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2013-02-27up
北関東にある小さな町の中学校で起きた、一人のいじめられっ子の死を巡る物語である。本書の帯には「事故か、自殺か、それとも――」とサスペンス調の宣伝文句が記されているが、仰天するような結末が待ち構えているわけではない。
それでもミステリアスだ。何が? 人間、とりわけ14歳という「多感」などという言葉ではくくれない、中学生の心の在り様が、である。
部活棟の屋根から落下したのが原因と見られる、中2の少年の死体が発見されたところから物語は始まる。しかも遺体の背中には、つねられたことでできた無数の青あざがあった。冒頭は読者をぐいぐいと引っぱるスピーディな展開だ。その後は謎解きのニュアンスを漂わせながらも、じっくり丁寧な筆運びへと変わる。
警察による捜査の結果、4人の同学年の少年が拘留された。2人は逮捕、2人は児童相談所へ。14歳と13歳では扱われ方が違う。取り調べの結果、4人はつねった事実は認めたものの、少年の死に直接かかわった証言も証拠もなく釈放される。
真実は彼らの釈放後、少年の死に関わる中学生、親、教師、刑事らの目を通して徐々に明らかにされていく。
こう書くと、2009年に発行されベストセラーになった湊かなえの『告白』を連想する方がいるかもしれない。同書の手法は登場人物たち、それぞれの視点から一人の少女の死を語るというものだった。本書のそれは、各人の視点、彼、彼女たちの感情を積み重ることで、どうして少年は死んだのかの全体像を浮かび上がらせる。
私は本書を読みながら、校内暴力で荒れていた自分の中学校時代を思い出し、また中学生の子供をもつ親として、自分だったらどういう行動をとるかをシミュレーションしながら、ときに息が詰まりそうになった。それでもページを繰り続けたのは登場人物たちのリアリティだ。亡くなった少年の、芝居気たっぷりの叔父、被疑者の少年の祖父に依頼された、ぞんざいで横柄な弁護士には不快感も覚えるが、それらをひっくるめて言動に説得力がある人物描写がそれを支えている。
本書を読んだ今、いじめや体罰などによる生徒の自殺といった報道を通り一遍に聞くことはできなくなった。対応に右往左往する学校を責任回避などと簡単に批判できない。
人一人の死の背後に人間の様々な感情が渦巻いていることを知ってしまったからである。
(芳地隆之)
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