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2010-09-26up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第24回

菅改造内閣で記者会見オープン化はどうなる?
(その2)

●「クリーンでオープン」を本当に信じていいのか

 私は菅代表になってから、民主党の体質が徐々に閉鎖的になっていく気配を感じていた。それは9月2日に開かれた民主党代表選共同記者会見(フルオープン)の場で、最初に「幹事社による代表質問」が3問。その後、会場の記者から質問を受けるという旧来の「閉じた記者会見方法」に後退したことも影響している。そしてフリーランスの記者は一人も指名されなかった。
 それだけではない。まだある。菅民主党は9月14日の代表選で、記者クラブに所属しないインターネットメディアの中継を禁止しようと画策した事実があるのだ。
 代表選前日、民主党の広報担当者は、インターネット中継を予定していたニコニコ動画の七尾功記者にわざわざ電話をかけてきてこう言ったという。

「ネット中継はできません」

 しかし、その一方で、民主党は記者クラブメディアのTBSには、Ustreamによる中継を認めていた。これはダブルスタンダードだ。この事実を知った私は、急遽、抗議の意味を込めてiPhoneによるネット中継を行なうことにした。

(その1 http://www.ustream.tv/recorded/9560881
(その2 http://www.ustream.tv/recorded/9561016
(その3 http://www.ustream.tv/recorded/9561493

 結局、この「ネット中継禁止令」は直前になって撤回された。それは上杉隆氏、岩上安身氏をはじめとするフリージャーナリストや、良識ある国会議員の働きかけによって実現したものだ。結局、菅首相には記者クラブの抵抗を押し切ってまで情報公開を進める『強力なリーダーシップ』がないことが露呈する結果となった。
 それは官房機密費の使途公開に対する姿勢をみてもわかる。官房機密費には「記者クラブを含むマスコミ関係者に渡っていたのではないか」という“疑惑”がある。そのため、上杉隆氏、岩上安身氏は、記者会見でたびたび菅首相に質問をした。しかし、菅首相からは次のような答えしか返ってこなかった。

「官房長官に委ねている」(6月8日)
「官房長官の方にいろいろな判断を含めてお願いをいたしております」(8月10日)

 これは仙谷由人官房長官への“丸投げ”を意味する。この連載の読者ならご存知の通り、官房長官の記者会見に参加できるのは内閣記者会に所属する記者だけだ。つまり、官房機密費の問題をしつこく質問するフリーランスの記者は仙谷官房長官に直接質問できない。菅首相も仙谷官房長官も「記者クラブの壁」を都合よく利用しているといえる。
 しかも菅内閣は8月20日、共産党の塩川鉄也衆院議員が提出した「官房機密費の使途の検証」についてたずねる質問主意書に対し、次のような答弁書を閣議決定した。

「仙谷由人官房長官としては、取扱責任者として内閣官房報償費の使途等を検証するためには一年位の時間が必要であるとの認識だ」

 民主党は野党時代、機密費の使途を25年で公開する機密費改革法案をまとめていた。それが与党になって自分たちが機密費を握る立場になると、急に消極的になったのだ。

●菅首相自身は、本当に自分がオープンだと思っているフシがある

 菅改造内閣が発足した9月17日、私は首相官邸で菅直人首相の記者会見に出た。会見時間の58分間、私は手を挙げ続けたが、最後まで指名されることはなかった。
 そして驚いたことに、この回から会見の進行役が代わり、明らかに記者クラブの幹事社を優遇して指名するようになった。最初の3問の指名の仕方はこうだ。

「それでは、まず、幹事社の西山さん(朝日新聞)、お願いします」
「それでは、次の方、どうぞ。では、お隣の山崎さん(テレビ朝日)、どうぞ」
「それでは、次の方、お願いします。幹事社の高原さん(ジャパンタイムズ)、お願いします」

 官邸の記者席は、前から2列が幹事社の記者が座る指定席になっている。当初、進行役の男性は最前列の記者しか見ていなかった。そして最後まで後方に集めて座らされたフリーランスの記者を指名することはなかった。
 ただ、この日の会見では、ニコニコ動画の七尾功記者が視聴者からの質問を代読した。

七尾:首相会見は、このようにオープン化されております。これほど透明なことはないのですが、国のトップである菅総理の主導で、各省庁共通の条件下での会見のオープン化というものを政権運営のベーシックな方針として加えるお考えはありますでしょうか。
首相:いろいろな形で、できるだけオープンな政治をというふうに私自身も、我が党も思っております。具体的な形で、どこまで、どういうことが可能かということはありますが、できるだけオープンな形が望ましいということは申し上げることはできます。

 この答えを聞いて、私はがっかりした。まず、菅首相自身が「会見がオープン」と事実と異なることを言われても、少しも恥じることがなかったからだ。
 実際には、首相官邸の記者会見はオープンではない。それは過去に警察や検察の不祥事を暴いてきた実績のある「煙たい存在」のジャーナリスト・寺澤有氏を排除し続けていることからもわかる。「オープン」を掲げるのであれば、記者の参加条件を緩和するなどして枠を拡大し、「椅子の数を増やします」と表明してもいいだろう。
 しかし、菅首相にその気配はない。菅首相が本気で「自分はオープンな政治家だ」と思っているとしたら、それは極めておめでたい。
 菅首相はこの日の会見で、「有言実行内閣と呼んでもらいたい」とも言った。しかし、ニコニコ動画への答えには「有言」の部分が抜けている。だからなにも「実行」しなくていい。これは致命的だ。私は会見時間が予定より2分早く切り上げられると、暗い気持ちで官邸を後にした。

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「クリーンでオープン」な内閣を目指すという菅直人代表ですが、
記者会見での振る舞いはどうも疑問が残るものばかりだと指摘する畠山さん。
官房機密費の使い道についても、未だ明らかにされないいまま。
しかしなぜか世論は、小沢さんより菅さんの方を
「クリーン」だと選んだわけですが・・・。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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