憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。
|「マガジン9」トップページへ|マガ9レビュー:バックナンバーへ|
2013-07-17up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
vol.220※アマゾンにリンクしてます
東ベルリンから来た女
2012年ドイツ製作/クリスティアン・ペツォールト監督無愛想な映画である。説明的な語り口はほとんどない。観客の「なぜ?」「どうして?」という問いも平気で無視する。しかし、観る者を画面に引き付けて離さない力がある。
舞台は1980年の東ドイツ。バルト海沿岸に近い小さな町だ。そこにある病院に、東ベルリンから女性医師バルバラが赴任してくる。彼女こそ無愛想の極み。同僚に微笑みかけることなどなく、周囲の人間は首都から来た鼻持ちならない女だと思う。
物語が進むにつれ、バルバラはかつて西ドイツへの移住申請を出したためにこの地に左遷されたこと、いまも東ドイツの秘密警察(シュタージ)によって、スパイ行為を行っていないか、定期的に家宅捜索と身体検査(肛門のなかまでチェックされる)を強いられていること、それでも西ドイツに住む恋人と密会し、東ドイツを脱出しようとしていることがわかってくる。
しかし、監督はそうしたシーンでも登場人物たちの感情を無理に掘り起こそうとはしない。一瞬垣間見える心の襞を捉えようとする。ストイックな映像だ。
バルバラはアパートの地下室に捨て置かれた自転車を修理し、自宅と病院を往復するため、東ドイツに入国した恋人と森の中で会うため、そして東から西への脱出を図るために乗って走る。緊張を伴った移動――。これほどまで自転車が効果的に使われる映画がかつてあっただろうか。
東ドイツのイデオロギーを嫌悪しつつも、西ドイツへいけば「ぼくの稼ぎならば、君は働く必要もなく、ゆっくり眠れる」という恋人の囁きに違和感を抱く。そして目の前にいる人間のためになされる彼女の決断が静かに身に沁みる。
バルバラを演じるニーナ・ホスが、心にまとった鎧を少しだけ下ろし、彼女の無愛想な表情が美しさを帯びていく。その過程にすべてが詰まっているといっても過言ではない作品だ。
日本ですでに公開された東ドイツをテーマとする『グッバイ、レーニン!』や『善き人のためのソナタ』とはまた質の違う、素敵な映画を見せてもらった。
(芳地隆之)
マガ9レビュー
最新10title
マガ9のメルマガ
↑メールアドレスを入力して、ぜひ『メルマガ9』にご登録ください。毎週、更新ニュースを送らせていただきます。/Powered by まぐまぐ
登録解除はこちらから↓
「マガ9」コンテンツ
- 立憲政治の道しるべ/南部義典
- おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」
- 川口創弁護士の「憲法はこう使え!」
- 中島岳志の「希望は商店街!」
- 伊藤真の「けんぽう手習い塾」リターンズ
- B級記者、どん・わんたろう
- 伊勢崎賢治の平和構築ゼミ
- 雨宮処凛がゆく!
- 松本哉の「のびのび大作戦」
- 鈴木邦男の「愛国問答」
- 柴田鉄治のメディア時評
- 岡留安則の『癒しの島・沖縄の深層』
- 畠山理仁の「永田町記者会見日記」
- 時々お散歩日記
- キム・ソンハの「パンにハムをはさむニダ」
- kanataの「コスタリカ通信」
- 森永卓郎の戦争と平和講座
- 40歳からの機動戦士ガンダム
- 「沖縄」に訊く
- この人に聞きたい
- ぼくらのリアル★ピース
- マガ9対談
- 世界から見たニッポン
- マガ9スポーツコラム
- マガ9レビュー
- みんなのレポート
- みんなのこえ
- マガ9アーカイブス