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2011-04-06up
鈴木邦男の愛国問答
第72回
東北の被災地を歩いた
仙台、石巻、女川(おながわ)に行ってきた。その惨状に絶句した。何と言っていいか分からない。家やビルが崩壊し、見渡す限り瓦礫の山だ。道に大きな船が横たわっている。海岸からかなり離れた街なのに、そこまで津波で運ばれてきたのだ。車が大破し、重なりあっている。道に突き刺さっている。海の中に流された家がポツンとある。わが目を疑った。女川なんて、街全体が消滅した、という感じだった。津波で流されて、家もない。果たして復興できるのだろうか。そんな不安さえ感じた。
4月2日(土)、3日(日)に行ってきた。いくつかのグループや企業、個人が集まって、「絆ネットワーク」という救援組織を作った。震災直後から何度も救援物資を運び、ボランティア活動をしている。一水会の若者たちもそこに参加して、何度か行っている。4月1日の夜、12時頃だった。木村三浩氏(一水会代表)と電話で別の話をしていた。電話を切る時に、「明日から又、石巻に行ってきます」と言う。「大変だね、ご苦労さん」と言って電話を切った。そして仕事をしていた。アッと思った。この機会しかないな、と思った。もう一度、木村氏に電話し、「連れてってくれよ」と無理に頼んだ。「じゃ、聞いてみます」と、車を動かす人に聞いてくれた。何とか、一人、大丈夫だという。「ありがたい。出来ることは何でもやる。少なくとも、皆の邪魔にならないようにします」と言った。
翌2日(土)の朝5時半、渋谷に集合だという。土、日は予定が入っていたが、事情を話し、中止だ。それから、書きかけの原稿を仕上げたり、準備をしたり。もう4時だ。そのまま慌ただしく出かける。こんな慌ただしい出発が前にもあったな。そうだ、北朝鮮に行った時だ。ちょうど1ヶ月前だ。1ヶ月の間に、こんなに多くのことがあったんだ。
5時半、集合場所に着く。車3台だ。1台は荷物を満載したトラックだ。あとの二台にも救援物資が積まれ、人間は小さくなって座る。途中から、河口湖の部隊も合流するという。河口湖は町長はじめ一丸となって救援活動をし、1千人を河口湖に引き受ける、と言っている。救援物資もトラック二台に積んで出発し、途中で合流し、石巻に向かった。
「絆ネットワーク」は、ボランティア活動に慣れた人が中心になり、「緊急車両」の申請をし、市役所など公共機関との連絡も密で、心強い。これは大したものだと思った。
石巻までは東北自動車道で7時間かかった。でも、最近この高速が開通したから、この時間で来れた。その前は、下の道路だから、どれだけかかるか分からない。
東北新幹線は、震災後、止まったままだ。4月末には復旧するという話があるが、分からない。在来線でも行けない。東北自動車道がやっと開通したので、仙台に行くには長距離バスという手もある。しかし、予約で一杯でキャンセル待ちの人であふれている。羽田から山形空港に行って、山形から仙台までバスという手もあるが、これもチケットが取れない。仙台には行きたいが、無理だなと諦めていた。新幹線が復旧するまで待つしかないのか、と思っていた。
だから、これを逃したらダメだと思い、無理に頼んで、「絆ネットワーク」の車に乗せてもらったのだ。高速道は、自衛隊の車が多い。「災害派遣」と車に書かれている。「救援物資」と書かれたトラックも多い。やはり救援物資を運ぶのだろう。宅配便のトラックもある。心強い感じがした。
午後2時、石巻市役所に行く。一階、二階と泥だらけだ。ここまで浸水したんだ。津波が来た当時の写真が貼ってあったが、この辺はもう「海」になっている。海の中に市役所があるという感じだ。オーバーを着て職員の人達が働いている。ボランティアの人達も来ている。近くの石巻専修大学がボランティアの受け入れ、連絡をやっている。我々には副市長さんが会ってくれた。12時に市長さんと面会する約束だった。でも、車が遅れて、市長さんは出かけてしまい、副市長さんだ。でも、こんな大変な時に、よく会ってくれたもんだと思う。「絆ネットワーク」が、それだけ活動し、信用があるのだろう。被害の状況、避難した人々の受け入れ、復興について話してくれた。それから、市民総合運動公園へ行く。ここに全国の救援物資が集められている。厖大な数のプレハブが建てられ、又、物資が地面にうず高く積まれている。自衛隊の車だけで100台以上並び、消防車両も並んでいる。手続きを済ませ、我々の車から物資を降ろす。それを自衛隊の人々が運び、並べる。区分けするだけでも大変だ。全国から自衛隊の人々が来ていた。
トラック三台分の物資はここで降ろし、あと知り合いの会社、個人の家を回って物資を渡し、話を聞く。それから、街全体を案内してもらう。テレビや新聞で見る以上に酷い。その惨状が、えんえんと続く。家はペチャンコになっているし、鉄骨だけをさらしたビル。地面に突き刺さった車…。なんと表現していいのか分からない。そこから仙台に帰るのだが渋滞だ。でも何とか仙台にたどり着く。ビジネスホテルはどこも満員だ。「車の中で寝てもいい」と思ってきたが、部屋は用意してくれた。ありがたい。お湯の使えるのは「夜の7時から9時まで」と書かれている。「シャワーだけにして下さい」とも。当然だ。「先週来た時は、お湯も暖房もなかったんです」と木村氏が言う。
夜遅く、兄貴に電話して会う。元々僕は仙台で、中学、高校はここだ。両親はもういないが、兄貴はいる。マンションの14階で、生きた心地はしなかったという。でも無事だ。ガスは出ないが、電気、水道のない家もあるし、文句は言えないという。亡くなった人も多いし、避難している人達も大変だ。
翌日は朝早く起きて、女川に行く。石巻より更に先だ。石巻は酷かったが、ここも又、酷い。町全体が流された。何もない。こんなことがあっていいのか、と思った。こんな所にいる自分が信じられなかった。全く別の世界にいるようだ。でも現実なのだ。ゴーストタウンというか、いや、もうタウンもない。廃墟だ。女川には原発もある。しかし、福島原発と違い、女川原発は大丈夫だった。そこも近くまで行ってみた。廃墟が広がっている。津波の脅威を目の当たりにした。人間の存在の無力を感じた。でも、日本中から、いや、世界中から支援の声があがり、人が来、物資が届けられている。人間の絆の力強さも感じた。現地では、自衛隊、警察、消防、そして米軍も命がけで救援活動をしている。そして、全国からボランティアの人々も来ている。そうした人間の連帯、絆がある。必ずや復興も出来ると思う。
「こんな時になんですが…」と石巻市役所で聞いた。「石ノ森章太郎記念館は大破して、もうダメだと聞いたんですが」。「土台の方は少し破壊されて、資料も少し流されましたが大丈夫です。再開します」。それはよかった。「それと、“ネコの島”はどうでしたか、大丈夫でしたか」。「あっ、田代島ですね、あそこも大丈夫です。かえって石巻の被災者を受け入れてるんです」。それは、ありがたいネコちゃんたちですね。感謝しなくっちゃ。
「僕も去年行ったんです。ネコだけが住んでる、ネコの共和国があるって聞いて…」と話しました。石巻から船が出ている。ネコしかいない。何万匹といる。ネコが選挙で村長を選んで、自由な共和国を作っている(そう聞いたが、本当は人間も住んでいた。エサも与えていた)。
「ネコの島に行って、ネコと遊んでる写真を私のHPに載せたんですよ」と言ったら、驚いていた。「じゃ、見てみますよ」と言う。あの時は、ネコに大歓迎された。ネコが主人公の島だ。ともかく、平和な島だ。ネコの島だから戦争もない。そして、今回の大震災・津波では、石巻の被災者を受け入れている。本当にありがたいと思う。大災害の街を歩き、暗く、絶望的になったが、その中でもネコと人間のあたたかい心の交流を感じた。
*
「絶望的」な状況の中にも、人と人(とネコ)のつながりという、
希望を見出して戻ってきた鈴木さん。
現地での支援ボランティアの活動なども、
少しずつながら広がり始めているようです。
1日も早く、人々が「日常」を取り戻すことができるように、
1人ひとりができること、やるべきことを。
改めてそう思います。
鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
「鈴木邦男の愛国問答」
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