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2012-08-22up
権力の側が違法なことをしているのであれば、カメラマンは法を犯してでもそれを撮影し、告発しなければならない――1921年生まれの報道写真家、福島菊次郎はそう言ってはばからない。かつて防衛庁への取材申請を通して自衛隊と軍需産業内部に入り、事前チェックを無視して隠し撮りまで敢行したのは、憲法を大きく踏み越えたこれら組織・企業の実態を公にするためであった。
福島はその後、暴漢に襲われて重傷を負い、自宅を放火されるのだが、彼にとっての本当の痛み、すなわちシャッターを押すことをためらわせるものは別のところにある。
1951〜1960年にかけて福島は広島の被爆者、中村杉松さんに密着する。原爆症の苦しみに苛まれる中村さんは、福島が自分の元を訪れ始めてから数年後、「自分をカメラに収めることで仇をとってほしい」と言った。それから福島はやせ細った彼と貧しい生活を送る6人の子供たちの日常を撮り続ける。そして中村さんの死後、お悔やみに出向くと、息子に「帰れ!」と怒声を浴びせられる。福島は、自分の行為が息子をはじめとする子供たちにどれだけ不快な思いをさせていたのかに気づいていなかったのだ。福島がショックを受けたり、自らの仕事に疑問を持ったりするのは、こういうときである。
福島がその後、被写体として選んだのは、三里塚闘争の学生や農民、ウーマンリブの活動家、公害の被害者……。彼の向ける目の先には常に国家に踏みにじられる、あるいは見捨てられる人々がいた。
さらに天皇の責任を問う全国巡回写真展を経て、福島の足は福島県の原発事故半径30キロ圏内の南相馬市へと向かう。
建物の急な階段を上がるときはおんぶしてもらい、愛犬ロクとの散歩は短い歩幅でゆっくり進む福島だが、ひとたびカメラを手にすると、彼の身体はかくしゃくたる動きを見せる。荒涼とした避難指定地域に立つ老カメラマンの姿には「業」という言葉が似合う。
俳優・大杉漣の低く落ち着いた声の朗読もこの映画を構成する重要なファクターだ。たとえば戦後、アメリカが設立した原爆調査委員会(ABCC)についての語り。ABCCが10万人以上の被爆者を対象に放射線障害の実態について研究を始めたのは、治療のためではなかった。目的は同国の核開発のための資料づくりである。被爆者には有無も言わさず採血を行い、何枚ものレントゲン写真を撮った。ABCCは被爆者が亡くなると、遺体を遺族から数千円で買い取り(原爆で亡くなった中村杉松さんの奥さんもそうだ)、解剖実験を行った。その数は5,000体を超えたという。
ABCCの行為はナチスによるアウシュビッツでのそれと何が違うのか? 戦勝国であれば人道に反する罪は免れるのか? 大杉の声を通して福島の憤りが私たちに伝播する。
本作品のタイトル『ニッポンの嘘』は、日本を覆う強大な権力の嘘でもあった。
(芳地隆之)
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