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2010-09-08up

松本哉ののびのび大作戦

第31回:裏なんとかフェス・和田さんとの死闘編

 前回紹介したように、そんな感じで大成功に終わったかと思いきや、実は裏ではフェス中止寸前の地獄の死闘が繰り広げていた。一応、その辺も少し紹介しておきたい。

 フェス会場の入り口付近に和田さんという一軒の民家があり、音が聞こえるとしたら唯一ここの家だ。で、去年は特に苦情はなかったんだが、今年、準備の段階でジローさんが「今年もよろしくお願いします」と言いに行ったところ、「やっぱり、うるさいからダメ!」と言いだした! おいおい、それはまずい!! もう準備が進んじゃってるぞ! これは、なんとか和田さんのOKをもらわなきゃいかん!

和田さんの店のステーキ! ゴキゲンで肉も厚い!!

【ステーキ作戦】

 どうやら、和田さんは最寄りの安茂里駅のそばで「ワンハンドレット」というステーキ屋さんを営んでいるとのこと。よし、これだ!! 大人数で食べに行って「これはうまい! こんなステーキは食べたことがない!!」と大騒ぎすれば、機嫌が直るんじゃないか!? ってことで、準備のときにみんなでそのステーキ屋さんに行ってみた。で、定食を頼むか頼まないかの時点で、早くも「うるさいから、今年はナシだからね!」と、和田さんの先制攻撃!!!! しまった!!

 だが、こちらも「いやいや、和田さんそこを何とか」と粘る。「いやー、あの山がいいんですよ」「いや、うちの80歳のばあさんが起きるから、やっぱりダメ」みたいなやりとりを繰り返し、最終的にはなんとか「夜9時以降の音を下げる」ということで合意!! よし、やった!
 ちなみに、多少まずくても誉めようかと思っていたステーキは、本当に異常にうまかった! すごい! 東京だと人がたくさんいるからまずい店でも生き残ってるが、田舎の個人商店で残ってるところってのはさすがにすごい。これはうまい訳だ。うーん、あの店は普通に行った方がいい。

 で、いざなんとかフェスが開催されている期間中も音問題には細心の注意を払った。和田さんの帰宅は10時ごろということなので、10時ごろをめどに低音を少し絞るようにして、音をコントロール! 初日は、いきなり朝まで大パーティー! ただ、メインステージは音を止め、サブステージのみでDJが音楽をかけまくる!
 そして、翌日もワンハンドレットへ様子をうかがいに行ってみる。 …さあ、和田さんの反応やいかに!?

 「昨日は静かだったね。その調子で頼むよ」

 よし、成功だ!!

ライブ中は、どいつもこいつもとりあえずバカ騒ぎ!

 2日目。メインステージの狂乱のライブが少し押し気味で、11時ごろまで爆音が流れる!! いや、これはまずいか!? 
 さあ、今日の和田さんの反応は?!

 「聞こえなかったよ。気を使ってくれてありがとうな! あと1日、楽しんで帰ってね」と超上機嫌! ステーキの肉もいつもより分厚い。

 おっ、危ない危ない。大丈夫だったか。ちなみにさりげなく「昨日は何時頃お帰りで?」「11時過ぎだったかな」
 やばい! 明日は要注意だ!!

 さあ、いよいよ最終日! ところが、機材トラブルや手違いなどで時間が押しまくる! しかも、この日のラインナップはハードコアやメタルのライブだったので、音量もいつもより大きめ。う~ん、これはまずい…。とりあえず、音チェックで和田さんの家近くに走って行ってみたが、明らかに低音が響いている。ステージに電話して「聞こえてる聞こえてる!! もうちょっと低音下げて」と調整。

メインステージから第2ステージに向かう途中。ガキんちょも頑張って第2ステージへ!

 そうこうしているうちに演奏が終わって、次のバンドへの転換が始まる。ステージからは「15分ぐらいそこで待ってて」との指示。さて、我に返ってみるとどうもここは心細い。さっきは大慌てで走ってきたから気づかなかったが、この和田さんちの付近って山奥の会場と国道の間ぐらいだから、何もなくて恐ろしい。沢が近いからクマも出そうだし、オバケも出そうだし、この山を切り開くときに死んだ人の慰霊塔なんかもあったりする。おいおい、こんなところに一人でいるの心細いぞ。東京に帰りたくなってきた!! よし、至急ステージに電話だ! 「ここは寂しいから一旦戻るよ」→「いや、もうちょっとだから待ってて」 ちくしょう!!! ええい、こうなったら山賊でも妖怪でも出てきやがれ! こっちはリサイクル屋だぞ、このやろー!
 で、だれもいない山道にポツンと待っていたところ…、近くの草むらからなんとイノシシが走り出てきて、沢の方に降りて行った!!!! ギャー! イノシシ! しかも、あいつ足速い!!
 おい! そら見ろ! やっぱりあぶねえじゃねえか!!!!

メインステージ付近の様子。ここに全国の大バカな連中が集っていると思うとなかなか笑える!

 そうこうしているうちに、次のバンドの演奏が開始。ハッキリ聞こえる。これはまずい!! と思っていたら、フェス本部に和田さんから電話!「音聞こえるよ!」
 さて、翌日のワンハンドレット!

 「昨日はうるさかったねえ。おばあちゃんが『なんだか音が聞こえてきて寝られないねえ』って起きて来たよ」

 やはり! 「ありゃー、すいません!!」と平謝り! ただ、機嫌は悪くしてないようで、「来年は静かにな!」とのお言葉! いや~、危ない危ない。来年はタイムテーブル通りに進めよう。

 高円寺で店を中心に行っている活動は、やはり、ただ勝手に自分らのやりたいことをやるだけじゃなく、商店街だったり近所の人だったり、まったくセンスの違う人らとの調和がテーマだったりもする。商店街やら街のなかという地域に住むということはそういうことだ。
 そんななか、長野の山奥でやるイベントはちょっと違って、知り合いが知り合いを呼んできたり、いろんな告知を見て遊びに来たりと、来るべくしてくる奴らが集まってくるイベントだ。…と、思っていたら、結局、やはり地域との兼ね合いが出てきた。いやー、やはりこれも自治の一種だと思うが、何事においても、こういうことは重要だってことだね!!

 ということで、今年の『なんとかフェス2010』もなんとか成功! 今年来れなかった人は後悔するしかない!!

なんとフェス期間中は日刊で新聞を出していた! 和田さんのこともネタにして書いてたら、ひそかに和田さんもチェックしていて「おい、なんで俺が4コマ漫画になってるんだ!」と言っていた!!

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札幌の商店街でまちづくりに取り組む中島岳志さんも、
「地域社会に集まってくる人は、価値観も本当にさまざま。
だからこそ、そこで物事をまとめあげていく作業が重要」とおっしゃっていました。
センスも価値観も多様な人たちとの「調和」は、
どこで何をやるときにも最大のテーマ、と言えそうです。
ともあれ、山賊にも妖怪にもイノシシにもやられず、
無事に帰還した松本さん、おつかれさまでした!
行けなくって後悔しちゃったあなたは、「また来年」に期待しましょう。

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松本哉さんプロフィール

まつもと・はじめ「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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