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2012-10-03up
鈴木邦男の愛国問答
第109回
「勇ましくない」私の愛国論
「池上彰さんが鈴木さんのことを取り上げていましたよ」「ほめていましたよ」と、何人かからメールが来た。9月28日(金)の朝だ。まさか。そんなはずはないだろう、と思って、「朝日新聞」を買った。ビックリした。本当に出ていた。
「池上彰の新聞ななめ読み」だ。「中国の反日デモ 多面的に知るのが大切」と見出し。各新聞を取り上げ、論評している。そして、最後のところに出ていた。
<今回の一連の記事の中で最も読ませたのは、朝日新聞9月19日付の耕論「愛国」でした。鈴木邦男氏が、こう語っています。
「外国人が母国に抱く愛国心を理解し、その上で日本を愛する。自分の国がすべて、日本だけが素晴らしいという考えは、思いあがった自国愛にすぎません。ただの排外主義です。愛国とは最も遠いものです」>
結論部分で私の発言が引用されている。エッ、いいの? と思ってしまった。自分としては、当たり前のことを、当たり前に言っただけで、とりわけ問題にならないと思っていた。読んだ人の中には、「弱腰だ!」「お前には闘う気がないのか!」「卑怯者」と言う人もいた。「領土は1ミリたりとも譲ってはならない。戦争も辞さずの覚悟を持て!」と言う人が多い中で、私なんかは「弱虫!」「非国民!」と言われても仕方ない。いや、そんな「勇ましい」言論状況だからこそ、私のような発言も珍しさだけで注目されたのかもしれない。
池上さんは、世界中の紛争地帯を見ている。国境紛争の現場も見ている。だからこそ、「勇ましい」だけの声では何も解決できないと憂慮したのかもしれない。池上さんが「最も読ませた」と紹介した朝日(9月19日)の耕論「愛国」は、13面(オピニオン欄)の全面を使って3人の発言を紹介している。亀井静香さんと岩井志麻子さん(作家)、そして私だ。私の発言は、ただの、おとなしいだけの発言だが、亀井さん、岩井さんの発言は、面白いし、勇気があると思った。それなのに、私の発言がトップで出ている。申しわけない。亀井さん、岩井さんに会ったら謝らなくっちゃ。
今思うと、この紙面を作った朝日新聞も偉いと思う。日本中が頭に血が上り、カッカしてるときに、「少し冷静になって考えようよ」と言う3人を載せたのだ。勇気がある。変な話だが「戦争してでも守れ!」「やっちまえ!」と勇ましいことを言うのは、勇気が要らない。安全圏にいて叫んでいるだけだ。そして、「俺って何て強いんだろう」「断固として闘っている」「カッコいい」と、自分で自分の言葉に酔っているだけだ。「冷静に…」「ちょっと頭を冷やして考えよう」と言うほうが、よほど勇気が要る。命がけだ。
耕論「愛国」のリードの部分もいい。覚悟が読み取れる。
<中国、韓国に甘い顔をするな。国賊、売国奴は日本から出ていけ。子どもの命は国に捧げろ-。それが本当に愛国なのか。真の愛国者の言葉なのか。愛国を考える>
なかなかいい。それに応えて、3人が発言している。亀井静香さんは、「政治家よ、軽々しく使うな」。岩井志麻子さんは、「痴話げんかで止めておけ」。私のが「心の痛みがない愛は偽り」だ。
私の発言は穏和で、面白味もないが、亀井さん、岩井さんの発言はいい。ピシャリと本質を押さえている。亀井さんは言う。
<領土問題で隣国と先鋭的な対立が生じている今、政治家は、相手の国がこれまた短絡的に愛国を振りかざして極端な対応をとらないように、現実的、具体的な解決策を地道に探る努力をすべきでしょう。仲良くすることに勝る防衛はないんだから>
最後の言葉がいい。確かにそうだなと思う。「防衛」といえば、すぐに、軍備増強だ、死ぬ覚悟だ…ということばかりが言われる。しかし、仲良くすることに勝る防衛はない。なかなか言えないことですよ。岩井志麻子さんも面白かった。さすが作家の感性は違うと感心した。年下の夫は韓国の人で、ソウルに住んでいる。犬を飼っている。岩井さんは「竹島」と呼び、夫は「独島(トクト)」と呼んでいる。夫の家賃をはじめ全ては岩井さんが出している。それなのに夫は犬も家も実効支配、いや不法占拠してる。
<でもそこで、本気でけんかして「竹島ちゃん」の領有権を争ってどうなるんか、って話なんです。わんぱく相撲で力士が子どもを張り飛ばしたって、あいつは強いなんて誰も言わない。力が上の者がうまく負けてあげることが大切だし、その方が格好いい。「愛国じゃ愛国じゃ」って言って、本気でけんかして戦争なんてことになっても誰が得するもんですか>
なるほど、説得力がある。たとえ話もうまいですね。それなのに私なんかが、トップで申し訳ない。お2人に比べたら、私なんて内容がないし、思想もない。ある人に、こんなことを言われた。
「内容のない、粗暴な右翼でも、カッカするな、冷静になれ、と言ってるんだ」…と。お前は利用されてるだけだ。「右翼ですら」こんな事を言ってる。ましてや、普通の大人である私達は頭を冷やそうよ。そういう「使われ方」をしてるんだ、と。
でも、そんなことは、どうでもいいことだ。
池上彰さんが「最も読ませた」と書いてくれた朝日新聞(9月28日)の2日後、9月30日(日)のTBS「サンデー・モーニング」に出た。9月28日(金)の夕方、インタビューされたものだ。40分ほどインタビューされ、「でも、使うのは1〜2分ですけど」と言う。いいですよ、と引き受けた。でも、喋ってるうち、「こりゃ、内容がないな」と自分で自分にあきれた。穏和なこと、常識的なことしか喋ってない。全く面白くないし、勇ましくない。思想性もない。「これじゃ、使えないでしょう。ボツにしていいですよ」と言った。ところが、30日(日)、出ていた。それに何と、この日の朝日新聞の「天声人語」にまで取り上げられていた。驚いた。時代の雰囲気が余りに勇ましく、過激だから、私のような発言でも珍しいのかもしれない。…と、そんなことを考えた。
鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
「鈴木邦男の愛国問答」
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