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2012-04-25up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第1回

社会を「変える」公式を求めて

●夢の公式?

 2001年に国際環境NGOグリーンピースの職員となってから、10年以上が経過しました。

 いろいろな環境問題に取り組んできた中で、人に語れるサクセスストーリーもあれば、ちょっと話せない失敗談や笑い話もたくさんあるのが本当のところ(失敗談もこのブログで紹介していこうと思っていますが)です。

 どうやったら効果的に環境問題の解決につながるのか試行錯誤しながらこの10年間考え続けてきたことは、NGOや市民が「社会を変える」ために活用できる黄金公式って存在しないのかなーということ。

 つまり、こうやって、ああやれば、社会がこう変わるっていう夢のような方法を示す公式です。

 「何をバカなこと言っているんだ。そんなものあるわけない」って声が聞こえてきそうですが、これだけたくさんの人が、思想の違いはあれ、社会を動かそうとあの手この手でいろいろ試みているわけだから、何らかの傾向や効果的な手法があるはずだと。実際に、海外では市民運動やNGO職員のためのトレーニングが盛んです。

 まだまだ10年程度の経験でしかないですが、市民やNGOの活動について何が効果的で、何が効果的ではないのかある程度予想がつくようにもなってきました。また、国際的に活動するグリーンピースがその40年の活動で培ったノウハウも、日本の現状に合うようにアレンジしながら共有したいと思います。

 成功した手法をいろんな人にも教わりながら自分なりに整理することで社会を「変える」ためのアイデアを蓄積・分析し、市民活動やNGOに従事している方々と共有・意見交換したい。そして、日本における市民社会やNGOの地位向上に少しでも役立てたい。そんな思いで始めようと思ったのがこのブログです。

 最初にお断りしておきますが、ここで述べる意見については私見を含み、グリーンピースとしての方針を必ずしも反映していない場合があります。

●「変える」方向性のキーワードは「多様性」

 いきなり本題に入る前に、そもそも私自身が「変えたい方向」とはどんな社会なのかについて簡単に説明しておいた方が良いかもしれません。

 私が社会を「変えたい」と思う方向性のキーワードは、「多様性」です。

 「多様性」というキーワードには、環境NGOの事務局長らしい「生物多様性」という意味と、人間社会のあり方としての「意見・考え方・文化の多様性」という2つの意味を含みます。

 一つ目の「生物多様性」ですが、グリーンピースに限らずほとんどの国際環境NGOは、地球における生物多様性を保全することを目標に活動しています。例えば、グリーンピースの場合、以下のようにその世界全体における活動のゴールを掲げます。

 Greenpeace's goal is to ensure the ability of the earth to nurture life in all its diversity. (グリーンピースの目標は、地球が多種多様な生命をはぐくむ力を守ることです。)

 つまり、地球に存在しているさまざまな生態系を保全して、地球本来の機能を維持し、人間もその一員として持続可能なレベルで生きましょうということです。

 二つ目は、「意見・考え方・文化の多様性」です。これは「人間社会」の在り方としての多様性を意味しています。これらの多様性が「公正・公平」に保障される社会を実現することが必要だという思いです。

 私は、もともと森林をまもりたいという思いで、グリーンピースに入りましたが、いろいろと活動する中で、そもそも人間社会における多様性の尊重が必須だとつよく感じるようになりました。

 生態系であれ人の意見であれ「多様性」こそが、生物が長年築き上げてきた「強さ」の秘訣だと思います。

 なんだか抽象的でわかりにくいことを書いてしまいましたが、具体的に「多様性」という物差しをいくつかの時事ネタに当ててみると私の視点ではこうなります。

 ○が多様性を尊重していると思うもので、×が多様性を尊重せず独占的になりがちなものという観点です。いずれのケースでも、詳しく見れば白黒はっきり分けられるものではないのですが、方向性を理解してもらうためにあえて○と×で示しています。

多様性 ○ 多様性 ×
分散型の自然エネルギー発電のネットワーク型エネルギー政策 原子力発電所などの大型発電施設主流のエネルギー政策
有機農業 遺伝子組み換え、農薬集中型農業
持続可能な沿岸漁業 大型漁船による一網打尽型の漁業
持続可能な林業 単一種の植林型林業
記者会見のオープン化、市民メディア、SNS 記者クラブ、大規模メディアによる情報独占
地方分権 中央集権
NGO、NPO、市民参画型行政 官僚によるおまかせ行政
平和 戦争

 こうやってあらためて並べてみると、右側のコラムにあることが現代の"主流"として推進されていることが多いようです。しかし、東日本大震災、東電の原発事故を通して、右側のコラムから左側のコラムへと社会を「変える」ほうが良いのではと感じはじめた人も急増していると思います。このような「主流の考えを疑う」という市民の多様な感覚を、どうやったら「変える」力に変化させていけるか、それが私の興味のあるところで、そんな「変える」の公式を見つけていきたいと思います。

●「カエル」も絶滅の危機に

 最後にまとめとして「カエル」について一言。

 生物多様性が失われる主因となっている気候変動ですが、この気候変動によってもっとも影響を受けているのが、環境の変化に敏感な両生類や爬虫類であることをご存知ですか? その中でも科学者の間で深刻だと心配されているのが実はカエルです…。

 そう言われてみると、「最近カエル見かけないなー」と思う方もいるのでは?

 社会を「変える」から「カエル」が意味もなくアイコンとして使われていると思われた方もいるかもしれませんが、実は生物多様性を意識してカエルを使っています…。 

 絶滅しそうだけれどその運命をもはや人間に頼るしかない「カエル」の気持ちも思い出しながら、2つの「多様性」をキーワードに社会を「変える」方法について1年をめどに書いていきたいと思います。また、多様なご意見もいただければと思っています。ぜひ私のtwitter(@gpjsato) にご意見ください。

 それでは、1年後にはこのカエルのかぶりものアイコンに慣れていることを願って (-_-;)

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato