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2010-09-25up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第23回

菅改造内閣で記者会見オープン化はどうなる?
(その1)

●小沢一郎首相が誕生すれば記者会見はオープンになっていた?

「これで記者会見オープン化の流れは止まってしまうのか…」

 9月14日、民主党代表選で菅直人代表が再選された。その瞬間、私は暗澹たる気持ちになった。
 理由は明白だ。この代表選に立候補していた小沢一郎候補と菅直人候補、そのどちらが記者会見オープン化に積極的かと言えば、まちがいなく小沢氏だったからだ。
 小沢一郎氏は代表選期間中の9月3日、テレビ朝日の情報番組『スーパーモーニング』に出演し、記者会見のオープン化についてこう語った。

「僕は今までどおりオープンにしたいと思います」

 また、翌4日の『ニコニコ生放送』の番組「小沢一郎ネット会見」でも記者会見のオープン化について問われ、こう答えた。

「すぐやる。首相になっても、ね」

 私が小沢氏の言葉を信じたのには理由がある。マスコミは小沢氏のことを「雲隠れする」「逃げる」と報道し続けたが、小沢氏ほどオープンな形での記者会見を開いてきた政治家を私は他に知らない。
 小沢一郎という政治家は、新進党、自由党、そして民主党と、記者会見に参加する記者に制限を設けてこなかった。参加したいと思う記者は、毎週一回、民主党本部で開かれる小沢氏の記者会見に自由に参加し、質問するチャンスがあった。
 もちろん、この定例会見の運用に全く不満がなかったわけではない。時間は20分から30分と短めで、質問を希望する記者すべてが質問できないことも多かった。民主党本部の記者会見では、司会役を務める副幹事長が事前に番記者の写真がプリントされた紙を広げ、番記者を中心に指名するという「疑惑の指名」もあった。
 しかし、記者会見をオープンに開くという小沢氏の姿勢は、「政治とカネ」の問題でマスコミから追及されていた間も一貫して変わらなかった。
 それでもなお、国民の間には「小沢氏は情報公開に消極的な政治家」というイメージが定着している。それは記者クラブメディアによる国民へのマインドコントロールが成功したからにほかならない。
 記者クラブメディアは「小沢氏がまた雲隠れした」と喧伝しながら、小沢氏が八丈島に釣りに出かけるところまで追いかけて撮影した。八丈島に行った小沢氏を撮影できなかった記者が左遷されたりもした。永田町は菅氏ではなく、反小沢を中心に動いていた。
 記者クラブメディアがもっとも恐れたのは、小沢一郎総理大臣が誕生することだった。記者会見をオープンにし、記者クラブの既得権を脅かしかねない小沢氏は、記者クラブの敵だ。だから彼らは小沢氏が法令上公開する必要のない政治資金まで公開していることや、毎週記者会見を開いていることを報じてこなかった。
 確かに小沢氏が陸山会に貸し付けた4億円の原資について、小沢氏自身の説明が二転三転したのも事実だ。しかし、「政治とカネ」の問題で名前が上がった政治家のなかで、毎週一回、フルオープンの記者会見を1年以上にわたって開き続けた人物は小沢氏以外にいない。そして1年以上にわたる検察の捜査の結果、小沢氏自身は不起訴となった。
 私は決して『小沢信者』ではない。しかし、「記者会見のオープン化」という一点で言えば、私は菅首相よりも小沢氏のほうに実行力があると期待していたのだ。

●菅首相になってから会見室の椅子がなぜか減少

 私は菅直人首相の記者会見に対する姿勢を「クリーンでオープン」だとは思っていない。これからその理由を書く。
 6月8日、菅直人首相は就任直後に首相官邸で記者会見を開いた。この時、鳩山由紀夫前首相時代からずっとセミオープンの記者会見に参加してきた私はあることに気づいた。
 なんと、記者会見場の椅子の数が減っていたのだ。
 鳩山前首相が首相官邸での記者会見をセミオープン化したのは3月26日。その時、記者会見場の椅子は全部で135席あった(フリーランス6席)。5月28日の二回目の会見では127席(フリーランス9席)だった。
 ところが6月8日の菅首相会見では、123席(フリーランス7席)。6月21日の会見では116席(フリーランス7席)と、だんだん椅子の数が減っていった。会見の場に入れる記者の枠を拡大し、立ち見の記者も入れるように椅子を減らしたのなら理解できる。しかし、そのような事実はまったくない。
【※その後、7月30日は122席(フリー7席)。8月10日は123席(フリー9席)、9月17日は123席(フリー7席)に復活】。
 以前もこの連載で述べたように、首相官邸での首相記者会見に出席するためには多くの理不尽なハードルがある。鳩山前首相時代から首相会見への参加を拒否され続けている寺澤有氏のようなフリージャーナリストも複数存在する。
 こうした状況が問題だと考えた私は、6月21日の記者会見で菅首相に直接「記者を制限する理由」について質問した。しかし、それから3カ月。状況は一向に改善されない。
 また、記者会見に割かれる時間をみても、菅直人首相が十分な時間をとっているとは言い難い。首相官邸ホームページにアップされた首相記者会見動画の収録時間は次の通りだ。これは首相の入場から写真撮影、会見、退場までの時間の合計だから、実際の会見時間はこれよりも短い。

・2010年6月 8日(59:11)
・2010年6月21日(42:46)
・2010年7月30日(38:44)
・2010年8月10日(30:18)
・2010年9月17日(58:53)

 平均すると約45分。しかも「予定の時間は60分」と言いながら、実際の会見時間は58分だったりする。鳩山首相が平均1時間だったのに対して、明らかに短い。
 これは官邸での記者会見に限らない。7月11日、参院選投開票日の菅直人代表の記者会見(フルオープン)の時間は20分。9月14日、代表選出後の記者会見(フルオープン)も15分。菅首相は、いずれも最後は逃げるように記者会見を切り上げた。

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記者会見のオープン化に積極的な小沢一郎氏と、
あまり積極的でない菅直人氏。
これは現場で取材をし続けてきた畠山さんの印象です。
さて、この姿勢は今度、どのような影響をもたらすのでしょうか?
いつもの更新とはイレギュラーですが、
4回連続の毎日更新でお届けします。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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