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この11月28日にイラクに派遣されていた航空自衛隊に撤収命令が出て、2004年から5年間に及んだ自衛隊のイラク支援活動に終止符が打たれました。これは、派遣の法的根拠となった国連安保理決議が2008年末で効力を失うことに伴う措置であり、本隊は年内に撤退を完了することになります。しかし、この空自の活動については、今年の4月に名古屋高裁が違憲判決を出し、司法判断が出たにもかかわらず、政府および政治家たちは、これまでの検証をしてはいません。
そんな中、アメリカが「テロとの戦い」の軸足をアフガニスタンに移すことから、日本にも財政支援だけでなく、アフガニスタン本土への自衛隊の派遣の要求も出してくるのでは? といった懸念が広がります。そして、自衛隊の海外派遣を随時可能にするという、恒久法の準備が進められているようです。
9条を変えなくても武装した自衛隊の海外派遣ができるようになる「恒久法」とは? その本当のねらいとは? お二人に語っていただきました。
伊勢崎賢治●いせざき けんじ1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある
土井香苗●どい かなえ弁護士、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 東大在学中に司法試験合格。2000年に弁護士登録。ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了後、ニューヨーク州弁護士資格取得。2006年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウオッチに参加し、2007年より現職。著書に『“ようこそ”といえる日本へ』(岩波書店)
編集部 自衛隊の海外派遣については、福田政権の時から言われていた「恒久法の制定を」という話があります。これが今、かなり具体的というか現実味を帯びてきていると思うんですけれども。恒久法ができると、それこそ自衛隊の海外派兵に関して、国会の議論や承認がなくても、送ることが可能になるんですよね。
伊勢崎 現憲法下で、9条を変えずにそれが可能になる。
編集部 前回のお話にもあったように、自衛隊の海外派兵や多国籍軍への活動支援には、「法的根拠」をめぐってのさまざまな駆け引きというかせめぎ合いがあるわけですが、でも恒久法ができれば、派遣させたい側にとっては、それらを一足飛びに解決してしまうというか。それこそ国会での議論も承認もなく、継続的に行けてしまうんですよね。
伊藤真先生は「マガ9」のコラムで「この法律はかなり問題だし、制定は絶対阻止しなければならない」と書いてらっしゃいますが、この恒久法に関して、お二人はどのように考えていますか?
伊勢崎 今年になって、ある党に呼ばれ恒久法について聞かれました。やはり、政権与党としては、本気で考えているんですね。つまり安倍政権が倒れて、護憲を支持する国民世論が高まっているというので、憲法を云々するよりも、現憲法下で恒久法をつくって、それでアメリカの集団的自衛権の枠組みで自衛隊が行けるようにするという、それが目的なわけでしょう。見え透いているわけです。僕は、今の政権与党にいる人たちの、法への理解や遵守については、信用していませんから。
でも、基本的に日本の世論も同じレベルでね。先ほどから何度も言ってますが、2つの法的な概念、つまり集団的自衛権と国連的措置の違いがわかっていないでしょう。そんな状態で恒久法をつくっちゃ絶対にダメです。じゃあ、そこがちゃんと理解できたら、作っていいのかという話になりますけれども、そこはあまり議論せずにいたいと思います。とにかく、今の政治状況、国民状況では、つくれる状態じゃないと思います。
土井 ちなみに伊勢崎さんは、恒久法が国連的措置に限って出せる法案だったとしたら、賛成側になりますか?
伊勢崎 そこは今、すでにPKO協力法がありますが、PKO参加の5原則(*)があり、縛りがありますからね。
編集部注:日本が国際平和協力法(PKO協力法)に基づき国連平和維持活動(PKO)に参加する際の基本方針のこと。
1)紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
2)当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
3)当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4)上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
5)武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。
(外務省HPより)
土井 すると、恒久法が5原則を緩和させるような法案だったらどうか・・・。その場合は、そもそも、PKO法の改正法案でいいのかもしれないんですけど。
伊勢崎 そうですね。
土井 じゃあ、そういうものだったら、伊勢崎さんは賛成になりますか?
伊勢崎 今、国連のブルーヘルメットへの派遣まで否定してしまうと、じゃあ、日本は何もしないのかっていう話になってしまう。
僕は、ブルーヘルメットであれば、出すべきだと考えます。国連のブルーヘルメットで動くということは、国連に指揮権を委ねるっていうことです。そこであれば、9条から一応距離を置けると思うんです。「国権の発動たる戦争」ではないということで。これはあくまで解釈の仕方としてですけど。ブルーヘルメットは、国際条約としての国連憲章の、国連加盟国としての義務、いわば「国連権」の発動という解釈です。
しかし、個々の派兵の政治判断は別の話ですよ。
土井 それは伊勢崎さんの政治判断として?
伊勢崎 はい。それはなぜかというと、どの国も国益をまず見据えて国連の平和維持活動に参加するわけです。日本は自衛隊を国連PKOに出す法的な枠組みは持っていても、派兵はPKO活動の中の色々なオプションの一つに過ぎないわけで、日本は個々のケースの中ではまず国益や外交的リスクを見据えて、派兵以外のオプションをとる政治判断をする。そのオプションが、例えば非武装の軍事監視団のように高度な中立性が要求される役割だったら、他の国以上に日本は適役で、まさにWinWinの状況がつくれるわけです。
土井 私としては、自衛隊を海外に送るかどうかという議論しか行われなくて、ほかに、日本が今すぐできるし、もっとすべきことがあるにもかかわらず、そうした議論が全くされないのが良くないのでは、と思っています。本当はもっとできることが、あるいはやらなくちゃいけないことがあるのに、すぐ、「(自衛隊を)出すか出さないか」の議論に収束されるのは、嫌ですね。
日本人が死ぬかもしれないじゃないかとか、だからそういうことをしなくても済むようにしたいだけというのは、民間人が多数殺されている事態を放置することにつながる。例えば、国家主権を超える「保護する責任」といった概念も出てきて国連全加盟国も認めたのですから、保護する責任をどうやって果たしていくか、という議論などが、どうしてこれまで起こってこなかったのかな、と思います。
編集部注:「保護する責任」ある国家の政府が自国民を保護する責任を果たせない、もしくは果たさない場合には、国際社会全体がその人々に対する保護の責任を負うとする考え方。2005年の国連サミット成果文書などにも明記されている。
伊勢崎 そういう議論をしていかないと、いかなる自衛隊の派遣にも反対する議論だけでは、一国平和主義の謗りは免れないでしょう。私は恒久法をつくるのは阻止したい、これは別に感情的な問題じゃなくて、現状のPKO法で対処できるから。しかし、現状のPKO法でできる可能性も否定しちゃったら、これは対立意見としてはちょっと説得力がないと思うのです。
土井 世界じゅうにいろいろな重要なPKOがありますが、例えばどのケースが、日本が積極的に参加できると思いますか?
伊勢崎 スーダンなんかへ出したPKOは、いいと思います。
土井 スーダンのダルフールでは、今、危機にある民間人の命を救うためにPKOの全面展開が緊急に必要です。日本の自衛隊が行かなくても、ネパールなど、いろいろな国がPKOに自国軍を出すと申し出たのに、スーダンの政府が、アフリカ諸国の軍隊しか受け入れたくないなどとして、受け入れを渋ってきました。しかしダルフール危機は、数十万人が死亡し、200万人以上が避難民となっている大規模な人道危機。5年以上も前から虐殺が始まったのに、今も、スーダン政府とその代理民兵組織ジャンジャウィードがダルフールの人びとを攻撃しています。PKO展開も国連安保理で決まったのに、実際の展開は、スーダン政府の抵抗が続き遅々として進まない。国際社会はなんて無力なのか。今すぐに、全面的な救済に出て欲しいと強く思います。
ですから私も、PKOを否定するわけではない。現状に人道危機があるわけですから、必要です。そういう地域にはPKOに行ってもらいたい。
日本のような国は、軍隊を出さなくても大きな貢献ができます。例えば、ネパールの兵士を含むPKOがスーダンで展開できるよう、スーダン政府にプレッシャーをかけるとか。
伊勢崎 スーダンの国連平和維持軍の最高司令官はナイジェリアのアグアイ将軍で、彼とはシエラレオネの国連ミッションで一緒に働いたのです。その彼がこの間CNNに出ていて、スーダン政府の抵抗をかいくぐり国連PKOの増派が承認されたけど、肝心の兵力、装備が集まらない。特に、PKO活動には必須の軍用ヘリコプターさえない。数台でもいいから! なんて、ほとんど泣きそうな顔をして訴えていましたが、こういうことにも日本は素早く反応してほしいです。
土井 あれだけ広大な地域を限られた数の平和維持部隊で守るわけですから、スーダンでは、ヘリコプターも必要です。もし、憲法上可能ならば、機材貸与の点でも、日本政府に是非協力してほしい。
ルワンダの虐殺が起きるのを事前に知っていたのに、すべての国が人びとが殺されるにまかせた。あのときの失敗が、国連そして国際社会のトラウマだと思うんです。ルワンダで起きた虐殺は、後に、ジェノサイド(集団虐殺)の罪や人道に対する罪として、その後、国際刑事法廷で裁かれました。しかしまた、残酷な虐殺が、今、スーダンで起きている。それを、国際社会としてまた見捨てることはできないはずです。アフガニスタンでも、内戦や民間人の殺害が続いてきました。国際社会は、争いの中で苦しむ一般人を見捨ててはならない。
じゃあそんな中で、日本が現状で何ができるのかということを考えたときには、日本が使うべきものは政治力・経済力だと思います。まさに、内政に働きかけていくというのは政治力でしょう。復興支援を行うことのできる経済力にバックアップされた政治力は、国際社会から最も求められているのでは、と思いますね。そしてそこが日本の強みではないでしょうか?
編集部 恒久法の話にちょっともどしますが、先ほど伊勢崎さんの話に出た政治家とのやりとりで、現状、彼らがどういう議論というか、方向性を持っていると感じましたか?
伊勢崎 恒久法成立に向けた動きの中で、危険だなと思う議論が2つあります。それは与党の議員とのやりとりなんかでわかってきたんですが。やはり恒久法をつくるためには国民を説得しなきゃいけないでしょう。そのときに使うわかりやすいメッセージの1つが「邦人保護」というものなんです。つまり、自衛隊がいるところで日本人のNGOが活動しているとき、日本人が危機に陥ったときに、自衛隊はそれを見過ごすのか? 助けないのか? こういう話は、非常にわかりやすいんです。そして危険な状況で日本人を救出するには、武力行使が必要なんだという話。
今の法律だと、自力で自衛隊の基地にたどり着いた邦人の保護はできるけれども、自衛隊が救出のために外に出かけていけないんですよ。だから、それができるような法律を作りますと。さて、我々はこれにどうやって反論します?
それに加えて、もう1つの危ない議論は、「民軍協力」というわけのわからない概念が、今この分野の研究者の間から出ています。軍による民生支援のことです。特にアフガニスタンでは、アメリカのアフガン政策の中でPRT(地域復興支援チーム:武装勢力との戦闘が続く危険地帯や戦闘終了後の不安定地帯に軍の防護つきで復興要員の文民を派遣すること)という議論が起こり、伝統的な「軍民協力」が更に概念的に発展しました。だから日本の研究者も盛んに注目するようになって、軍がNGOなど民間団体といかに協力するかという話になっている。
今、防衛省も、それから外務省も、政府系のシンクタンクも、これを盛んに言い出してます。だってわかりやすいでしょう。海外で災害が起こったときに、まず自衛隊が行く。その後に日本の援助団体が公的資金をもって入っていってバトンタッチする。美しい連携じゃないですか? わかりやすいでしょう。事実、やってますよね。パキスタンで自衛隊とNGOが。これが、多分、彼らが考えている国民向けの一番強いメッセージなんですね。
編集部 じゃあ恒久法も、そういう災害援助のときにすばやく出動できるために必要ですよという議論に集約されていくんでしょうか?
伊勢崎 そういう口実を使うんです。しかし本当の狙いは、日米協力なんですよ。日米の集団的自衛で、日本がアメリカの戦争に参加できるようにするというのが、恒久法の本当の目的でしょう。しかし、そこを言うと支持しない国民は多いでしょう。怒り出す人も出てくるでしょう。だからあくまでも「邦人保護」と「民軍協力」。巧妙というか、見え透いてます。しかし、これにちゃんとした反論しない限り、このまま成立までいくでしょう。
編集部 そうですよね。民主党の議論をみていたって、恒久法に関しては賛成ですから。
伊勢崎 ですからその2つに関して、私はこう反論しています。まずは民軍協力の話から。この概念はあり得ないです。この概念は、軍の観点から生まれた言葉です。NGOからの発想ではありません。つまり、海外駐留する多国籍軍は必ず現地社会への浸透をこころみます。ハーツ・アンド・マインド。人心掌握です。軍事作戦の脅威となる危険分子は地元社会に潜んでいるわけですから、なるべく地元社会をこちらがわに付けておかなければなりません。できるならば、そういう危険分子の情報も得たい。つまり諜報活動の一環です。その際に、地元社会に一番浸透しているのはNGOですから、軍としては、それと喉から手が出るほど協力したい。
民軍協力というのは、あたかも現場の緊急的ニーズから自然発生的に出てきたように喧伝されているわけですけれども、これは全然違う。繰り返しますが、これは軍からの発想です。原則、欧米のNGOは、Non-Governmental Organizations、非政府組織である意識が非常に高く、体制からお金をもらうことさえ、非常に気をつかいます。国家権力と、どう距離を置くかです。ましてや、国家権力の象徴である軍事組織との提携なんて、もっと気を遣うし、NGOという概念上、あってはならないことと考えます。これが日本であり得るんだったら、日本のNGOがNGOじゃないという話になります。
伊勢崎 もう1つの邦人保護ですが、これも絶対あり得ないものです。国連平和維持活動下のNGOと国連の関係の例をあげましょう。多くの大手NGOは、いわゆる“国連の下請け”的な仕事をやっていることもあります。だからもし何か起こったときに、そこに駐留している国連軍は、NGOに対して保護の義務があるという議論は1990年代にあったんですよ。僕はそのときに現場にいたんですけれども。しかしこれは、制度として失敗しているんです。
僕は国連側の人間として、NGOを保護する立場にいたんですけどね。国連は、提携関係にあるNGOを保護する措置を取ろうとしたことがあるんです。しかし、その保護というのは代償がつくんです。それは、NGOは国連の保安体制の中に入る、つまりNGOは保安に関して国連の命令を聞かなくてはならない、ということです。それはそうでしょう。ふだんから好き勝手なことをやっていて、こちらの注意も聞かずにやっていて、危機だけ起こったときに保護を求める、そんなばかなことはできないわけで。国連という組織が保護を提供するということは、その組織の危機管理体制の中に組み込む、ということなんですね。つまり、これは命令なんです。国連の職員だったら、それに反したらすぐクビなんです。そのぐらい厳しいものなんです。それで初めて保護ができるわけです。
NGOにそれができるかって言うと、できません。NGOというのは、体制の命令を聞いちゃいけない。国連が出ていっても、人道的にニーズがあれば、独自の判断でNGOは残らなきゃいけない。これがNGOに課せられている存在意義なんですね。
事実、国連がそれをやろうとしたときには、国連の命令に従うということを条件にして、一応保護できる体制を作りました。しかしそこに入りたいというNGOは、どこもありませんでした。それはそうでしょう。自分たちの存在意義がわかっているNGOだったら絶対入りませんよ。
国連平和維持軍でさえ、正式な契約関係にあるNGOに対して、法的な保護義務を実働できないのです。
だから、NGOで活動をしている邦人を、自衛隊が保護をするという状況は、法的にはあり得ないのです。
危機のときには、機転を働かせてみんな助けるんです。国連平和維持軍も目の前にいるNGOを見殺しにすることはしません。しかし予め、法的な関係を持つか持たないかといったら、持たないんです。これ、わからないでしょうね、日本では。
編集部 たしかに大変ナイーブであり、伝えにくいことですね。
伊勢崎 日本人が困っているところに、自衛隊が迅速に助けに出かけていけるための法律を作るというのは、わかりやすいでしょう?
編集部 ええ。そっちのほうが断然わかりやすい。
土井 恒久法では、自衛隊に、海外で活動する日本のNGOなどを助ける義務が課されるのでしょうか?
伊勢崎 そうでしょうね。僕がよく聞く一つの事例なんですが、1999年から東ティモール国際平和協力業務として、東ティモールへ国連平和維持軍の後方支援として自衛隊が行ったでしょう。あのときは、現地に日本のNGOがいっぱい働いていたんです。そこで1回、大規模な暴動が起こったんです。自衛隊法上、助けを求めて基地に入ってきた人間は保護できるんです。でも、助けに外に行けない。だってそんなことをしたら、法的には武力行使になっちゃう。
だから、あのときに自衛隊は何をやったかというと、一応、町中の視察のために車両で外出した。そして、そこでたまたま日本人に遭遇したという形にして、一人ひとり基地まで運んだ。彼らは現場でこういう機転を働かせたんですね。これが1つの美談として語られているのですが、こんなことをいちいちやらざるを得ないのは、恒久法がないからだという議論になるんです。
土井 恒久法が、今お話しされたような形でできたら、世界各国にいる日本人を保護するために自衛隊が出動できることになるのでしょうか?
伊勢崎 基本的には守り以上のことをするわけですよね。武器も持っていくだろうし、場合によっては、武力行使ができるというところまで。
編集部 例えば、PKO派遣法を改正して5原則の緩和をというだけでは、足りないような、自衛隊の海外派兵を考えているということでしょうか?
伊勢崎 PKO派遣法は、このごろほとんど議論されていないでしょう。しかし、新しい法律をつくることばかり話題になっている。それは、日米の集団的自衛権の枠組みでやりたいからなんです。
編集部 国際貢献とか、邦人保護とかではなく、やはり真の目的は、アメリカがする戦争に対して、一緒にできるために恒久法をつくるということですよね。
伊勢崎 じゃなかったら、国連的措置と集団的自衛権をごっちゃにするようなことは、しないでしょう。わざとその操作が行われているとしか、僕には思えないんです。
編集部 そういうことなんですか!
土井 各人道危機の状況についても、取られたあるいは取られるべき国連的措置についての議論も、日本の政治ではほとんど議論されてきていない。日本での議論はいつも、自衛隊を出すか出さないか、ただそれだけになってしまう。そこにいつも違和感があります。今現在起きている人道危機の中で、人を助けるには、治安を守るには、何が一番必要なのか、ということから議論が始まるべきです。国連的措置は1つ発動されることもある。だけどそれは、逆に言えば、一部でしかないんです。でも、ほかにも、日本政府が、憲法の制約にまったく触れない形で、治安の確保のために直接やれることもたくさんあります。
編集部 自衛隊の海外派兵をどうするのか? その法的根拠をどうする? という話ばかりをメディアも追いかけていて、人道危機における日本がやれる国際貢献の議論が、ほんとうにないですね。
土井 今、まさに伊勢崎さんが言っているように、日本がアフガニスタンの政権の立て直しに政治的指導力を発揮する----たとえば、公正な警察そして裁判所の再建、不処罰の蔓延を断ち切るトランジショナル・ジャスティス、表現の自由の確保や女性の権利の保護、そしてもちろん復興支援など、いろいろな方法があると思うんです。また、米軍に対するアドバイスも必要です。米軍をはじめとするOEFの戦闘で民間人が多数殺害される空爆戦術が多用されているのに対してその変更を求めたり、収容所での処遇の改善などを求める。同盟国としての親身の忠告があれば、ここまでアフガンの民心が米国をはじめとする国際社会から離れてしまうこともなかったでしょう。人びとがアフガン中央政府や国際社会に愛想を尽かし、また、怒っていることが、タリバンの徴兵を促進しているのですから、米軍の戦略は非生産的なのです。
それが、このような「何がアフガンの治安回復と民間人保護のために必要か」という議論が全く不在の中で、ただ、自衛隊派遣か否かばかりが議論さ、集団的自衛権と国連措置がごっちゃにされてしまうような素地が生まれてきたのかなあ、というふうに思えます。
今、まさにアフガンの人々は危機に立っている。で、その人たちのための治安回復や保護についてはぜんぜん議論しないで、ただ、日本が米国にどうやって協力するかという観点だけから語られてしまうのはあんまりです。一度、国際社会はアフガンの人びとに一度、アフガンをよくする、安全にする、豊かにすると約束したのに・・・人々に対して極めてひどい。こんなことは、何というか・・・
編集部注:「トランジショナル・ジャスティス」移行期における司法、正義。内戦や独裁体制から民主主義体制への移行期における、過去の暴力や人権侵害による被害に対する取り組みを指す。
伊勢崎 不遜ですね。
土井 不遜! 本当に! 今のこの瞬間にも世界の紛争地域では人間が死んでいるんですから。そういうことで、アフガンの人びと不在の議論に、怒りを感じてしまいます。
一足飛びに「恒久法」制定に向けての議論をする前に、やるべき議論は他にたくさんある、
という根本的なことを、土井さんの話を伺いつつ、改めて納得。
「民事協力」「邦人保護」といった、まやかしの議論にきっちり反論しつつ、
真の「人道支援」「日本がやれる国際貢献」について、考えていきたいと思います。
対談は、その3に続きます。
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