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2011-12-14up

鈴木邦男の愛国問答

第88回

今年世に出た3冊の著書

 『人と思考の軌跡・竹中労』(河出書房新社)という本が出ました。ちょっと変わった本です。〈評伝〉ですが、客観的な、いわゆる評伝ではありません。著者との関係だけで書いた極私的な評伝です。「体験的評伝」と表紙には書かれています。私が書きました。昨日、12月13日(火)に発売になりました。
 『愛国と憂国と売国』(集英社新書)が発売されたのが11月17日ですから、それから3週間後に又、1冊出たことになります。でも、両方とも2年ほど前から計画し、書き進めてきたものですし、たまたま発行日が重なっただけです。今年は6月に 『新・言論の覚悟』(創出版)を出しましたし、この1年で3冊です。ちょっと出しすぎの気もしますが、嬉しいですし、ありがたいです。
 『新・言論の覚悟』は、月刊「創」の連載をまとめたものです。又、『愛国と憂国と売国』は「マガジン9」の連載をまとめたものです。「じゃ、本人は“まえがき”と“あとがき”を書くだけだから楽だろう」と思われるかもしれません。自分でも、そう期待したのですが、とんだ勘違いでした。それは本を読んでもらえば分かりますが、大変な苦労でした。私以上に編集者がご苦労されたと思います。おかげでいい本が出来ました。『愛国と憂国と売国』では、「マガジン9」主催で出版記念イベントをしてもらい感謝しております。藤波心ちゃんとトークも出来、とても楽しかったです。次は、『中学生に教えてもらう、右翼と左翼』を書きたいですね。『中学生が叱る、憲法論議』でもいいですね。私は一方的な聞き手にまわります。

 さて、『竹中労』です。これは完全な書き下ろしです。今年の夏に、350枚を必死で書きました。話があったのは去年で、「仕事はないし、暇だからやってみますよ」と気軽に返事したんですが、今年は大変な年になりました。3・11の東日本大震災、原発事故、それに政治の低迷、失墜。天災に追いうちをかけるように人災の連続です。私も何度か被災地に行きました。右翼の側からも反原発の声が上がり、「右から考える脱原発集会&デモ」が何度も行われました。さらに、私事ながら、北朝鮮に2度も行きました。野生のイルカと泳ぐプロジェクトにも参加しました。そんな忙しい中で、3冊の本を出しました。よくもやれたな、と思います。
 そして、竹中労とは、この2年間、ずっと付き合い、考え続けてきました。集中的に書いたのは今年の夏ですが、それまで考え、下書きを書き、資料を集め、読み込んできました。もう20年前に亡くなった人ですから、資料の上で付き合い、思い出し、そして〈対話〉してきました。
 竹中労は、いわば、ルポライターの元祖です。『決定版ルポライター事始』(ちくま文庫)という名著もあります。女性週刊誌に芸能レポートを書きまくり、よく衝突し、喧嘩し、問題を起こしました。「ケンカ屋」「無頼」とも言われました。芸能レポートだけでなく、政治・社会を斬る原稿も多く書きました。若くして日本共産党に入り、その後、除名になり、以後は「アナーキスト」を自認しています。右も左も超えたアナーキストです。私が最も好きな竹中の本は、『FOR BEGINNERS 大杉栄』(現代書館)です。日本のアナーキストの代表的思想家・大杉栄の評伝です。そして、「あとがき」には何と、「大杉栄は、私である」と書いています。凄い自信だと思いました。
 この竹中労は、学生時代は〈敵〉でした。敵ながら凄い奴がいる、と思いました。右翼学生も竹中の本は随分と読んでました。過激だし、文章がいいのです。躍動感があります。リズムがあります。魅了されました。でも、〈敵〉です。その竹中労に初めて会ったのは1975年です。三島事件から5年後です。左右を集めた大演説会で会い、ちょっと挨拶しました。それから、76年末に、竹中の演説を初めて聞きました。そこに参加した右派青年を意識したのでしょう、こんな挑発的なことを言ってました。
 「天皇制が分からなければ、左翼と右翼は話し合えませんか? 共闘できませんか? そんなに天皇制は大事ですか?」と。又、言います。「天皇制の問題はひとまずおいておいて、アジアの風と光を理解できるなら、共に話し合え、闘えるのではないでしょうか」と言う。
 馬鹿な! そんなことはない! と激しく反撥しました。三島由紀夫は東大全共闘に呼ばれて、「君たちが天皇陛下と一言、いってくれれば共闘できる」と言いました。でも、言ってくれないから共闘は出来ないということです。強い拒絶です。
 三島事件から6年後、竹中労の言葉は強烈でした。「冗談じゃない!」と反撥しましたが、ずっと頭に残っていました。そして竹中と何度か会い、話し、そのうちに段々と私の心の中に化学反応が起こってきたのです。思想的な影響を受けただけでなく、多くの人を紹介してもらいました。遠藤誠、千代丸健二、中山千夏、矢崎泰久、小沢遼子…と。「左翼人脈」が急に拡がりました。天皇制には反対の人ばかりです。でも、寛容で、自由に話し合えます。特に、遠藤誠弁護士などは、傍にいてホッとします。これは何だろう。俺は転向したのかな、と思いました。
 逆に、天皇制支持の右翼の人の中には、ピリピリした人がいます。「少しでも考えが違ったら許さん」と身構えている人がいます。傍にいて、つかれます。そんな自分の心情、違和感を軸にして、書いた本です。私の出会った竹中労、そこで考えた竹中労しかいません。「こんなのは評伝じゃないよ」と言われるのは覚悟の上です。
 今、思いましたが、これは不遜なことを言えば「三島越え」の本かもしれません。少なくとも、それを目指したのです。竹中は。三島事件後6年目で、虚脱状態にあった我々右派青年を竹中は叱咤したのです。「そんなに天皇が大切か?」「そんなに三島が大切か?」と。そのことだけを考えて、うちに閉じこもっていていいのか、と。この本は、その挑発に乗り、必死に考えていった私の「思考の軌跡」です。竹中労を語るようにみえて、私自身を語っていたのでしょう。「竹中労は、私です」と言うほどの自信はありませんが、その心境に一歩でも近づこうと必死に書いた本です。別に私のこの本は読まなくていいです。ちくま文庫を初め、竹中の本は沢山出ています。ぜひ、手に取って読んでみて下さい。私と同じように衝撃を受けるでしょう。そして、悩み、考えこむでしょう。そこから皆さん一人一人の「思考の軌跡」が始まるのです。

『人と思考の軌跡・竹中労』(鈴木邦男/河出書房新社)

『愛国と憂国と売国』(鈴木邦男/集英社新書)

『新・言論の覚悟』(鈴木邦男/創出版)

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鈴木さんの「右」も「左」も超えた広い人脈にはいつも驚かされますが、
なんと今度は「竹中労」!
「反骨のルポライター」として知られる竹中労、
果たして鈴木さんの目から見たその姿は?

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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