憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。
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2012-09-12up
佐藤潤一の「カエルの公式」
デモで何が変わるのか?
「非暴力行動」の意味と役割
こんにちは。
依然として残暑は厳しいですが、電気は足りましたねー。
これで原発は、安全性どころか、必要性すらないことが証明されたのですから、すべて止まっておいてもらいましょう。
このカエルの公式も第10回、社会変革の参考になればとはじめましたが、社会が先に変わっていくのを後追いしている感じです…(笑)
今回のカエルの公式は、前回に引き続き8月25日に山本太郎さんと行ったマガ9学校の「非暴力行動」ワークショップの内容をご紹介します。前回は、社会変化が起こるパターンと、市民の役割をご紹介しました。前回のブログを読んでいない方は、まずはそちらをご覧ください。「第9回あなたはどのタイプ?脱原発人のための性格診断」
ワークショップの中では、「非暴力とは何か」ということにも時間を割きましたが、カエルの公式では過去に何度か書いているので、さらっとおさらい程度にして、「デモとか抗議活動で何が変わるの?」という質問に答えてみようと思います。
「非暴力行動」はコミュニケーションの一種
「非暴力行動」とは何らかの社会問題を解決に導きたいときに用いる手法です。
「非暴力というと何を想像しますか?」と会場でも質問しましたが、圧倒的に「ガンジー」とか「暴力を使わない」という答えが多かったです。
社会問題を解決する上で「非暴力」の考え方が重要視されているのは、「非暴力」が「不公正を憎んで、人を憎まず」という精神を基本としているからです。たとえ、意見の違いや決して許せない不公正があったとしても、問題の当事者である「人」を憎むことではないことを体現するのが、「非暴力行動」です。このあたりはガンジーを思い浮かべると理解できますよね。
これは社会問題だけではなく、日常のトラブルや問題を解決する際にも当てはまる原則かもしれません。キング牧師も「非暴力とは生き方である」と言っていたそうです。
「非暴力行動」で誤解されることの一つに、「非暴力」だから「争いを避ける」ものだというイメージがあります。これはまったくの逆で、むしろ争いを積極的に起こすことで、問題点にスポットライトを当てて議論を喚起することを目指します。もちろん、争いの起こし方が支持されるものではなくてはありません。
この非暴力行動がもたらす現象をグリーンピースの設立者の一人は「マインドボム(気づきの爆弾)」と呼んでいました。ある人の行動が、他人に問題に気づいてもらうきっかけとなり、人の心に「ボッ!」と火をつけていく現象です。ですから、非暴力行動というのは人の心をどうやって動かすかというコミュニケーションの一種なのです。
山本太郎さんの事務所やめますツイッター
例えば山本太郎さんが、所属していた事務所を辞めるという出来事がありました。太郎さんの原発に関する発言が、出演予定の番組キャンセルに影響があったのではという点が問題になったわけです。結局、太郎さんは事務所を辞めるということで原発に自由に意見を言うことができない芸能界という業界に対して従わないという非暴力・不服従行動に出たわけです。
この時、太郎さんがつぶやいた「事務所を辞める」ツイッターで、多くの人が問題に気づき、心を動かされました。当時、太郎さんのツイッターのフォロワー数が数万人から十数万人に膨れ上がったといいますから、彼の140字が多くの人の心を動かしたことになります。ご本人も気が付いていないかもしれませんが、これも非暴力行動の一つだと私は思います。
繰り返しますが、非暴力行動は人の心を動かすことができるかどうかが重要なのです。
非暴力行動の役割
「非暴力行動」の意味は分かったのだけれど、それで効果が出るのか、役に立っているのかがわからないという声をよく聞きます。ということで、非暴力行動の役割という今回の本題に入ります。
まずは、前回のカエルの公式で使った社会変化のパターンをもう一度見てみましょう。
(この社会変化への役割については前回のコラムを参照ください。)
「非暴力行動」というのは、主に「行動派」に分類される人たちが行動を起こすことによって、社会に広く問題を伝える役割を果たします。
ちょうど上の表の4の部分あたりで「非暴力行動」が起こるのです。この行動がニュースで報道され、訴える内容が共感できるものであれば、ようやく「関心高い市民」にも問題意識が広がっていきます。この後の流れは前回説明した通りで、「関心高い市民」が増えれば「提案派」が代替案の提示をしやすくなり、さらには「啓蒙派」が社会の隅々まで教育で広げ社会変化が完成していきます。
ようするに、「非暴力行動」の役割は、問題を浮かび上がらせることによって「関心高い市民」を増やし、「マイナーな問題」から「過半数の人が感じるメジャーな問題」に転換することです。
非暴力行動がないと変化は起きない?
そもそも日本では、この数十年間「非暴力行動」に対して悪いイメージが強く、行動を起こす人が圧倒的に少なかったのが現状でした。すると、問題は常にマイナーなものとみなされ、社会に広まらず、「関心高い市民」も増えなければ「提案派」も代替案の必要性を十分に説明できずに苦戦を強いられるという図です。
さらに、日本には記者クラブメディアというもう一つのハードルがありました。「非暴力行動」をする人がいたとしても、それがしっかりと報道されないので広がらないのです。海外では、メディアが政府の監視役としての役割を担っていますので、市民のデモなどはなぜそのデモがあるかの理由も含めてしっかりと報道する場合が多いです。
「非暴力行動」に悪いイメージがあったことで「非暴力行動」が少なかったこと、そしてメディアが日本の「非暴力行動」を報道しなかったことが、これまで日本において社会変化のパターンを阻んできたのでしょう。今回の脱原発の盛り上がりは、官邸前の抗議のように普通の人が参加しているという特徴が「怖い」というイメージを払しょくし、さらにソーシャルネットワークで既存メディアなしでも訴えている主旨を伝えることができたことが過去のデモと大きく違う点です。
逆に言えば、デモなどに悪いイメージをつけておかなければ社会変化につながってしまうということを政府はよく知っているので、悪いイメージをつけたがるのでしょう。また、他の国では議会の前に広場があって市民が集まれる場所を保障している場合が多いのですが、日本ではむしろ市民に集まってもらっては困るという考えが強いでしょう。
「デモで何が変わるのか?」具体的な成果
企業がある商品を販売しようとするとどうするか。まったく知られていない商品について知ってもらうために多額の資金を投資して広告を打ちますよね。
口コミマーケティングなどというのもありますが、それだって仕掛けづくりに相当のお金がつぎ込まれます。こうやって商品にスポットライトを当て、できるだけ多くの人の目に留まるようにするのです。
市民が社会問題にスポットライトを当てるのに数千万円から数億円という広告費を出すわけにはいきません。だからこそ、「非暴力行動」が問題にスポットライトを当てるために必要なのです。きっかけを作るのです。
最近の動きで言えば、新聞などで「国民の原発への反発が根強い」という理由として官邸前のデモが挙げられています。これがさまざまな運動との相乗効果を生み出し、討論型世論調査やパブコメなどの結果として「関心高い市民」の広がりにつながり、政府の結論として「少なくとも過半の国民は原発ゼロを望んでいる」ということを認識させたと言えます。
「デモで何が変わるのか?」と聞かれます。確かにデモだけでは社会変化が完成しないことは既述の社会変化の役割の表で示した通りです。ただ、「非暴力行動」がなければ社会が根本から変わるような社会変化は起こらないと言えます。
前回も書きましたが、社会変化はさまざまなタイプの人がバトンをリレーするようにして起こるものだという認識が大切だと思います。行動を起こす人、代替案を提案し既存の仕組みの中で変えていこうとする人などなどの連携がカギです。
それでは次回!
何か具体的に行動を起こしたいと思っている方は、ぜひ一度グリーンピースのウェブサイトを覗いてください。
佐藤さんにお越しいただいた「マガ9学校」の様子は、
こちらのページでも写真入りでご紹介しています。
非暴力行動だけでは変化は起こらないけれど、
非暴力行動がなければ社会は変わらない。
原発が、デモなどの積み重ねによって「メジャーな問題」になったように、
他の問題についても、「普通の人が行動する」ことが、
もっと当たり前のことになればいいな、と思います。
佐藤潤一さんプロフィール
さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato
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