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2013-05-08up

雨宮処凛がゆく!

第261回

2周目の新自由主義。の巻

 1年前の5月5日、この国のすべての原発が停止した。

 その翌日、原発ゼロを祝う「祝賀パレード」が開催されたことはこの連載の228回で書かせて頂いた通りだ。

 しかし、その後原発は再稼働され、自民党が政権を握り、「アベノミクス」という言葉にうっかり期待する人が続出する中、日本はトルコへの原発輸出に乗り出そうとしている。

 一方、ジュネーブで開かれたNPTの準備委員会で、核兵器の非人道性についての声明に日本は署名せず、そしてここ最近は、96条の改正を巡って「憲法」論議が今までにないほどの、ある種の「盛り上がり」を見せている。

 こんな動きを見ていて思うのは、1年前とはこの国の空気が随分変わっているということだ。

「アベノミクスに水を差すな」というような空気とでも言おうか。その空気は「経済のためならやっぱり原発は必要だよね」という雰囲気も作り出している気がして仕方ない。

 なんとなく、「景気への期待感」の中、大切なものがどんどんかき消されようとしているこの感じに、ずっと違和感と危機感を持っていた。

 4月25日に開催された「STOP!生活保護引き下げアクション」の院内集会でもそのことを強く感じた。この日、私は「自死した人」についての話を支援者男性から聞いた。今回の引き下げを受けて、彼のもとには多くの不安の声が寄せられているという。「これ以上引き下げられたら、もう切り詰めるものがない」「物価が上がり、生活保護基準が下がるということは、自分は消えろということか」「いつでも飛び込む準備はできている」等々。そんな中、そういった悩みや世間のバッシングの空気に耐えきれず、先月、一人が自死したというのだ。

「その時、真っ先にある議員の顔が浮かびました」

 男性は言った。私の頭にも、ある議員の顔が浮かんだ。

 弱者を切り捨てるような政策は、こうした形で、本当に人の命を奪っている。しかし、こうして院内集会で語られることがなければ、その死さえ知られることもない。

 こんな状況に、どうやって対抗していけばいいのだろう。

 そんな思いで5月4日、「自由と生存のメーデー2013 気をつけろ! 雑民の敵がいる」に参加した。

 この日は午前中に名古屋でイベントがあったためデモには参加できなかったので、集会から参加。そこで聞いた平井玄氏の話が、とても示唆にとんでいた。

 一番印象に残っているのは、平井氏が今の状況を「『2周目の新自由主義』」と名指していたことだ。

「自由と生存のメーデー」集会の様子。平井玄さん。

 以下、平井氏のレジュメからの一部引用である。

「(前略)『鉄の女』がイギリス首相になって34年。日経連『新時代の日本的経営』から18年。小泉政権から12年。『市場原理主義』から『新福祉社会』への曖昧な移行と曖昧な失敗(後略)」

 それが政権交代前のこの国の状況だろう。そして、「ネオリベの復習/復讐」と名付けられた章ではこう続く。

「(前略)すべてを市場のセリに賭ける『新自由主義』の基本アイディアを捻り出したフリードマンも、まさか『カネ』自体まで取り引きされるとは思わなかった。『勤勉』を神への奉仕としたプロテスタントがシカゴの相場師に成り変わったように、巨大企業の儲けの中心は『生産』ではなく、為替のサイコロを振る『財務』になる。ミラーの壊れた車は突っ走る。トヨタの差益は3月ひと月で1400億円である」

 そうして、一人だけ「再チャレンジ」に成功した安倍政権の「アベノミクス」とは。

「彼らは、一度目の失敗から貴重な『教訓』を得た。『2周目の新自由主義』を仕切るのは『1%』ではない。5%の濃い『富裕層』である。2012年秋には、純粋に金融に回せる資産(住むための不動産や生きるための所得以外!)が1億円以上という層は360万人、前年より8・3万人増で総人口の約3%、というデータがある(クレディ・スイス銀行「Global Wellness Report」)。恐慌は奴らを太らせたのである。

アフターパーティー!

 このとんでもない金持ちたちを4年後の2017年には540万人、5%にするのが『アベノミクス』だろう。安倍が2周目のスタートを切る3ヶ月前、世界最大の金融複合体は『5%の金力と暴力で貧乏人たちを押さえ込め』とアピールしたのである。この力が地球にのしかかる」

 平井氏の発言のあと、フロアも巻き込んで、様々な議論が行なわれた。ユニクロの「世界で賃金統一」や、柳井会長の「年収100万円も仕方ない」などが話題に上り、「2周目の新自由主義」の象徴的な言葉は柳井氏の「Grow or Die」(成長か、さもなければ死か)ではないか、という発言などがなされた。

 また、韓国から来ていた女性からは、「これまでは労働者はストライキとかで闘っていたけれど、金融資本の世界で稼ぐ富裕層に対して対抗するのにはストライキなどは通用しない、どう闘えばいいのか」という主旨の質問もなされ、議論は白熱。「『敵』は原発だろうとエコだろうとシェールガスだろうと儲かればなんでもいい」「『敵』はこちらを『人間』と思ってくれていると思わない方がいい」などといった言葉が飛び交った。

 結局、「結論」「答え」など簡単に出るはずもないので、集会はそのまま打ち上げに。場所を変えてアフターパーティーとなり、最終的にはみんなで踊り狂い、泥酔した私はDJに無理矢理デュエット曲をかけてもらい、「クラブイベントなのに無理矢理カラオケをする」という暴挙に打って出た上、その後の記憶がないのだが、「2周目の新自由主義」という言葉に、改めて、「今」を考えるヒントをもらったメーデーだったということだけは覚えているのだった。

アフターパーティーでニート・初男と。この後、無理矢理カラオケをする。

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大きな注目と批判を集めた、
ユニクロ・柳井会長の「年収100万円もしょうがない」発言 (こちら)
より恐ろしいのは、そうした「格差容認」の方向性が、
決してユニクロ一社だけのものではないことではないでしょうか。
もちろん簡単に「答え」が出るはずはないけれど、
黙って受け入れることだけはできないし、してはならないと思います。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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