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2013-06-12up
鈴木邦男の愛国問答
第127回
僕が討論番組に出る理由
5月は何と、テレビに5回も出た。憲法記念日があったし、自民党は改憲しようとしている。又、ヘイトスピーチの民族排外主義のデモがある。それをどう思うか。日本の右傾化をどう思うか。従軍慰安婦問題についてどう思うか。…といったことで取材された。又、対談や討論会に引っ張り出された。
テレ朝の報道番組に2回、TBSの報道番組に1回。これは一人で話をした。いわば取材だ。改憲や主権回復の日について、右傾化について、質問に答える。事前に収録し、報道番組で流す。30分から1時間、取材される。でも本番で使われるのは5分位だ。どこを使われるのか分からないから嫌だ。と言う人もいる。「自分の言いたいことが本当に伝わらない。だから自分は生番組しか出ない」と言う人もいる。そういうポリシーを持っている人もいるが、僕は、あまり厳密に考えていない。まあいいだろうと思っている。
新聞や雑誌の取材だと、「このようにまとめたので見て下さい」と発表前にゲラを送ってくることが多い。人の名前や具体的なことについて記者が聞き間違いがないかどうかを確認するためだ。又、取材された方も、「ここは言い過ぎだったかな」と直したり、「ここは説明不足だな」と思ったところは書き加えたりできる。その結果、取材された話からは随分と違ったものになることもあるようだ。
ともかく、活字の場合は、喋ったことが正確に書かれているかどうか、気を使う。ゲラを出して、チェックしてもらう。ところが、テレビのコメントではそれはない。「喋ったこと」そのものを流すのだから、校正の余地はない。どの部分を取り上げて、どの部分をカットするか。それはテレビ局の編集権だ。「1時間取材しましたが、この部分だけを5分間、使いたいと思います。見て下さい」ということはない。そんなことをしたら、「取材」ではなくなる。そう思っているようだ。それが嫌な人は、生番組に出るしかない。
討論番組は、ほとんどが生だ。ただ1時間半収録し、そのうち1時間を放送するという番組もある。これだと、危ない発言をチェックできる。いや、それ以上に、過激なシーンを中心に出し、おとなしくて、なれ合ったシーンをカットして、緊迫した番組を作れるからだろう。
さて、5月には5回テレビに出たといったが、3回は事前に取材されたものだ。もう2つ、討論番組は、まずBS朝日の「激論! クロスファイア」だ。田原総一朗さんが司会で山口二郎さん(北海道大学教授)、そして僕の3人だ。いや、村上祐子アナも加えて4人だ。この4人で日本の右傾化や改憲、そして、なぜリベラル勢力がいなくなったのか。などについて話し合った。少人数だし、テーマをしぼって十分に話せる。これは話しやすかった。1日前の収録だが、翌日そのまま放送される。
そして、5月の最後。31日(金)の深夜、「朝まで生テレビ」に出た。これはキツかった。7年ぶりの出演だ。実は、朝生の出演依頼はもう来ることはないと思っていたので、本当に驚いた。僕は気が弱いから、あんな激しい番組ではロクに喋れない。局の方でも「こいつはダメだな」と思って、声がかからない。そうだよな、僕じゃ、とても無理だよ。と思っていた。それなのに7年ぶりの出演依頼だ。驚いたが、「僕でよかったら」と即座に引き受けた。ロクに喋れないだろう。他のパネリストに袋叩きにされるだろう。惨敗するだろう。それは分かっている。分かっていながら引き受けた。玉砕覚悟の出撃だ。
嫌だったら断ればいいと思われるかもしれない。しかし、「逃げた」と思われたくない。「卑怯だ」と思われたくない。僕は、後輩たちにも今まで言ってきた。自分たちは政治的発言をし、活動をしている。だったら、たとえ誰からであっても「これはどう思いますか」と聞かれた時は、全て答える義務がある。それを逃げたら卑怯だ。正々堂々と闘うべきだ、と。だから自分としても逃げられない。
5月31日の「朝生」は7年ぶりだと言ったが、これで10回目だ。初期には、かなり出ていた。「日本の右翼」「天皇制」「憲法」「オウムと連合赤軍」…といったテーマだ。どれも大変だったし、キツかった。そして、負けてもいいという悲壮な覚悟で出た。
朝生が始まったのは26年前だ。これが大ヒットして、これに続く討論番組がかなり出た。大阪では猪瀬直樹氏が司会する討論番組があったし、東海テレビでは「田原総一朗の世界が見たい!」という、意欲的な討論番組があった。朝生とはちょっと違った、面白い番組だった。さらに九州や北海道でもやっていた。
中には本格的なディベート番組もあった。つまり、「ディベート」の力量・技術を競い合う番組だ。「ザ・ディベート」と言ったかな。二組のグループが出て、一つのテーマで激論する。驚いたことに、後半は立場を替えて闘わせる。
「これは一体、何だ!」と思った。自分たちが本当にこう思っている、というのではない。この立場にたったら、どうやって闘うか。その技術を競い合うのだ。アメリカでは、やられているというが、日本人には、どうもなじまない。反撥が強かったようで、つぶれた。他の討論番組もなくなった。そして、今残っているのは朝生だけだ。又、後発の「TVタックル」「たかじん」などがある。
それらの中でも朝生は最もキツい。過酷だ。恐れをなして断る人も多い。NHKの討論番組と比べたら分かるが、NHKのは完全な「平等」を貫いている。出席者全員に同じ回数、発言させる。同じ時間、発言させる。「だから面白くない」と言う人もいるが、この「平等」主義は尊いと思う。
それに比べて、朝生をはじめとした民放の討論番組は「自由」だ。自由主義の極致だ。「平等」は全くない。おとなしくしていたら、最後まで発言権はない。朝生は今は3時間だが、初期は5時間だった。それから4時間になり、今は3時間だ。司会の田原さんの体調を考えているのか、見る人のことを考えての時間短縮なのか。
昔、5時間の時、作家の中島らもさんが出たが、全く喋らない。他の人の話に割り込むか、あるいは怒鳴る形でしか割って入れない。そんなら喋らなくてもいいや、と思ったようで、5時間、一言も喋らなかった。驚いた。又、なかなか激論に割って入れなくて喋れない人がいる。そういう人を見ると、「あっ、いい人だな」と思ってしまう。
僕なんて、割って入れないし、喋れないからイライラする。見てる人も「なんだ。だらしがねぇ」と思う。でも、突然立ち上がって怒鳴って喋り出したりすると、「やっぱり右翼は粗暴なんだ」「これだから右翼ってイヤね」と言われるだろう。そう思うから、他の人のように怒鳴ることも出来ない。
昔、一度提案したことがある。「喋りたい人は手をあげて、司会者が指名をする」「それを受けて喋る」。でも、それじゃ面白くないようだ。又、冗談半分に「持ち時間制」を提案したことがある。3時間を出席者(14人ほどだ)で割る。CMを抜かして、一人10分くらいが「持ち時間」だ。パネリストの前に、それを示す時計を置く。10分喋りきった人は退場だ。それまで喋れなかった人は、あとでゆっくり喋れる。中島らもさんでも、ラスト10分位、独占的に喋れる。
これは革命的な提案だと思ったが、笑って誰も取り合ってくれなかった。今のままの、何が起きるか分からない、アナーキーな、そして自由主義の極致の雰囲気がいいのだろう。ともかく、最も過酷で、最も怖い番組だ。そうだ。マガ9でやってほしいね。NHK的「平等」と朝生的「自由」の両方を併せ持った理想の討論番組を。
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内容への賛否はさておいても、
出る人も見る人も体力・気力が必要な「朝生」。
鈴木さんが久々に出演した回、
テーマは〈激論!大丈夫か?!日本の防衛〉でした。
当日の様子については、
鈴木さんのブログにも書かれています。
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鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
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