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2013-02-06up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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9条どうでしょう
(内田樹、小田嶋隆、平川克美、町山智弘/ちくま文庫)本書は2006年に単行本で出版された。当時の安倍首相は政権の目標のひとつとして、日本国憲法第9条の改正を掲げた。そして、自衛隊を国防軍に変えることを公約に挙げて、再び首相に就任した昨年、本書は文庫化された。
1項で「戦争の放棄」、2項で「戦力の不支持」「交戦権の否認」をうたう9条について、条文の改正を主張する人は、敵が攻めてきても丸腰でホールドアップするのかと憤りを隠さず、守るべきと訴える人はその理想のもつ崇高さを称える。
憲法が施行されてから65年の間、9条を巡る議論では論敵が相手を罵倒あるいは無視するか、むき出しの感情をぶつけてきた。その結果、この問題を語ろうとする者は、「国民の半分を敵に回す」ことを覚悟しなければならなくなった。
手垢のついた、論ずれば損をするだけと思わせる「9条」にあえて考察を加えたのが4人の著者である。彼らは独自の視点から、この問題をほぐしていく。
内田氏は、9条はその誕生からして、複雑な状況にあったことを指摘する。日本国憲法には、アメリカ人が自国で実現できなかった理想を文言化したものという性格と、日本を2度と戦争をできない、とりわけアメリカに敵対することのない国にするという強い意志を含有している。不戦の誓いと自衛隊の存在もアメリカにとって矛盾するものではない。
このような観点をもたない限り、不毛な議論は終わらないだろう。ところが日本国民はそれを矛盾として受け入れ、葛藤しながら生きてきた。そして、この間、日本は戦争をせず、自衛隊は外国人を誰ひとり殺すことはなかった。日本国民の知恵ともいえる。
軍事マニアを自認する町山氏の論は明快だ。ドイツの基本法はテクニカルな部分では修正を加えられているが、根本理念の修正は禁じられていること、米国憲法は国民が国家に対して武器をもって立ち上がる権利さえ認めていることなどを紹介しながら、9条を変えるのに賛成するなら、徴兵制を敷くべしと主張する。そして賛同者には「ぼくといっしょに軍隊に入ろう」と訴える。その覚悟がないなら、軽々しく改憲を説くなというのである。
小田嶋氏の語りは自らの皮膚感覚に正直だ。9条が私たちに何か不都合をもたらしたのか? 憲法は現存する私たちの人生よりも長い未来を見据えていることを同氏は強調する。
安倍政権は集団的自衛権の行使は可能との憲法解釈を進めようとしているが、先般、オバマ大統領は日本のそうした動きは中国を刺激するとして、支持の表明に難色を示した。そこには東アジアにおけるアメリカの国益という観点だけでなく、アメリカがつくった理想の憲法を日本が骨抜きにすることへの不快感もうかがえる。
アメリカ建国以来のリベラリズムの伝統を軽く見てはいけない。
私は9条の内容の是非よりも、「こういう人に憲法を変えてほしくない」という平川克美氏の言に共感した。
「戦争そのものを否定するという迂遠な『理想』を軽蔑するものは、軽蔑されるような『現実』しか作り出すことはできないということである」
現実だから仕方がないと頭を垂れるような憲法を誰がもちたいだろうか。
(芳地隆之)
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