対談ってたいてい「いや〜、やっぱり自分たちでやるって大事ですよね〜」みたいなお決まりのオチになってちょっとありきたりだ。せっかくだからもっと身になることをやりたい。・・・てことで! せっかくライブハウスなので、香港のアンダーグラウンド文化の紹介をやってもらうことになった。
まずは軽く質問の時間。会場から、香港の家賃のシステムとかライブハウスの許可のこととか、香港の政府や役人の態度とか、やたらと具体的な質問が多発。日本と同じ問題や違いなどがわかってためになった。で、次はメインコーナーで、Hidden Agendaに出入りしているミュージシャンのCD即売会! まずはKIMIちゃんがYouTubeでオススメを流し、これはどんなミュージシャンでHidden Agendaとはこんな感じで関わってる、みたいな話をしてもらう。「いや、これはすごい!」「音、カッコいいね〜」「こりゃ日本じゃ手に入らないね」などと盛り上がり、突如「さあ! このCDが一枚千円! やすいやすい、持ってけドロボー! ええいコンチクショー、限定2枚だよ!!」と叩き売り開始。すると、負けじとハイッ、ハイッと会場から手が上がり、早いもの順に落札! すかさず長い柄のついたカゴにCDを入れてお客さんの方に差し出し、そこに現金を入れてもらう。こうなってくると、もう後はいつ羽毛布団を売り始めるのかって雰囲気に。
そのうち、会場からも「こんな感じの音楽ないですか?」などとジャンルとかの指定が入り、KIMIちゃんも「じゃ、こんなバンドどう?」とすかさずYouTube。これはすごい。日本にいて香港のインディーズ音楽シーンのことなんか触れることは少ないけど、その道のプロが目の前にいるもんだから、何でも聞ける。勢い余ってCDを買ってしまい翌朝後悔するマヌケな人もいたかもしれないけど、この叩き売り会のおかげで香港の存在がだいぶ近くなったに違いない。しかも香港の大物ミュージシャンや映画スターや文化人ではなく、身近な距離感の文化に触れるからなおさらだ。おまけに売上はその香港インディーズバンドに渡るんだから、なんだかいいことばかりだ。
とどめに、その後はみんなでご飯を作って飲み会に突入したので、みんなここぞとばかりに「どこか安く泊まれるところってあるの?」とか「映画好きなんだけどいいミニシアターとかある?」とか、ガイドブックに絶対載ってないようなことを聞きまくったりしていた。いやいや〜、これはすごい文化交流だった。
こうして、香港で勝手なことをやってる人たちとの距離を一挙に縮めたいいイベントだった。会場も超満員で90人以上集まり、てんやわんやだった。いやいや、この調子で全世界を繋げて行くしかないね〜!!!!!!!
香港CDの叩き売り中
*
「前編」から3ヵ月近くが経っちゃいましたが、
そんなわけでまたまた「マヌケ文化交流」なイベントレポートでした。
考えてみれば「二国間の外交関係が悪化」と報道されていたって、
国民同士は普通に仲良くなれちゃったりもするわけで、
国と国の対立は「妄想」という松本さんの指摘、
けっこう当たっているのかもしれません。
ということで、「支配したい」VS「自由勝手に生きたい」、
さて、あなたはどっちを選ぶ?
松本哉さんプロフィール
まつもと・はじめ「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ
「松本哉ののびのび大作戦」
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