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2012-08-08up
鈴木邦男の愛国問答
第105回
闘いはこれからだ!
「あれ? これは"マガ9"の取材だっけ?」と、思わず口走ってしまった。「何言ってるんですか。読売テレビの"たかじんのそこまで言って委員会"ですよ」と言う。ハッと我に返った。そうだよね、テレビカメラに向かって喋っているんだし…。マガ9のはずはない。でも、マガ9では動画も流しているし…。
いけないな。熱中症で頭がボーっとしてるんだ。だから錯覚する。幻覚を見る。他にもあったな。7月1日(日)の札幌の講演会だ。脱原発の市民運動をやってる人たちが呼んでくれた。案内のチラシには、「マガ9で連載している鈴木さんが来ます」と大きく書かれている。講演でも、「マガ9の鈴木さんが話を」と紹介される。質問する人も、「マガ9で読みましたが」と質問する。だから、これは「マガ9学校」だと思って話してきた。でも後で聞いたら、マガ9主催ではなかった。でも、それだけマガ9が全国民に読まれているし、影響力があるからだ。それで、「これもマガ9?」と錯覚する人間も出るわけだ。
7月31日(火)、大阪読売テレビ「たかじん」の取材班が我が家に来た。「ぜひ、鈴木さんのアパートで話を聞きたい」と言う。嫌ですよ、と言ったんだが、「有名な"みやま荘"を見たいし。質素な生活をされてるそうで、尊敬してるんです」と言う。別に好きで「質素」にしてるわけではない。仕事がなくて、貧乏なだけだ。「そんなこと言わずに是非」と、押し切られた。
「で、家で鍋をつつきながら、お酒を飲んでる。そんな、リラックスした雰囲気の中でお話を聞きたいんです」
「嫌ですよ。家で酒飲むことなんてないし、食事の道具も一切ないですよ。鍋もハシも皿もコップも何もないです」
「それは全て用意します。ボンベの付いたガス台も持っていきます」
そんな状況で酒飲んだってリラックスしないよ。かえって緊張する。それに、ビールを飲みながら鍋をつつくというと、"家族団欒"の風景だな。
「じゃ、別れた女房や子供も呼びますか。それとも、レンタル家族を借りてくるとか。『お父さん、おつかれさま』と言って娘がビールをつぐ。『おう、ちゃんと学校行ってるか』と私。そんな家族の会話もして…」
「そんな見栄を張らなくていいですよ。それにヤラセになってはマズイです」
…ということで、みやま荘での酒盛りは始まった。
そうだ。「たかじん」の取材班だけど、今回はテレビではない。ネットの有料配信だ。「たかじん」に出てる人に取材し、さらに深く、徹底して喋ってもらう。あるいは、二人か三人で、テレビでは言えなかった話。本音を披露してもらう。それをネットで流す。
私は何度か出ている。大阪で、「たかじん」の収録後に撮ることもあるし、場所を移して撮ることもある。愛国心や憲法、右傾化…などについて取材された。又、西尾幹二さんと女帝問題で対談した。最も印象的だったのは、「金正日総書記の専属料理人」だった藤本健二さんと対談した時だった。3年前かな。「次の後継者は三男の正恩さんです」と断言し、「そんなことはありえない」とバッシングを浴びていた時だった。しかし、藤本氏の言うとおりになった。初めて藤本氏に会った時は半信半疑だった。だが、居酒屋で二人で話してるうちに、「これは本当だ」と思った。それだけ、リアリティのある話だった。二人の話は、「たかじん」のネットで流され、今も見ることが出来る。
「藤本さんと又、対談したいですね、このネットで」と言った。11年ぶりに藤本氏が訪朝したというニュースが流れていた時だった(藤本さんは8月4日に帰国したと新聞に出ていた。金正恩第一書記とは「久しぶり」と言って抱き合ったという。「金第一書記は本当に人間が大きくなった」と藤本氏は語っている。ぜひ、会って話を聞きたい)。
話を戻そう。みやま荘での取材だ。「たかじん」の出演者と酒を飲みながら、リラックスした中で、本音を聞く。という企画を最近やってる。田嶋陽子さん、勝谷誠彦さんなどが出た。それで次は私だ。最近の脱原発デモや政治状況について。そして右翼運動、ネット右翼について、十分に話してもらいたいという。それで、ビールをガンガン飲みながら、酩酊して、喋った。
質問するディレクターが、何故か、マガ9の話ばかりするんだ。「マガ9を読んだら、鈴木さんは脱原発デモにはよく行かれてるんですね」「マガ9を読むと、でも、これじゃダメだ。変わらない、と焦ってるんですね」「右翼だったら、ここはテロしかないと思うはずなのに、マガ9を読むと、テロを否定してるんですよね」「マガ9によると、最近、中学の同窓会に行ったんですね」…と、全て、「マガ9情報」なんだ。私はマガ9の中にしか生きてない。
酩酊して、頭がぼーっとしてるし、「マガ9」「マガ9」と言われるもんだから、つい、「これって、マガ9の取材だっけ?」と言ってしまったんだ。すみません。
それにしても最近は、よくデモに行ってる。知らない人に声をかけられる。「マガ9読んでます」と。このデモも、マガ9主催か、と思ってしまう。「虚しさを感じませんか。こんなにデモをやって、20万人も集まって。しかし政府は、その声を全く聞こうとしない。人々の声は届かない。だったらテロで、と思いませんか?」
まずいよな、そういうことを考えちゃ。「たかじん」と同じことを聞いてくる。デモに出るだけでもいい。さらに、いろんな媒体で訴える。マスコミにいる人ならば、世論調査や、アンケートをやったらいい。新聞でもテレビでも。テレビなら今、双方向チャンネルで、視聴者の意見が聞ける。一瞬のうちに結果も出る。それを各メディアが発表したらいい。「うちの局では脱原発が70%でした」「うちの新聞では60%でした」と皆、出したらいい。政府に対する大きな圧力になる。無視できなくなる。選挙のときだって、考えなくてはならない。
自分に出来ること、あらゆることをやってみることだ。簡単にあきらめてはいけない。「デモでは変わらない」「大衆運動では変わらない」」「選挙では変わらない」…と、簡単に「結論」を出さないことだ。そんな言葉や声を発すると、それこそが「天の声」だ、と思う人がいる。「俺が呼ばれてるんだ」と思う人がいる。つまり、テロを呼ぶのだ。危ない。
特に今は、マスコミだけでなく、ネットがある。ツイッターがある。右翼の人も、ネット右翼の人も、潜在的右翼の人も皆、見ている。そして、自分たちを呼ぶ「天の声」がいつ来るかと、耳をすましている。「天の声」に応じて立ち上がったら、自分は「救国の英雄」になれる。この日本を救える。そう思うのだ。
だから、「もうダメだ」「デモでは何も変わらない」とあきらめてはダメだ。闘いは、まだまだこれからだ。簡単に「結論」を出すな! …と、これは自分に対する自戒かもしれない。と、書いていて、今、気がついた。
*
簡単にあきらめる前に、あらゆることをやってみること…。
いろんなやり方で「闘って」きた鈴木さんの言葉には、
説得力と重みがあります。
まだまだ、やれることはたくさんある。
もちろんそれは、「脱原発」だけのことではありません。
*
鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
「鈴木邦男の愛国問答」
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