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2012-09-12up
日本外交の裏側まで知り尽くした著者であるから、知られざるインテリジェンスの世界を垣間見せてくれるのだろう――。そうした先入観をもって本書を手にしたのだが、そこで語られるのは、公開文書、学術書、回想録など、膨大な資料を渉猟した上で浮かび上がってくる戦後史の全貌であった。
日本の戦後は8月15日の天皇の玉音放送をもって始まったのではない。9月2日、東京湾上に停泊した米国の戦艦ミズーリの甲板上で当時の日本の外相、重光葵が降伏文書に調印したときからである。戦勝国アメリカは、日本人の生活レベルを中国はじめとするアジアの国民以上のものにしてはならない、公用語は英語にするなどの政策を考えていた。完膚なきまでの敗戦だった。
それを戦後史のスタート地点として、著者は対米自立をめざす動きと、対米従属をよしとするそれの2つの潮流を軸に歴史を語っていく。そうした視点から見ると、歴代の首相のうち、日本の早期独立を実現したと高く評価される吉田茂が米国の意向に沿って国の方向を定めたこと、米国従属の典型とみられていた岸信介が日本の自主を目指したことなど、私たちのイメージを覆す指摘が少なくない。米軍の沖縄駐留は、昭和天皇の意向が強く反映されたという事実も重く受け止めなければならないだろう。
対米自立を模索する政治家が米国の圧力や策略によって、あるいはその意を受けた国内勢力によって失脚させられる。その繰り返しは、日本の指導層に「米国の国益に反する行動をすればこうなる」と思い知らしめるのに十分であったと想像する。中国への接近を図った田中角栄や、田中の外交の流れを汲む小沢一郎を訴追した検察庁の前身が、GHQの指揮下の「隠匿退蔵物資事件捜査部」で、終戦直後、日本人のお宝を探し出し、GHQに差し出す役目を担っていたことは本書で初めて知った。沖縄普天間基地を「最低でも県外」と主張した鳩山由紀夫が、大手メディアから寄ってたかっての批判を浴びたことは記憶に新しい。
本書を読み進めるうちに無力感や屈辱感に苛まれそうになるが、著者が引用する石橋湛山の言葉を反芻したい。終戦直後、大蔵大臣だった石橋は、膨れ上がるGHQの駐留経費を削減しようとして公職追放された際、こう語ったという。
「あとにつづいて出てくる大蔵大臣が、おれと同じような態度をとることだな。そうするとまた追放になるかもしれないが、まあ、それを二、三年つづければ、GHQ当局もいつかは反省するだろう」
本書が説得力をもつのは、元外交官である著者が自らの主観を極力抑え、事実をもって語らせているところにある。本書が「陰謀史観」のレッテルを張られることを避ける意図もあったのではないか。
本書が語る史実が多くの国民に共有されれば、日本は新たな国づくりを始められるはずである。
(芳地隆之)
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