マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ雨宮処凛がゆく!:バックナンバーへ

2011-02-23up

雨宮処凛がゆく!

第178回

立ち上がりはじめたお坊さんたち。の巻

高円寺の「なんとかバー」で松本哉さんと。

 世界各地で反政府デモが盛り上がる中、日本ではやはりその気配すらない。「どうしてだと思いますか?」と、人に会うたびに結構な確率で聞かれる。先に連合赤軍事件の爪痕については書いたが、この国の「教育」もひとつの原因ではないだろうか。

 というのも、日本について結構知っている海外の方と「なぜ、日本では不満を持った人たちが何もしないのか」という話になるたびに、「日本の教育の異常さ」が語られるからだ。とにかく、日本の教育は「教育」ではなく徹底した「管理」。そこで「自らの権利」を教えられることはなく、ただ「これをしちゃいけない」「あれをしちゃいけない」と「禁止」されることばかり。そんな中では、何か起きた時に「自ら行動しよう」という発想など生まれるはずがない、というものだ。

 これは非常に的を射ている意見だと思う。

 しかし、そんな中でも立ち上がっている人々はいる。例えば20日には、長野県の中川村で「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」に反対して村民380人がデモ行進。このデモの素晴らしいところは、村長自らが「エジプトに続いて声を!」とデモを呼びかけているところ。この村長、昨年の「自由と生存のメーデー」のトーク企画にもゲストとして来て下さったナイス村長で、当日は軽トラなどとともにデモが行われたらしい。行きたかった!

 ということで、今回はまた別の形で「立ち上がりはじめた」人々を紹介したい。それはなんと「お坊さん」たち。『ルポ 仏教、貧困・自殺に挑む』(岩波書店 磯村健太郎)には、活動家もびっくりの奮闘を続けるお坊さんたちが続々と登場する。

 ちなみに今まで貧困問題にかかわってきて、キリスト教の方々のイベントなどに呼ばれたことは何度かあった。また、教会がホームレス支援でやっている炊き出しは数知れず、ホームレス状態の人たちからも「教会に泊まらせてもらった」「キリスト教の人に助けてもらった」といった話を耳をする機会は少なくない。しかし、なぜか「お寺の人に助けてもらった」「お坊さんにお世話になった」という話は聞いたことがない。本書によると、日本にある寺院の数はコンビニ(4万店)の倍近く。これらのほんの一部でも「セーフティネット」的な役割を果たしてくれれば全国各地の人々がどれほど救われるだろう、と考える人は少なくないはずだ。

 もちろん、そんな中でも貧困問題などに積極的に取り組んでいるお坊さんたちも知っている。仏教の世界から何かできないか、といった声を頂いたことも何度かあるし、私の新刊『生きのびろ!』では、ホームレス支援活動や自殺の電話相談を受けながら、貧しい人の葬儀を支援したり、引き取り手のない遺骨を預かったり、時には自殺現場に駆けつけ、「骨を拾う」ところまで一切を引き受ける「アクティビスト僧侶」(勝手に命名)・中下大樹さんにインタビューもしている。

 しかし、やはり「仏教界」からのアプローチは今ひとつ。その理由を、私は本書で初めて知った。特に「自殺」へのアプローチが難しかった理由だ。以下、引用しよう。

 ただ、僧侶たちが動かなかった理由の一つに、教えをめぐる迷いがある。
 仏教は、『殺生してはならない』と説く。そのため多くの僧侶は自分のいのちを絶つのも悪いことと考え、その結果、たとえば自死遺族に何と声をかけてよいのかわからずにいる。一方で、だれかのために身をなげうつことをたたえる教えもあり、自殺を容認しているように考える者もいる。つまり、これまで自殺問題に対して、いったいどういう姿勢で臨めばわからないという事情があった。

 そうして僧侶へのアンケートを行ったりする中、教学伝導研究センターは、「仏教は自殺の是非を問わない」と結論づけたのだ。

 自殺の問題では、キリスト教でもいろいろあったそうで、特にカトリックでは自殺は神に対する罪、という立場から自殺した人へのミサや埋葬を禁止するなどトンデモない差別が行われてきたという。そんなカトリック、83年の新教会法で規定がやっと見直され、01年には「これまで自殺者に対して、冷たく、裁き手として振る舞い、差別を助長してきました」と謝罪しているのだという。

 ということで、本書には、読んでいて「頭が下がる」としか言いようのない献身的な活動をしているお坊さんたちが登場する。

 何も聞かずに誰でも無条件に受け入れる宮城県のお寺のお坊さん。リーマン・ショック後から困窮者の駆け込み寺となり、食事からお風呂から提供され、収入のない人には月五千円が支給される。また、大阪・釜ヶ崎近くのお寺には路上生活者のためのシャワー室と診療所が併設され、多くの人を助けている。同じく釜ヶ崎で亡くなった人の法要を手がけるお坊さんの川浪さんは、自らの父親が釜ヶ崎でその日その日の仕事をもらう肉体労働者だった。そんな川浪さんは20代なかばまでは様々な仕事をするものの、仏教に興味を持ち、27歳で僧籍を得る。その後、自分の「ルーツ」である釜ヶ崎の問題から目をそむけられないと、一時は自らも路上生活者に。三ヶ月間の路上生活と路上の人々とのかかわりの中で、「はじめて、ほんとうに出家した」気がしたという川浪さんは、路上生活の人たちが「無縁仏」にならないよう、合同墓をつくる計画も進めている。

 東京のNPO「ぽらたか」の尼僧、平尾さんもすごい。ホームレス状態や行き場のない人を自前の寮に受け入れるという活動をしているのだが、17人が暮らす「ぽらたか寮」はほぼ全員が認知症。身寄りがない高齢者に寄り添い、おむつの交換までする。また、身寄りのない人の葬儀も引き受けている。

 ちなみに、もし身寄りのないまま路上生活をしている人が亡くなり、遺骨の引き取り手がいなければ、「行旅死亡人」扱いとなり、そのまま無縁仏だ。中下さんにインタビューした時に驚いたのだが、そういった場合、花も何もなく焼かれるだけだという。生活保護を受けていて身寄りがないという場合も「福祉葬」で、行政から特定の葬儀業者に連絡がいって、棺に入れて焼かれ無縁仏に。何かそれは「弔う」というよりは「処理」といった感覚に近く、亡くなったあとまでそんな扱いを受けるなんて、と思うと寒気がするが、こんな現実に対して、お坊さんたちは立ち上がったのだ。平尾さんは「どうなってもいいような、いのちなんてない」と語る。

 本書には、貧困だけでなく、自殺問題に取り組むお坊さんたちもたくさん登場する。「お話聞きます」という張り紙をして、檀家かそうでないかなど関係なく、話を聞くお坊さん。24時間電話相談を受け付ける住職。インターネットで坐禅会やチャットをしつつ、ネットの人々と語り合うお坊さん。

 私が本書でもっとも共感したのは、路上生活者の炊き出しをする「ひとさじの会」のお坊さん、原さんと吉水さんだ。ともに30代前半の二人がそのような活動をすることになったきっかけは、「もやい」の稲葉剛さんに「身寄りのない人のための合同墓をつくりたいんです」と相談をもちかけられたことだった。まず実態を知ろうと炊き出し現場に訪れたのだが、病人が運ばれてきて、そのまま救急車に。「ああ、すごいことが起きているんだなあ」と知り、路上の人々があらゆる縁を失い、凄まじい孤独の中にいることを知った二人は合同墓を立て、今もホームレス支援のボランティアに出かけているのだ。

 そんな原さんは「もやい」の稲葉さんのことを「お坊さん以上にお坊さんに見える」と評している。

 「稲葉さんはお坊さんではないけれど、まるで立派な僧を目の当たりにしているような気がします」

 すっごいわかる! いや、稲葉さんもそうだけど、同じく「もやい」の湯浅誠さんにも同じオーラがあるのだ。私は以前から二人に「いつ最終解脱したんですか?」と聞きたくてたまらないのだが、まだその質問はできていない。そして私も、原さんと吉水さんのように現場に行き、「こんなすごいことが起きてるんだ」という衝撃を受けたこと、そしてその現場にいる活動家の人々が、本当に淡々と見ず知らずの人の生活や生存の立て直しをしている姿に感銘を受け、「知ったからには自分も何かしたい」と思い、活動にかかわりはじめたという経緯がある。

 とにかく、長らく沈黙を守っていたお坊さんたちが立ち上がりはじめたという現実が、今、とても嬉しい。また、本書を読んでびっくりしたのは、そのお坊さんたちには、もともと「お寺」となんの関係もない人たちが多いということ。とにかく、これから、「仏教の底力」を見守りたいと思っている。

『ルポ 仏教、貧困・自殺に挑む』(岩波書店 磯村健太郎)
※アマゾンにリンクしています

←前へ次へ→

お寺は、かつては、地域の学校であり、集会所であり、
コミュニティの中心的存在にもなっていたとか。
現代において「立ち上がりはじめた」人たちの姿に、
力づけられる思いがします。

ご意見・ご感想をお寄せください。

googleサイト内検索
カスタム検索
雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

「雨宮処凛がゆく!」
最新10title

バックナンバー一覧へ→