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2011-02-09up

鈴木邦男の愛国問答

第68回

領土問題を考える

 「第6回・マガ9学校」に出ます。2月11日(金)の午後1時から6時です。カタログハウス本社のセミナーホールで、東京外大の伊勢崎賢治さん、マエキタミヤコさんと一緒です。テーマは、「平和と軍事のシミュレーション〜あなたが決める尖閣問題」です。領土問題です。ナショナリズムの問題です。領土問題は他にも北方領土、竹島とあります。その問題について話し合います。

 難しい問題です。領土問題は、国家がこの地球上に出現して以来、ずっと存在する問題です。最も古い問題です。そして今、日本で最も重大な問題です。日本だけでなく、世界中でこの問題に頭を悩ませています。世界では、この問題にどう対処し、どう解決してきたのか。当日は伊勢崎さん、マエキタさんに、詳しく教えてもらいたいと思います。
 「領土問題に最も熱くなってるのが右翼だろう」と言われるでしょうから、僕の体験も含め、その運動についても話したいと思います。1970年に三島事件があり、その直後、昔の右派学生運動仲間が集まって、一水会をつくりました。その時、機関紙を作りました。「レコンキスタ」という名前で、今も続いてます。スペインのレコンキスタ運動からとったもので、「失地回復」という意味で付けました。北方領土をはじめ、奪われた領土を奪還する。さらに、失われた日本の精神を取り戻す。という意味で付けました。

 一水会を作った時から、「領土問題」は最重要テーマでした。その後、過激な運動もやり、何度も捕まりました。「領土問題」がらみの事件が多いのです。「このままでは日本の守りは危ない。自衛隊は何をしてるのだ!」と思って防衛庁に突入し、逮捕されたことがあります。又、「日ソ友好会館」建設反対闘争で、警察官と乱闘になり、寒い釧路で、1ヶ月、ぶち込まれたこともあります。「日ソ友好などマヤカシだ。ソ連にだまされるな!」と叫んで、「友好」をぶち壊そうとしたのです。領土問題は、1ミリでも譲ってはダメだ。妥協も話し合いもない。闘うしかないと思ってました。
 他の右翼の人達も皆、そうでした。日本を守るのが右翼だ。日本を守るとは、日本の領土を守ることだ。そう思ってました。でも、愛国党の赤尾敏さんだけは、ちょっと違ってました。「親米反共」で、とりわけ「反共」が最重要で優先事項だと言ってました。ソ連、中国から日本を守る。その為には、アメリカ、韓国、台湾とは仲よくする必要がある。そう言います。でも、韓国との間には竹島問題がある。これは困る。

 普通の右翼なら、「韓国との友好は大切だ。でも、領土問題は別だ。断固として闘う」と言います。でも、赤尾さんは、「どっちが大切か」と言います。右翼の大部分は、「領土の方が大切だ」と言いますが、赤尾さんは、「いや、韓国との友好の方が大切だ」と言います。韓国と手を組んで、ソ連、中国、北朝鮮と闘わなくてはならない」と言います。でも、竹島問題がある。喉に刺さったトゲのようなものです。「じゃ、そのトゲを抜けばいい」と言います。具体的には、竹島なんて小さな島は、ダイナマイトで爆破して、沈めてしまえ、と言ったのです。赤尾さんだから言えたのでしょう。他の人なら、「反日め!」「売国奴め!」と言われ、襲われてしまいます。
 「赤尾さんも凄いことを言うよな」と思いながら、文句は言えませんでした。「昔、左翼だったからああいう発想をするのかな」と言う人もいました。赤尾さんは、若い時、武者小路実篤の「新しき村」に感動し、その運動に入りました。又、左翼の運動もやりました。そして右翼運動を始めたのです。戦前から活躍していた右翼の指導者には左翼の洗礼をくぐり抜けた人が結構いるのです。世の中の不条理や矛盾に苦しみ、反撥し、いろんな運動を経て、右翼になった人が多いのです。
 「赤尾さんは、ナショナリズムというより、反共インターナショナルだよな」と僕らは言い合いました。いい意味でも悪い意味でも、日本を超えているのです。又、戦前の右翼は、頭山満に代表されるように、中国革命の孫文を助け、インド革命のチャンドラ・ボース、ビハリー・ボースを助けたりしました。日本の官憲と闘ってまで彼らを助けました。これも、インターナショナルです。

 でも、今の右翼や保守派には、そうした国際性はありません。多少の例外はありますが、排外的な傾向が強いのです。内向きです。例外としては、去年8月に東京で開かれた「世界愛国者会議」があります。これは、「愛国者インター」とも呼ばれました。「開国か攘夷か」をめぐる右翼・保守陣営の二極分化については、『現代用語の基礎知識』にも書いたので読んでみて下さい。
 「愛国者インター」では、これからの反グローバリズム、愛国者の連帯、そして、「領土問題」が大きな課題になると思います。
 「右翼は領土問題に足をすくわれて、身動きが出来ない」と言ったら、「いや、左翼だって同じだ」と太田竜さんが言ってました。太田さんは2年前に亡くなりましたが、「左翼だって保守的だ」と言ってました。太田さんは日本にトロツキズム理論を取り入れた人です。いわば、新左翼の産みの親です。でも、余りに先鋭的すぎて、世の左翼の人たちは付いていけませんでした。労働組合も左翼も、〈既得権益〉を守ろうとしている。ソ連、中国も革命を起こしたら、そこだけを守ろうとしている。これでは「保守」だ、ダメだと言ってました。公害企業が問題になった時は、それでも「賃上げ」要求する労組を批判してました。さらに、公害を出し、「黒い利潤」をあげて、自分たちに金をくれというのか! と。むしろ、「賃金の三分の二カットを要求しろ!」と言いました。
 又、ソ連と中国は「国境」を廃止しろ。ソ連は、生活レベルを落としても中国を助けろ、と言いました。又、「領土問題」でも、革命的なことを言いました。アメリカの全土を、「土着のインディアンに返せ!」と言います。ヨーロッパから来て、侵略し、土着の人々を弾圧、虐殺して「アメリカ」をつくった。だから、アメリカを返せ! というのです。「今さらそんな事が出来るか!」と右も左も思いましたし、反撥しました。

 左翼の間からも総スカンを食った太田さんですが、少し、似たようなことを言った人がいます。それも、戦前から活躍した右翼のリーダーです。片岡駿という人で、『日本再建法案大綱』を書き、その中で、こんなことを言ってます。日本の改造を徹底的にやり、その後に、世界の仕組みを変えるといいます。国連ではダメだ、「世界連邦」をつくり、エスペラント語を世界共通語にすべきだといいます。
 もう50年も前に書かれたものですが、発想は若いし、新しい。日本改造だって、首都移転、郵政の一部地方譲渡、地方自治体の自立、土地制度改革、労働者の権利、日本平和部隊の世界的拡充…など、50年後の「今」を見すえた論議があります。又、人口・食糧問題の解決のために、世界の大国は「領土」を分けてやれ、と言います。

 世界における人口・食糧問題の解決と、併せて来るべき世界連邦の布石たらしむるため、飢餓と貧困に悩む全世界の難民及び後進国プロレタリアートに対しソ連、中共、米共和国、カナダ、豪州等大地主国家の一部を解放し、これを自由共和国建設の新天地たらしむべきことを国連に提案。これが実現のために世界の識者と提携すべし

 右翼の大先生なのに、「後進国プロレタリアート」なんて言っている。さらに、具体的に、こう言う。

 アメリカ合衆国の一部、例へばアラスカを黒人のために解放して、黒人の共和国を建設せしめれば、米国社会の一大難問題を解決すると共に、ソ連の国防不安を激減する。世界平和への貢献と社会正義の実現を一挙に遂行し得ることとならう

 今、こんな壮大なことを考える人はいない。そうだ、片岡駿さんを太田竜さんに紹介すればよかった。それで、「領土問題」を徹底的に話し合ってもらいたかった。
 シーザーやナポレオン、チンギス・ハーンの時代ならば、戦争で「領土」をいくらでも増やせた。ところが近代国家になってからは、各国が、そのままの状態で、戦わずに〈平和〉を求めた。勿論、〈平和〉は何よりも大切だ。でも、領土は、その分、タブーになった。米ソ対立の時は、お互いが、自分たちにつく国を取り合った。そして今、米ソ対立はない。もっと分かりづらい状況になった。ナショナリズム、そして宗教がからんで、一筋縄ではいかない。そうした、もつれた糸をほぐしながら、それでもなお〈理想〉を求めて、領土問題を話し合ってみたい。あとは、「マガ9学校」の時に話し合いたい。難しい問題だが、僕も必死に考えてみたい。ご期待下さい。

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こんな話を読むと、
右翼って? 左翼って? と、またまた悩みが深まります。
「右」とか「左」とかではなく、
「領土」について、そして平和と軍事について考えるワークショップ、
残席僅少。ぜひお越しください。

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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