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2013-08-21up
鈴木邦男の愛国問答
第132回
長くて暑い8月15日
8月15日(木)は、今年最も暑い一日だった。又、熱く語り、叫んだ日だった。最も長い日だった。朝、テレ朝「モーニングバード」の終戦特別番組に出た。僕の発言は少し前に収録したものだが。昼、靖国神社に行った。夕方、ニコ生の終戦の日「大演説会」に出て、大バッシングを受けた。そのあと、ロフトプラスワンに行った。高須基仁さんが毎年やっている「終戦の日・大討論会」に出て、左翼の人たちに批判された。
ニコ生では元気のいい人たちが「日本を守れ!」「中国・韓国になめられるな!」と叫んでいた。それ以上に、大スクリーンに、嫌韓・嫌中の「書き込み」が次々と出てくる。まるで右派・保守派の拠点だ。かつてはディスコだった六本木の巨大な建物は、騒然とした国粋・排外・右派の殿堂となっていた。その前に行った靖国神社も、騒々しかった。静かに慰霊するという雰囲気ではない。軍人の格好をした人々が闊歩し、突撃喇叭を吹き、軍歌をうたっている。「中国・韓国を許すな!」「憲法改正しろ!」「慰安婦はいなかった」「謝るのは中国・韓国のほうだ!」「こんな国とは国交断絶しろ!」…と勇ましいことを言う人々が溢れていた。近くの道路では右翼の街宣車が大音量で軍歌を流し、「戦争をやってでも主権を守れ!」と絶叫している。
靖国神社は人、人、人で溢れ返り、参拝する長い列が続いていた。六本木のニコ生も熱気で溢れ、13万人が見ていたという。〈愛国者〉ばっかりだ。「もうちょっと冷静になれよ」と言った僕は、格好のバッシングの対象になった。「右翼の皮をかぶった左翼め!」「反日!」「売国奴!」…と。さんざんだ。日本の保守・右派は、勢いづき、やたらと攻撃的だ。それに比べて、左翼・リベラルは元気がない。ロフトに行ってそれを痛感した。毎年8月15日の夜は、高須さんがいろんな人を呼んで大激論集会をやっている。いつも超満員だ。ところが、今年は様変わりしていた。客がいない。ガラガラだ。
ロフトの入り口には、「8月15日・大激論集会」と書かれている。「平和だからこそ出来ることもある」と。これはいいと僕は思った。ところが、このせいで人が集まらなかったのかもしれない。「何言ってんだ。今は非常時だ。日本が危ない。闘う気がないのか! 何を寝ぼけたことを言っているんだ」と一般の人は思ったのかもしれない。
この日のゲストは、元赤軍派議長の塩見孝也さん。元全共闘のセクトの親分・三上治さん。そして、脱原発テント村の人々。皆、学生運動の闘士であり幹部だった人々だ。それらの左翼の錚々たる人々が10人、ズラリと壇上に並ぶ。僕もそこに座らされた。ところが客席はと見ると、20人だ。ガラガラだ。店の人が6人、立ち働いている。たった20人の客のために…。「さっき、ニコ生に出たけど、見てる人は13万人だよ」と僕は言っちゃった。これが現代日本の「左右」の違いなのかもしれない。危機を叫び、勢いに乗り、攻撃的な「保守・右派」。一方、「左翼・リベラル」と言いながら、〈守り〉に回り、ただ追いまくられ、絶滅寸前の「左翼・リベラル」。その対照が見事に出てると思った。僕はというと、「攻撃的な右派」からは排除され、「守りの左翼」からも攻撃されている。全く居場所がない。孤立無縁だ。
ロフトで塩見さんが絶叫していた。「8月3日、鈴木君の誕生会というふざけた、プチブル的な集まりではロフトが満員だった。それなのに今日のような真面目な革命的な集まりに人が集まらない。これはおかしい!」と。すみませんね、ふざけた集会に人が沢山集まって。「きっと、人民に人を見る眼がないんですよ。それに、権力の弾圧・謀略ですよ」と僕は付け加えた。内心、「お前たちはもう終わっているよ」と思いながら。だって、皆、〈過去〉の話ばっかりだ。華々しく闘った〈過去〉の自慢話ばかりだ。〈現在〉がない。〈現在〉に生きてない。もちろん、〈未来〉もない。自分たちは必死に頑張り闘っているのに人は集まらない。誰も聞いてくれない。マスコミや権力が邪魔をしてるからだ。…と愚痴ばかりだ。20人の客も、どんどん帰りはじめる。
そのうち元全共闘がこんなことを言い出した。「我々の正義の主張は全然マスコミに取り上げられないが、鈴木君はうまく立ち回って、マスコミに出ている。今朝もテレビ朝日に出ていた。右派・保守派が一致協力して、鈴木君を押し上げ、マスコミに出しているんだ。その戦略を見習うべきだ」。何言ってんだよ、この人は。右派、保守派からは総バッシングだよ、僕は。この勘違いした人は、さらに言う。「だから我々も、塩見議長を押し上げて、マスコミに出すようにしよう!」。そして後は、「異議ナーシ!」と続く。愚かな人々だと思った。〈過去〉のみに生きている人々の錯覚・勘違いだ。そして最後は、「インターナショナル」を皆で歌って解散した。僕も、この歌は好きだから一緒に歌った。歌いながら、もう左翼は終わったと思った。
よく僕は言われる。「鈴木はマスコミ受けを狙って転向した」と。ニコ生大演説会でも、そんな書き込みが多かった。しかし、「受け」狙いなら、〈右翼・愛国者〉を強調したほうがいい。かつて運動なんかしたこともないのに、「われこそ愛国者だ!」と絶叫し、受けてる政治家や学者、評論家が多いじゃないか。ニコ生大演説会は午後6時から9時までだった。田母神俊雄、石平(せき・へい)、デヴィ夫人、井上和彦…さらに自民党、維新の会の国会議員はじめ18人が喋る。1人10分の演説だから、18人で3時間だ。元気のいい人が多い。「東京裁判を見直せ!」「憲法改正しろ!」…と。僕の前に出た孫崎享さんは、元外交官らしく対話の重要性を説いてたら、「帰れ!」「共産主義者め!」と書かれ、攻撃されていた。これで共産主義者かよ、それはないだろうと思った。だから、自分の番に来たとき、言ってやった。
僕は45年間、右翼運動をやってきた。だから今の右傾化日本で、どんなことを言えば受けるか、よく知っている。憲法改正し、国防軍を持ち、中国・韓国と闘う! 戦争も辞さずの覚悟で闘い、日本を守る! そういえば、受けるし、「そうだ、そうだ」「いいね、いいね」と言われるだろう。しかし、そんな人たちに迎合したくない。本当は覚悟もないくせに〈愛国者〉ぶって、受けを狙っている人も多いが、僕はそんなことはしたくない。今の排外主義的気分は危険だと思うし、一時の勢いに乗った改憲にも反対だ。きっと皆は、こんな奴の意見など聞きたくないと思うだろう。だから、どんどん批判・攻撃の書き込みをしてくれ。たぶん、僕は最低の評価だろう。それでいい。…そう前置きしてから話し始めた。10分間はアッという間に終わった。大スクリーンにはバッシングの嵐だった。終わって見たら、どれだけの支持・賛成があったか、結果が出る。「僕は最低ですよね」と聞いたら、「そうですよ。あそこまで言うんですから」とスタッフに言われた。まあ、思ったとおりの結果だった。それから、タクシーでロフトプラスワンへ。そこで、左翼の、もう終わった人々と話し合った。久しぶりに心が昂ぶり、熱くなった1日だった。
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鈴木さんに初めて「マガ9」にご登場いただいたのは6年前。
正直なところ「右翼」のイメージにちょっとドキドキしていただけに、
その穏やかさがとても印象的でした。
「左」「右」のイデオロギーに囚われず、
信じた道を行く鈴木さん、かっこいいです。
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鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
「鈴木邦男の愛国問答」
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