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2012-06-13up
鈴木邦男の愛国問答
第101回
左右を超え、南北を超えた「コリア国際学園」
「今日は左右を超えて多くの人達が集まりました」。…と言われることが多い。本当は、「右」は僕一人なんだけど。左翼的な集会やデモ、それに市民運動の集会に僕が行くと、そう言われるのだ。僕一人が出ただけで、「左右を超えて」と幅が広がる。「広がり」に貢献してるわけだ。いいことだろう。
しかし、昔はこんな言い方はしなかっただろうな、と思った。「左右を超えて」とか、「右も左も」とは言わなかった。そういう発想がなかったし、「超える」ことがいい事だとは思われなかった。左翼にしたら、左翼だけが正しいし、右翼は打倒する対象だ。そんなものと手を組むことはない。右翼が、集会やデモに来たら実力で追い返す。粉砕する。それが常識だった。ところが今は、逆だ。「右翼が来てくれて、うれしい」「この運動は左右を超えた」「右から左まで幅広く、多くの人が集まってくれた」と言う。時代も変わったと思う。
何度か行われた「脱原発杉並デモ」の時は、特にそのことを痛感した。デモには、社民党、共産党、労組の人達もいたが、僕が行っても歓迎してくれる。「左から右まで幅が広がった」と喜んでくれる。さらに驚いたことに、左翼の中の幅も広がった。本当は、こっちの方が凄い。だって、共産党とは「犬猿の仲」の新左翼まで来たからだ。共産党は彼らを「新左翼」とも「左翼」とも認めない。「トロツキスト」とか「反党分子」とか言って罵る。今だって、そうだろう。でも、一緒に集会をし、デモをする。「左翼内部の敵対関係を超えて」集まったのだ。
これはいい傾向だと思う。僕自身も、「もはや右も左も超えた」と思っている。ところが、そんな僕でも、これには驚いた。6月9日(土)の集会だ。司会の人が言った。「今日は左右を超え、南北を超えて多くの人達が集まってくれました!」と言ったのだ。ウォーッと参加者は拍手する。そうか、これは凄い、と僕も思った。僕だって、発想できなかった。それを考え、実行したのだ。左右を超え、さらに南北を超えた。3Dのようだ。
本当のことを言うと、思想的な集会ではないし、デモもない。そんなものを超えようとする試みだ。大阪に、「コリア国際学園」という学校がある。中学・高校があり、出来て5年目だ。今まで、韓国系の学校、北朝鮮系の学校と歴然と分かれていた。二つの国に分断され、日本にいる在日の人も民団系、総連系と分かれていた。ところが、5年前にこの学校が出来た。「南北を超えて」生徒を受け入れ、「国際人」を育てようとしている。そんなことが出来るのか! と驚いた。大変な苦労もあったようだ。「そんなのは夢だ」と批判する人々。「なぜ我が国の民族学校に入れないのだ」と南北の人からも批判されたようだ。
そして、この学校のことを、もっともっと多くの人に知ってもらいたい。そして、コリアのこと、世界のこと、共生のことなどを考えてもらいたい。そういう趣旨で、「コリア国際学園後援会」が出来た。「鈴木さんも入って下さいよ」と寺脇研さんに言われた。僕なんかでいいんですか、と言ったが、面白そうだし、凄い試みだ。「いいですよ」と即答した。
6月9日(土)の午後4時から、ニューオーサカホテルで、「コリア国際学園後援会設立に向けた集い」が開かれたのだ。受付で学校の入学案内と、この日の式次第が渡された。「設立発起人」は10人だ。僕も入っている。でも、他の9人を見て驚いた。錚々たる人達だ。「いいのかな、僕一人、変なのが入っていて」と思った。だから発起人挨拶の時、「僕なんかが入っていて、誤解され、反撥されるようでしたら、いつでも削除して下さい」と言った。だって、こんな人達が設立発起人だ。
瀬戸内寂聴(作家)、中村泰士(作曲家)、野中広務(元内閣官房長官)、澤地久枝(作家)、平田オリザ(劇作家)、上田正昭(京都大学名誉教授)、水谷幸正(元佛教大学学長)、徳山詳直(京都造形芸術大学理事長)、志村ふくみ(染織家、人間国宝)
この9人に僕を加えた10人が「設立発起人」だ。僕なんかでいいのかよ、と思った訳が分かるだろう。この日は、出席したのは4人。瀬戸内さん、中村さん、志村さん、そして僕だ。4人が各々挨拶する。皆、初対面だ。緊張した。特に「人間国宝」の人だ。人間国宝の人なんて会うのは初めてだし、何を言っていいのか分からない。そしたら、付き添いで来た娘さんが、「鈴木さんの本、読んでますよ。『武道通信』に書いたのも読んでます」と言われ、驚いた。
そうだ、この日の「集い」は午後4時から、鷲田清一さん(大谷大学教授)の記念講演「教育力とは何か」があり、5時半から懇親会があった。そこで、人間国宝や瀬戸内さん、中村さんたちと話をした。記念講演もよかったし、発起人の挨拶もよかった。この学校のビデオも流された。学校の様子や、生徒、卒業生の言葉などだ。
「建学の精神」では、こう謳われている。
<21世紀の国際社会は、グローバル化と情報化が加速する一方で、政治・経済・社会・文化のあらゆる面において、解決すべき人類共通の課題にも直面しています。とりわけ東アジアは、その集約的な地域のひとつとしてダイナミックな変化が予見される歴史的な転換期にあります>
こうした時代だからこそ、「個性と多様性」の尊重を基礎とした創造力の溢れる人間が求められている、と言う。
<言い換えれば、柔軟な発想と幅広いコミュニケーション能力を兼ね備え、問題解決能力に優れた人間の育成にほかなりません>
これは凄い、と思った。「南も北も、右も左も」超えた発想だ。狭い世界で運動をしてきた僕などには、とても思いつかないことだ。
さらに、こう言う。
<コリア国際学園(KIS)は、在日コリアンをはじめとする多様な文化的背景を持つ生徒たちが、自らのアイデンティティについて自由に考え学ぶことができ、かつ確かな学力と豊かな個性を持った創造的人間として複数の国家・境界をまたぎ活躍できる、いわば「越境人」の育成を目指します>
「越境人」か。これはいい。「建学の精神」でこんなことを言う学校は、ちょっとない。「僕は、長い間、右翼運動をやってきて、今は左翼の人とも話し合い、運動している。僕だって<越境人>だ。だから発起人の資格もあるかもしれない」と挨拶した。
この学校の「教育理念」は三つだ。「多文化共生」「人権と平和」「自由と創造」だ。これもいい。何なら、このまま日本国憲法の理念にしてもいい。不自由で、寛容性がなく、排外主義的な言葉がまかり通っている現代日本において、この理念こそが必要だし、大切だ。中学や高校で、こうした教育を受け、多くの人達と勉強できるなんて、うらやましい。僕も入学したいくらいだ。
そう言ったら、寺脇研さんに言われた。「鈴木さんが愛国心について書いた文章もテキストになって勉強してるんですよ」と。本当ですか! と思わず聞き返した。じゃ、学校に行って授業を見てみたいですね、と言った。「鈴木さんが行って、愛国心について授業して下さいよ」と寺脇さんは言う。寺脇さんは何度か授業している。「だったら、寺脇さんが行く時、付録で行かせて下さい」とお願いした。実現できたら嬉しいですね。
*
いったいどんなの? と気になる鈴木さんの「愛国心」授業。
いろんな「境界」を軽やかに飛び越えて活躍する鈴木さんだけに、
まさに「越境人」育成、にふさわしいものになりそうな気が…。
*
鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
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